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腐った既得権益 ベルガ商会編

第38話 ベルガ商会を弱らせろ!

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 俺は元ルギラウ王城の廊下をエミリさんと並んで歩いていた。

「リーズさん、どうするおつもりですか? またかなり無茶な命令としか思えませんが……調査の結果、元ルギラウ王がベルガ商会に今まで売っていた物の独占売買権を全て譲渡してましたし……」

 エミリさんがため息をつく。

 ベルガ商会との顔合わせが終わった後、奴らと元ルギラウ王との約束を調べたが恐ろしいことがわかった。

 こんな契約が奴らの元で結ばれていたのだ。

 『全ての商品はベルガ商会の許可なくしては販売できず』

 これはつまりベルガ商会が全ての商品に関して、独占売買権を得ていたことになる。

 端的に言うと例えば俺が魔動車を発明して売ろうとすると、ベルガ商会が特許や製造許可、更には作成方法の知識など全権を得るという。

 どんな権利だ、マジで信じられなくて顔が引きつったぞ。

「一商会にこれだけの権力を与えるとは、いったいルギラウ王はどんな頭の構造をしていたんだ……」
「商会長のギーヴが元ルギラウ王と親族らしいですよ」
「うわぁ……」

 アミルダ様から与えられた指令はベルガ商会の弱体化。

 正直こんな商会なら力づくでぶっ潰したいところだが……今の俺達がそれをするとデメリットがある。

 アミルダ様は今後は周辺国に侵攻する予定のはずだ。 流石に平気で同盟裏切って攻めてくる国に囲まれてるのは国防上論外過ぎるからな。

 その時に攻め込んだ場所の商人を味方につけられなくなる。

 例えばビーガンやモルティに侵攻した時、そこの土着の有力商人の力を借りたい。

 侵攻時の物資支援、土地占領後に統治への協力を要請したい。

 なので土着の商会に対して、既存の権益はなるべく守ると見せたいのだ。

 もしここで特権を無理やり奪い去ったら、モルティやビーガンの有力商人は次は自分の番になるのを恐れる。

 絶対に俺達の侵攻を防ごうと意気地になるし、俺達が土地を占領した後も従わないので統治に問題が起きてしまう。

 逆に俺達が話がわかる交渉相手となれば、有力商人は嬉々として力を貸すだろう。

 彼らは国と心中する必要はないのだから。なので証人を味方につけるために理由なしの暴力は使えない。

 合法的というか奴らは商売で倒さなければ。

 だがそれは決して容易なことではない。武力を以て制圧を禁止させられているので、奴らの土俵である商売で勝負しなければならない。

 例えば俺達が奴らよりも安価でよい物を売れば、ベルガ商会から買う人がいなくなる。

 そうすれば奴らは金がなくなっていき、協力者も消えていき自然と弱体化していくのだ。まさに金の切れ目が縁の切れ目。

 ベルガ商会が力を失って商品を売る力がなくなれば、独占売買権を没収する大義が生まれる。

 もうお前たちは商品売れてないよね? 売れない奴に独占売買権持ってる資格ないよね? 国政滞るし没収するから! という完璧な論理である。 

 だがここでネックがある、問題の独占売買権だ。

 それのせいで俺達側で独自に売れる商品がない。ベルガ商会が許可しなければ売買禁止されて終わってしまう。

 凄まじく酷すぎる権利だが勝手に取り除くと、周辺国家の商人からも白い目で見られる可能性が高い。

 いくら卑劣な方法で入手したとしても、商人からすればそれは極めて重要な権利だ。
 
 それを王の一言で正当な理由なしにではく奪すれば、他の商会もハーベスタ国がもし権力を握ったら自分達も奪われるのではと考える。

 そうなれば各国の商会はハーベスタに味方せず、俺達は商業において四面楚歌になってしまう。

「確かに無茶ではありますがいつものことです。無理ではありませんし」
「何か策があるんですか? ベルガ商会はこの国の商売を掌握していますよ? 麦や鉄など何を売るにしても、ベルガ商会が独占売買権違反だと言ってきますよ」

 本当にクソだな。

 自動取得の全商品の独占売買権……どんなによい商品を作ったとしても、ベルガ商会がそれは我らが独占売買権を持っていると叫べば終わりだった。

 だがその権利にも穴がある。いやアミルダ様が風穴を開けたというべきか。

「確かにそれは厄介です。でも独占売買権が与えられていたのは……今まで売って来たものだけですよね?」

 すでにアミルダ様が独占売買権自動取得は禁じた。

 今までに与えられた権利は現状では奪えない。だが今後の新商品にこの権利は付与されないのだ。

「……あ、もしかしてトウモロコシを売るんですか?」
「そうですね、もちろんそれだけではありませんが」

 奴らの独占売買権への対策、それは今まで絶対に売られてこなかった物を売買すること。

 トウモロコシはこの世界に存在しない食べ物だ。

 ベルガ商会がどれだけ文句を言おうが奴らに権利はない。

「他にも何かあるんですか?」
「ええはい。ついでなのでハーベスタの国力……いや石高を増やしたいんですよ」
「???」

 豊富な食料があれば人口も増える。

 人口が増えれば経済の拡大にもつながるし、純粋に集められる兵士だって多くなるはずだ。

 兵糧不足などに悩まされることもなくなり、軍事作戦が取りやすくなる。

 食料の多さは国の富に直結するのだ! 中世くらいの文明だと特に!

 じゃあ食料をどう増やすかだが……単純だが作物の実りをよくすることだろう。

 具体的には反収を上げることだ。反収とは決められた土地の広さごとの収穫高である。

 狭い土地でいっぱいの作物が収穫できたらお得だよね! ということである。

「麦に代わる作物を用意しますよ。とりあえず流行らせて、栽培体制は後で考えますが」

 ベルガ商会に教えてやろうじゃないか。お前たちの思い通りにはいかないと。




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 ベルガ商会本部の建物の会議室にて、ギーヴと二人の幹部が相談を行っていた。

「あの小娘め! 我らがこの国の商売を独占するのを拒否したというのか!」
「何様のつもりだ! 女の分際で!」

 彼らは激怒していた。

 せっかく賄賂まで用意してやったのに、小娘風情が自分達の申し出を断ったことに。

「バカな奴だ。この国でベルガ商会なしで商業が成り立つはずがない! すでに生産系ギルドはほぼ全てを我々が掌握しているのだ!」
「まったくこれだから現実の見えていない小娘は……不要ですよな」
「無論だ、我らをないがしろにする者が国を治めればこの国が滅んでしまうわ」

 ギーヴたちは揃って大きくため息をついた。

 彼らには今までルギラウ国を経済的に支えてきた自負がある。

 それを無視する王など存在価値がないし、無能に決まっているのだと確信していた。

「なので我らに用意できる最も高値の商品を手土産に、アーガ王国に国土を売るべきだろう」
「それはよい考えだ。あんな小娘よりもよほど話になる相手だろう」
「だが最も高値の手土産とは何だ?」

 不審に思う二人に対してギーヴは下卑た笑みを浮かべた。

「アミルダ女王だ。アレは女でありながら王であり好事家の垂涎の的なのだよ。快進撃を続ける美しき気高き女王……あの者をよがらせ屈服させたい者は多いのだ。うまくやれば小国ほどの値段がつく」
「ほほう! それは素晴らしい! ルギラウ国を取り戻しつつ、金も儲けられるとは!」
「流石はギーヴ様ですな! その商才は真似できませぬ!」
「ふふん。まずはこの街をより貧しくして食料などを行き渡らせなくするのだ。そうすれば死人が大勢出てあの小娘は民衆からの支持をなくす。そして我らに泣きついてくれば、後は思うがままだ」

 人を人と思わぬ最低の行為。彼らにとって民衆の命など銅貨よりも軽い。

 ルギラウ国に巣くう癌こそがベルガ商会であった。

 三人は身の毛がよだつような醜悪な笑い声をあげる。

 ……アミルダは何故か下卑た心の持ち主には物凄くモテてしまう。今回も標的にされてしまったのだった。

 
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