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四国同盟編
第33話 死因は自惚れ
しおりを挟むアミルダ様たちの軍に合流するため、俺は魔動車で道を爆走しながらアミルダ様の無事を祈っていた。
ルギラウ国は三千の兵、対してこちらは千と敵のほうが三倍も多い。
しかもこちらが攻める側。防衛に対して攻める側は三倍の数が必要とのことなので、本来なら我が軍は九千必要なのに。
いくら装備に差があったとしても我が軍の不利は否めない。
……そう思っていた時期が俺にもありました。
戦場にたどり着いて見えた光景は、ハーベスタ軍の兵士が敵軍を蹴散らしている姿だった。
しかも我が軍は敵を囲んでいるわけでもなく、普通に正面からぶつかって圧倒していた。
ルギラウ軍の矢は鉄の盾で全て防がれ、対して我が軍のクロスボウ部隊は敵を木の盾ごと粉砕していた。
「ば、バカな!? なんで鉄の盾なんて持ってるんだ!? 報告になかったぞ!? しかも敵の弓兵が地面に盾を立ててやがる! こちらの弓防がれてるぞ!?」
「盾が貫通されるなんて!? なんだよあの弓!?」
ははぁ。どうやらルギラウ国は俺達の軍の情報を仕入れて、対策を取って来たつもりだったようだ。
クロスボウの弱点は連射性と射程だと気づいていたらしいな、確かに普通の弓に比べてクロスボウは射程が短い。
つまり自軍が敵のクロスボウ部隊への近接戦を狙う場合、普通の弓よりも敵の矢に晒される時間が短くなる。
なので多少の犠牲を前提にして接近してしまおうとの考えなのだろう。
だが彼らには大きな計算外がある。
アーガ王国軍はロクな鎧も着こんでなかったので、クロスボウの威力について把握できてなかったのだ。
クロスボウはプレートアーマーも貫通するほどの破壊力を持っていて、中世ヨーロッパの戦争の仕組みを変えたくらいなのだから。
中世ヨーロッパでは騎士は戦争で死ななかった。
鉄の鎧を着こんでいたので死ぬまではいかず負傷で済んで、賠償金で元の国に帰ることができた。
だがこのクロスボウが生まれたことによって、騎士が鎧を貫かれて戦死者が増えたのだ。
なおその対策として捕らえられたクロスボウ兵は処刑されたらしい。
平民が騎士を殺すなんてとかそんな理由だったはず、理不尽ここに極まれりである。
もう戦いの趨勢は決まっているので、急いで我が軍の後方に向かう。
するとアミルダ様が腕を組んでルギラウ軍を睨んでいた。
「む? リーズか、援軍に来たのなら無駄足だな。もう勝利した……あまり嬉しくはないが」
「ムダな戦なのである! アーガ王国という敵がいるのに潰しあうとは!」
バルバロッサさんも不愉快そうに叫ぶ。
そうなんだよな、俺達が完勝してもこの戦いは微妙というか。
本来なら味方だった戦力を潰してしまったのだ。
「本来ならばルギラウ国の兵は殺さずに接収したいところだが……ここで生かして帰すと王都の防衛戦力になるからな。殲滅するしかない」
「あー……ルギラウ王がこの戦いを見て、勝ち目がないと降伏してくれたりは……」
「するわけがない。あの男がそんな殊勝なことをするわけが……む? 総員、戦闘を一時中止せよ!」
アミルダ様の視線の先、そこには白旗を掲げた敵の指揮官がいる。
我が軍の兵士たちは命令によって戦闘をやめた。
もう敵軍は壊滅状態、こちらが一方的に蹂躙していたので停止しても反撃などは来ない。
そして弓などが止んで安全と判断したのか、ルギラウ王が馬に乗って前に出てきた。
「アミルダよ、見事な采配だ! ここまでは互角と言えよう!」
……俺の耳がおかしくなったのだろうか。
ここまでボロ負けしているのに互角!? 何ならこちらはまだ切り札のバルバロッサさんが戦場に出てないんだぞ!?
「意味が分からぬのである! アミルダ様、さっさと討ってしまいましょうぞ!」
「まあ待て。降伏してくれるならば都合がよい」
アミルダ様はバルバロッサさんを手で制した後、盾兵を数人伴ってルギラウ王に近づいていく。
「ルギラウ国は我らに降伏する気になったのか?」
「いやいや! まだ決着はついてないのにそれはおかしい! 我が軍はまだまだ生き残っている! こちらのほうがまだ兵士の数は上だ!」
……物は言いようである。
ルギラウ国はたぶん千人くらい戦闘不能で残り二千、対して我が軍は被害ほぼゼロで残り千。
残りの兵数だけで言うならルギラウ国のほうが多いな!
……馬鹿かな? 後一時間もすれば逆転すると思うのだが。
「それに君たちは我がルギラウ国に勝ったとしても、この後にアーガ王国とも戦わねばならぬ! ムダな争いは避けるべきだ!」
「お前が言うなである!」
バルバロッサさんが激怒している。
一方的に同盟破って攻めて来ようとしておいて、よくもまあこんなこと喋れるものだ。
「前置きはよい。つまり何が言いたい?」
「……決闘だ! この戦争は代表者の決闘にて決着をつける! この決闘で負けた側が戦争の敗者! 勝った側は勝利者として相手の国の全てをもらい受けられる!」
馬鹿だろ。
何ですでに勝った俺達がそんな条件を飲まねばならないのだ。
だがアミルダ様は顎に手をつけてしばらく考え込んだ後。
「ふむ。その言葉に嘘偽りはないな? ここで全兵士に向けて宣言してもらおうか。この一騎打ちで負けたらルギラウ国は降伏すると」
「アミルダ様!?」
「もちろんだとも! 我が兵士たちよ! 私が一騎打ちで負けたらその時点でわが国は降伏する!」
ルギラウ国は物凄く嬉しそうに高らかに宣言した。
その言葉を聞いて逃げ纏っていた敵兵士たちは立ち止まり、俺達の方をじっと見続けている。
「そうか、ならこの場で一騎打ちだ。そちらの代表者はどうせお前だろう。こちらは軍の司令官だが文句は言わせんぞ」
「もちろんだとも!」
……あー、なるほど。
アミルダ様の狙いがわかった。このまま敵を逃がしたら、敵は都市に引きこもって攻城戦になってしまうだろう。
それは最悪だ。仮にこの後に俺達がルギラウ国を占領できたとしても、ひどくボロボロの状態になってしまう。
だがここで降伏させることができたら、ほぼ無傷のルギラウ国が手に入ると。
そして……我が軍には天下無双の豪傑がいるのである。
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(くくくっ! やったぞ! 一騎打ちにもっていけた! 私は王でありながらルギラウ国最強の剣士! その腕前はボラスス神聖帝国の神聖騎士すら上回る! 私は決闘で負けたことがないのだ!)
ルギラウ王は内心ですでに勝利を確信していた。
事実として彼の剣技の腕は優れている。剣一本でも十分に食べていける実力はあった。
貴族同士の決闘ならばこの大陸でも有数の実力を持つだろう。
(ふふふ……アミルダ、私の剣技の腕前を忘れるなんて! やはり洗脳されているんだね!)
そもそもアミルダはルギラウ王の剣技に興味がなかったので、昔からずっと聞き流していただけである。
最初から覚えてないのだから忘れるも何もない。
そして彼は取り返しのつかない勘違いをしていた。
「バルバロッサ、さっさと終わらせろ」
「やっとぶちかませるのである!」
「……は?」
ルギラウ王は思わず呆けた声を出してしまった。
バルバロッサと呼ばれた者が全身に金属鎧を着こんで、かつ超巨大な丸太を担いで出てきたからだ。
「何をやっている! そんな姿で決闘するバカがいるかっ!」
「これは決闘ではなく一騎打ちである! どんな装備だろうと勝手であろう!」
「……は?」
アミルダはしっかりと一騎打ちと宣告し、ルギラウ王もまたそれを承諾した。
戦争で相手を殺す一騎打ちと、貴族がルールを決めて行う決闘は違うのだ。
そしてここは戦場であった。
バルバロッサが身の丈を超える大きな丸太を軽々振り回すのを見て、ルギラウ王は自分の持っているロングソードに視線を移した。
誰がどう考えても勝てる見込みはなかった。
いくら彼でもそれくらいは理解できる。故に……。
「……ふ、ふざけるな! 平民風情が王に武器を使っていいわけがなかろう!」
王の権力を使ってうやむやにすることにした。
(こ、こんなの決闘じゃない! こんな卑劣なだまし討ちだなんてアミルダはやはり洗脳されている!)
ルギラウ王は必死に頭を回転させてこの場を乗り切る道を探す。
彼からすればまだまだ勝ち目はあった。この局面を乗り切って王都に逃げれば、引きこもって籠城ができる。
そうすればハーベスタ国は撤退する。アーガ王国が後方にいる以上、本国をずっと空けておくことはできないのだから。
「……はぁ、もうよいのである。これならば文句はないであろう! 吾輩は素手でよい!」
バルバロッサは持っていた丸太を放り投げ、着こんでいた金属鎧も脱いでしまった。
それを見てルギラウ王はほくそ笑んだ。
「あ、当たり前だ! 王相手に剣を向けるなど何様のつもりだっ! 行くぞっ! わが剣を受けよっ!」
ルギラウ王はバルバロッサが心変わりしないうちに速攻で襲い掛かる。
だがこれは最低最悪の行為だった。
仮にも彼の言う決闘であったならば、戦いの前にも礼などのマナーはある。
この時点で言っていることは矛盾していた。これはもはやルール無用の一騎打ちだと彼の行動が告げている。
ルギラウ王は勝利を確信して笑いながら、鋭い剣の突きをバルバロッサに繰り出した。
「死ねぇ!」
一撃必殺の突き。今までどんな相手にも防がれたことのない得意技。
それをバルバロッサは親指と人差し指で摘まんで受け止めた。
「…………は?」
「何と言うか、怒りを通り越してお主は本当につまらんのである」
バルバロッサはヒョイと剣を奪うとそれを横なぎに振った。
「え……」
その一斬はルギラウ王の首を綺麗にはねたのだった。
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