上 下
21 / 134
惨敗将軍ボルボル編

第21話 ハーベスタ国に暗雲

しおりを挟む

 ボルボルを袋に詰めて送り返した翌日。

 俺達は評定のためにアミルダ様の屋敷に集まっていた。

 今日からはセレナさんも参加することになる。

「今日よりセレナがリーズの配下として雇われることになった。彼女は厳密にはハーベスタ国に仕える者ではなく、リーズが直接雇っているのを意識しておけ」
「「はい」」

 アミルダ様の説明に対して、エミリさんとバルバロッサさんがうなずく。

 セレナさんは俺が直接雇っている部下という扱いになるので、状況次第ではハーベスタ国の指示系統から外れることもある。

 まあそんなことを言ってはいるが、皆はセレナさんと仲の良い友人だ。

 たぶんアミルダ様たちも仕事依頼をするだろうし、セレナさんも快くそれを承諾するだろう。

 別にそこは俺も不満はない。そちらのほうが効率などもよいし。

「それで愉快な報告と不快な報告がある。まずは不快な方からだ。アーガ王国の大貴族であるシャグ伯爵が、我が国に対して決して許さぬと宣告してきた」
 
 アミルダ様は手元にある紙を眺めながら呟く。
 
「ボルボルの父親ですよね。確かセレナさんの元々の雇い主で、酷いことをしてきたとか……そうですよね?」
「……二度と顔も見たくありません」

 セレナさんの悲痛な顔だけでも、シャグがクズな人間であると確信できる。

 ボルボルの親という時点でヤバさMAXだし……本人はまともな可能性が微粒子レベルであったがそれもなさそうだ。

 俺はシャグのことを名前しか知らないが、ボルボルを産んだ親という時点で好印象などあるわけがない。

「奴は三劣のシャグという異名を持つ男だ。奴は周辺諸国に恐れられている。ボルボルの親だからと甘く見るな」
「三劣って何ですか?」
「奴を表現するのに三つの言葉を使う。下劣、醜劣、賤劣だ」
「異名というかただの悪口では?」

 どう考えてもその三つの言葉によいイメージが皆無である。

 ボルボルの父親と聞けばすごく相応しそうな気はするが。

「奴の異名の由来を最後まで話そう。シャグは下劣で醜劣で賤劣。その鬼謀、常人の倫理を容易く破る」
「人間性終わってるからまともな思考じゃ想像つかない策をしてくる感じでしょうか?」
「そうだな。奴は大貴族でありながらその思考に誇りはない。だからまさか大貴族がするとは到底思えない策を平気でしてきて周辺諸国を困惑させている。例えば敵国の貧民街に毒入りのパンを配り、死体を大量に出して疫病の流行を狙うなどだ」

 ひ、ひでぇ……ボルボルの性格を更にクズにした感じかよ……。

 でも毒入りのパン配りなんて失敗しそうな気がする。そんなの町で配ってたら憲兵たちに即バレそう。

「奴の策は雑なので基本的に失敗するが、万が一成功したら恐ろしく効果的だ。事実としてセレナの弱みにつけこんで買収して息子へと手渡していただろう。彼女が本当に敵対していれば脅威だった。少なくとも他人の弱みにつけこむ情報収集能力は侮れぬ」
「た、確かに……」

 ボルボルが墓穴を掘ったので、セレナさんは俺達に牙を剥く前に裏切ってくれた。

 でももし奴がもう少し狡猾であったなら、優秀な魔法使いに苦しめられていたかもしれない。

「それでシャグが我が国を完全に目の敵にして動いている。どんな卑劣な策略をしてくるが分からぬので警戒して欲しい」

 性格の悪さも突き抜けたら厄介なんだなぁ……確かに俺もボルボルの思考回路は理解できる自信ない。

 つまりそれは敵の考えを読めないということになる。

「それで愉快な方だが、アーガ王国内で我らを異名で呼び出したと間者から報告を受けている。せっかくなのでお前たちにも伝えておこう」

 異名ねぇ……『軍神』とか『甲斐の虎』とか『第六天魔王』みたいな感じか。
 
「ほほう。三劣のシャグのような感じでしょうか。とうとう吾輩も敵に恐れられる存在に」
「そう言われると欠片も嬉しくないのでやめてください……」

 俺もエミリさんの意見に激しく同意だ。三劣は異名じゃなくて悪名だよな……。

「私は『獄炎の魔女』だそうだ、特に面白みもないな。バルバロッサは『ハーベスタの唸る竜巻』」
「ほほう、竜巻でありますか。吾輩としてはもう少し武を強調して欲しかったのですが」

 アミルダ様とバルバロッサさんの異名は妥当というか無難だな。

 炎を操る魔法使い、そして丸太を振り回して咆哮し竜巻のように暴れる怪物。

 うん、何もおかしなところはないな。

「エミリは『光る煙突』」
「待ってください!? あんまりじゃないですか!? 変更を要求します!」
「私に言われても知らぬ。アーガ王国に言え」

 ……のろし代わりに光っていたからなぁ。

 言い得て妙かもしれないが黙っておこう。

「リーズは『極悪非道の裏切り者にして殺すべき大悪人、首を獲った者には金貨百枚』」
「もうただの悪口とお尋ね者では……」
「異名自体がアーガ王国内での士気向上のためだからな。こんな奴らがいたから我らが負けたのも仕方なかったのだとする言い訳だ。お前は元アーガ王国の人間なので、裏切り者アピールしたかったのだろう」

 アーガ王国め、考えることがしょうもない……。

 アミルダ様は少しだけクスリと笑うが……よく見たら薄い化粧をしていた。

 普段の彼女は化粧なんて全くしないのだが珍しい。

「そういうわけで今後もアーガ王国との戦いは熾烈を極めるだろう。各々、油断せずに職務を果たして欲しい。バルバロッサは兵士の訓練を、リーズは更なる軍備の強化を、エミリはその手伝いをせよ」
「え? 叔母様、私は政務を手伝ったほうが……」
「リーズはまだ来て二ヶ月。勝手も分からぬのだから補佐が必要だ。こやつの時間は黄金のように貴重なのだから。それにお前では見れないことも大量にあるからな」
「……で、でも叔母様、ずっと内政をひとりで」
「何もなければ解散する。各自、励むように」

 有無を言わさぬアミルダ様によって評定は終了した。

 エミリさんがすごく心配そうにしていたが大丈夫だろうか?

 でも入って二ヶ月の俺が口を挟んでもなぁ……ということで、ひとまず自分の職務を果たすことにした。

 セレナさんの使える魔法など聞いている間に夜になり、私室に戻ろうとすると廊下でアミルダ様とすれ違った。

「アミルダ様、お疲れ様です」
「…………」

 だがアミルダ様は返事をしてくださらない。おかしいな、普段ならむしろあちらから声をかけてくるのに。

 ……いや待て、何かふらついているような。

 そんな違和感を抱いた瞬間、アミルダ様はグラリと体勢を崩して倒れそうになる。

「!? アミルダ様!?」

 急いで彼女に抱き着いて支えるが……明らかに身体に力が入っておらず、意識を失っていた。

 あ、アミルダ様やわらかい……ってそんなこと考えている場合ではない!

 俺は即座にポケットから薬草を取り出して、掌にS級ポーションを造りだして彼女の口に流し込む!

 これで毒でも何でも治せるはず! でもなんにしても彼女をベッドに寝かせて看病しなければ!

「だ、誰か! アミルダ様が!」

 俺は屋敷中に聞こえるように大声で叫んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...