上 下
5 / 134
ハーベスタ国に仕官編

第5話 兵士全員に甲冑揃えます。でもそれだけじゃつまらない。

しおりを挟む

 俺は屋敷からしばらく歩いた先にある練兵所に訪れて、軍務担当のバルバロッサさんに挨拶をしていた。

「ぐははは! よく来たなぁ! 自分の仕事は大丈夫か!」
「もう一ヶ月分の仕事は終わりました。なのでバルバロッサさんの手伝いをしようかと」
「うむ! よい心がけであるな!」
「いやバルバロッサおじさん。仕事が速すぎることに突っ込みはないのでしょうか。S級ポーション三樽ですよ……」
「見張りのエミリ様が否定しないのだから真実なのでしょうぞ。早くやる分には問題ないのでは?」
「そ、そうなんですけど……」

 バルバロッサさんは「ぐははは!」と高笑いをした。

 そして俺をまじまじと見た後に一言。

「お主、もう少し鍛えるべきだぞ! 手伝いよりも訓練に加わるか?」
「いえ俺は魔法使いなんで……」
「何を言う! 魔法使いとて身体が資本! 魔力が切れた時に剣が使えれば戦えるぞ! 鍛えても損はない! まずは軽く腕立て伏せ千回からでよいぞ!」

 いかん、このままだとバルバロッサブートキャンプに巻き込まれてしまう。

 リーズの身体は素の状態ではあまり強くはない。

 それに俺にはドーピングがあるから鍛える必要はあまりないのだ。

「一理ありますが今はこの軍に足りない物を用意することで貢献しようかと。不足している物はありますか?」

 俺は生産系魔法使いなので自分よりも軍を強化したい。

 剣や鎧が足りぬならば生産し兵糧不足なら調達する。兵士が不足なら金を稼いで傭兵などを集めよう。

 さあ何が不足なんだ? 

「ぐははは! 全部足りん! 兵も武器も兵糧も練度も何もかもだ!」

 そっかー全部足りないかー……そうなると何から手を付ければよいやら……。

「あの、特に不足している物はありますか?」
「そうは言ってもな、根本的に何もかも足りんのだ。アーガ王国は万の軍勢を簡単に率いてくるだろう。対して我が軍は揃えられても千だ。兵士を増やそうにもわが国に勝ち目がないので誰も雇われてくれぬ」

 バルバロッサさんは真面目な顔で腕を組んでいる。

 負け確定の軍に雇われる傭兵なんていないか。皆、命あっての物種だろう。

 こちらは千で相手は万か。彼我の戦力差十倍、盛り上がってきたな。
 
「そもアーガ王国は総数なら十万以上の兵士を持っている。だが我々に降伏はあり得ぬ! 奴らに全面降伏すれば待っているのは民への暴虐ぞ! 従属するにしても我らの武を見せつけて、よい条件で講和に持ち込まなければ!」

 バルバロッサさんの咆哮で空気が震える。

 なるほど、勝ち目のない戦力差でも降伏しないわけだ。

 彼らもアーガ王国が非道極まりないことは理解している。そしてその考えは正しい。

 あいつらは本当にロクでもないからな。素直に降伏したら国が焼かれて酷いことになる。

「兵士は増やせないか。なら可能な限り彼らの軍備を整えて強化するのがよさそうですね。彼らの装備はどんな感じですか?」
「あそこで訓練している兵士たちそのものである!」

 バルバロッサさんの指さした先では、皮鎧を着た兵士たちが槍をつく訓練をしていた。

 皮鎧か、それに槍も穂先が欠けていたりであまりよいものではない。

「だいぶボロボロですが訓練用のものではないのですか?」
「アーガ王国のせいでまともな武器は手に入らぬ。周辺国に対して我らに武器を売ったら、お前らの国を滅ぼして主導者は皆殺すと脅しているのだ。逆に協力すればアーガ王国が国を侵略しても、王家だけは幸せに暮らさせてやると」
「その国の民が酷いことになりそうですね……」
「そもそもあの王国が約束を守るはずがあるまい。どうせ滅ぼした国の王家などは邪魔だと処刑するに決まっている!」

 流石アーガ王国、本当に悪逆非道の権化だ。

 そのおかげで俺も心を傷めずに自重せず好き放題できるわけだが。

 ならまずは装備を強化すべきだな。上等な装備を揃えるだけでも、兵士たちの実質的な戦力は大きく上がるはずだ。

「わかりました。ではまずは金属鎧と槍を人数分用意しますね」
「ほう? そんなことができるのか? だが吾輩は支払える金を持っていないぞ」
「構いませんよ。千個程度ならすぐ用意できます。それと変わった鎧も少しなら用意できます」

 普通の金属鎧だけでは戦力差十倍は覆せない。少し変わった物も試作してみよう。

 俺は【クラフト】魔法を発動して金属鎧を生産し始める。

 この魔法には特にチートなところがある。それは俺が望んだ物が理論的に生産可能だったら創造できることだ。

 そしてこの世界には魔法というものがあり大抵のことが実現可能。

 なので例えば振るだけでビームを出す剣や、透明になれるマントだって作り出せる。

 問題はそういった特殊な物は素材を揃えるのが大変で、素材なしで造る場合は魔力消費が激しいことであるが。

 この力はリーズよりも俺の方が遥かに使いこなせる。何故ならばこの魔法はどんなものを作るかのイメージ力が物を言う。

 日本で学んできた知識やアニメや漫画などを舐めるなよ!

 まずはお試しでひとつ。思いついた物をサンプルで造ってみるか。

 完成図を強く頭に思い浮かべる。するとその通りの姿をした物――紅蓮の色をしたプレートアーマーが出現した。

 銘は【業炎鎧】とでもしようか。もちろん普通の鎧ではない。

「むぅ? 随分と派手な鎧だな。まるで業火のようだ」
「銘は【業炎鎧】です。見てくれだけではないですよ。すみません、この槍もらってもよいですか?」
「別に構わん」

 近くの壁にかけてあった鉄の槍を手に取って、【業炎鎧】に向かって思いっきり突きを放つ。

 槍が鎧に直撃すると、次第に穂先の部分が熱でドロドロと溶け始めた。

「えっ? 槍が溶けてるっ……なんで……?」
「鎧を攻撃した物に対して、その攻撃エネルギーを利用して灼熱を与える魔法を埋め込んでいます。これなら敵も迂闊に攻撃できないかと」

 完全に溶けてなくなってしまった槍の穂、そして焦げもせずに残っている柄を眺める。

 やはり魔法の対象になるのは直接当たった部分だけか。

 実は攻撃してきた物の全てを消失させる感じにしたかったのだが、それは無理で造れなかった。

「素晴らしいな! だがこれは着れるのか? 触っただけで熱が出るならば装備もできぬぞ」
「それは大丈夫です。あくまで害意を持って鎧に攻撃した時にのみ発動します。例えば誤って落としてしまっても熱は出ません。ただこの鎧はあまり大量生産はできません。選りすぐりの数十人に渡すことになると思います」
「なんと! この伝説級の鎧を数十も揃えられるか! それは重畳であるな! この鎧を着た部隊を要所で前に出せば、敵軍を瓦解せしめるやもしれぬ!」
「え、おかしいと思うの私だけ!? リーズさん、あなた何者なのy……なんですか!?」

 バルバロッサさんは豪快に笑い続け、対してエミリさんは顔を引きつってこちらを見続けている。

 …………やばい、すごく嬉しい。 

 王国にいた時のリーズは何を作っても褒められもしなかった。

 一夜で砦を築いた時も「もう少し早く作れなかったのかよ」と言われただけだった。

 …………悔しいな、この言葉をリーズに聞かせてやりたかった。
 
「それと金属鎧と槍は全兵士分、数は千ほど用意しますね」
「なんと! 【業炎鎧】を数十揃えるだけでなくとは! これがあればアーガ王国を追い払うことも可能やもしれぬ!」
「ひ、非常識過ぎませんか……」

 そうして一ヵ月ほどかけて【業炎鎧】を三十、そして普通の金属鎧と槍を千個納品した。
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...