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ハーベスタ国に仕官編

第1話 散々利用されて殺された

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「なんでだっ!? 僕がっ、何をしたって、いうんだ!?」

 リーズという少年が散々蹴り飛ばされ、床に這いつくばって悲鳴のような叫びをあげた。

 そんな彼を私室に呼び出した三人の彼の上司は、全員が底意地の悪い笑みを浮かべる。

 彼らは全員が軍服を着ていた。だがリーズだけが一般兵で貧相なもの、他の者は上等な将官用の衣服だ。

「死ね! お前がいたらボキュの手柄が疑われるだろっ!」

 小太りの男――ボルボルが甲高い声で叫ぶ。

「リーズ、俺ってお前みたいな奴大嫌いなんだよ。バカだろ? 必要以上のこと真面目にやっちゃってさ。なんだその目は? 俺に対するあてつけのつもりか? あ?」

 細身の狐目をした青年――バベルが舌打ちをした。

「今まで手柄をくれてありがとう。でももう邪魔だから処分することにしたよ」

 見た目は整った女――アッシュがクスクスと見下す笑みを浮かべた。

「しょ……ぶん……?」
「そうよ。あんたの力を今後も振るわれたら、私たちの手柄が疑われかねないでしょ?」
「手柄って……全て僕から奪ったものだろっ!」

 アッシュ、バベル、ボルボルの三人は他に類を見ない速度で出世した超エリート。

 各自が誇れる成果をあげて抜擢された者達だった。

 アッシュは僅かな金銭と時間で剣と鎧を一万人分用意して、軍の勝利に多大な貢献をしたと認められて出世街道に乗った。

 バベルは敵城の前に一夜で砦を作り上げて、敵国の心をへし折ったことで勲章を得た。

 ボルボルは食べるだけで兵の力が増す薬草を発見し、かつその栽培方法を確立して評価されている。

 だがその全てはリーズが行ったものだ。他人の手柄を全て横取りして彼らは昇進していった。

 その功績を奪う手腕だけは見事なもの。

 そしてリーズは優しすぎた。今まで彼らの強奪を許していたのだ。

 誰がやったことでも軍のためになるのだから、自分でなくてもいいのではないかと。

 結果として本来なら数えきれない功をあげた彼は未だに一般兵だった。

 挙句の果てにこうして手柄を奪った者達が、その功績で得た身分を利用してリーズを呼びつけて処分しようとしている。

「そういうわけだから……やりなさい。でもまだ殺したらダメよ? 死体は臭いから運ぶ時に疑われる」

 更にボルボルとバベルが前に出て、すでに倒れ伏しているリーズを何度も執拗に踏みまくる。

 更に足を勢いよく振りかぶって思いっきり蹴り倒す。

 その衝撃でゴロゴロと床を転がっていくリーズは、血を吐きながら信じられないといった表情を浮かべている。

「だ、誰か! 誰か助けてくれっ!」
「無駄だ。とっくに人払いはしている。そういうわけだから大人しくくたばれよっ!」
「平民の分際でボキュの役に立ったことを光栄に思うんだな!」

 リーズは意識を失うまでひたすら暴力を振るわれ、とうとう気絶して革袋に詰められた。

「あー重い。最後まで手間かけさせやがる……せめて死ぬ時くらい消えてなくなれよ」
「本当なんだな。まったくボキュの足が少し痛くなっちゃったよ。しかも汚い鼻血までついてるし……本当にゴミなんだな」
「さっさと毒を飲ませて森の中に捨ててきな。魔物に食わせれば証拠もなくなる」

 そうしてリーズは袋に入ったまま、馬車で運ばれて森に投げ捨てられた。

「あ、岩に当たっちまった。まあいいか」
「どうせ死ぬんだから手間が省けるんだな。それよりも早く靴を洗わせたいんだな。鼻血がついて気持ち悪いんだな」
「ほいほい」

 人の入った袋を放置して去っていく馬車。

 袋に入っていたリーズは岩に投げつけられた時に、勢いよく頭をぶつけて死んでしまった。

 こうしてお人よし過ぎた少年は、散々利用されたあげく裏切られてその生涯を終わらせてしまう。



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「ああ胸糞悪い! なんて奴らだ!」

 袋から脱出して周囲を確認する。奴らが言った通り森の中のようだ。

 ……俺はリーズ。いや正確に言うならリーズと同じ目線で生きていた者。

 地球の日本で社会人として働いていたのだが、事故して気が付いたらリーズの身体に乗り移っていた。

 しかし身体の所有権は彼にあった。

 なので俺は身体を動かすこともできず、ずっとリーズの目線で物を見るしかなかった。

 五年もの間、俺はずっと傍観者だったのだ。彼と話すこともできなかった。

 同じ身体に二つの心なら話し合うとかできそうなのにな。

「身体がめちゃくちゃ痛いし毒も飲まされてる……近くに薬草は……見っけ」

 近くに生えていた薬草を引き抜いて、頭の上に置いてから【クラフト】魔法を使用する。

 すると薬草はS級ポーションへと変貌して頭から全身へと流れていく。

 身体の痛みや毒による息苦しさがスッと消えていった。

「よし治ったか。しかしあいつら、よくもリーズを殺しやがって……!」

 俺はリーズとずっと一緒に生きてきた。

 自分が身体を動かせない不便さはあった、地球に戻れないことを少し悲しんだりもした。

 だが俺はリーズをずっと見続けてきて、彼のことが嫌いになれなかった。

 むしろ酷い境遇なのに同情して、いつの間にか物語のキャラクターのように応援してきたのだ。

 こいつはすごくいい奴だった。だから王国軍の同僚に利用されていた。

 彼らが剣を誤って壊したりしたら修復してカバーは日常茶飯事、他にも無理難題な仕事を押し付けられても笑って承諾していた。

 そして全てを持ち前のチート技能でこなして、他の同僚たちは礼も言わずに当然のように恩恵にあずかっていた。

「特に酷かったのはさっきの三人だがな……あいつら人間じゃない! リーズを自分の部下に据えて、全ての功績を奪ったあげく殺しやがった! 悪魔どもめ、絶対許さねぇ!」

 俺はリーズと一心同体だった。

 だから彼を自分自身とまで思っていたのだ。つまりあの三人は俺を殺した大罪人。

 いや同僚たちも……違うな、王国そのものが悪だ。

 あいつらはリーズの手柄を奪った者たちを、疑いもせずに重宝しまくったのだ。

 アッシュに至っては異例の大昇進で中将にまで成り上がった上、次期元帥候補とまで言われている。

 そして彼女の部下であるボルボルとバベルも重要なポジションを得るだろう。

 あんなクズ共が上に立つ軍……想像するだけでヤバイ。

 実際にアッシュは敵領地の略奪や強姦を《推奨》して、部下たちからの受けをよくしている。

 リーズが忠義を尽くしていた誇り高き王国軍は、あいつらのせいで盗賊の集団へとなり下がった。

 このままでは救われないにもほどがある。つまり俺のやるべきことは決まっている。

「王国軍をぶっ潰して復讐だ。特にあの三人は絶対に許さない……!」

 俺は五年間ずっとリーズの力の使い方を見続けたし、彼の視点で物事を体験してきた。

 自分では動けなくとも今までの経験値を身体は全て覚えている。

 五年以上の歳月もの間、頭の中で己の力の使い方もイメージしてきた。

 俺ならば復讐を遂げられるはずだ。
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