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本編
1−22(第一部完結)
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お決まりの通知音が鳴る。
まともな友人がいない陽のスマホは常に静かなものなのに珍しいことだった。勿論、母親も目敏く気がついて目を釣り上げているのを察して、慌てて違うと否定する。
「他社の方だけど、家が近いんだ。友達みたいなものだよ。男の人だし」
生娘でもあるまいし、どうしてこんな心配をされるのだろうか?と陽は常々疑問に思っているが、昔からこうなので途中から考えることもやめてしまった。
何か余計なことを言えばすぐに怒鳴ってくることも理由の一つで、これに関しては父親ですら手が出せないし口も出せない。だからこの家の男は母に絶対服従になっている。
一番面倒なことにならない、一番安全な方法だからだ。
「そう。ならいいのよ。陽に変な女がついたら大変ですもの。でも、そろそろ結婚も考えなくちゃいけないわね。もう良い歳ですものね。私がきちんとした子を見繕ってあげなくちゃ」
何かの聞き間違いかと思って思わず母を見た。自分でも何が何やら分からないが頭が真っ白になって、何か言わなければと口をはくはくと動かす。未だ言葉を理解して飲み込めていないが、それでもどうしてか否定しなければいけないと思ったのだ。
もういい大人になったのに、結婚相手すら自分で選ぶことが許されない。
それが先行したが、結婚というよりは恋愛そのものだった。好きな人と恋愛をすることも許されず、母が決めた人とただ淡々と母が思う通りの家庭を作れと?それはその決めてきた女性にだって失礼だ。何より、自分の意見が全くない。今もそうだ。変な女がついたら大変だと言いながら結婚しろと言うし、その相手に張本人の意見は要らないと言っている。
子供の頃は我慢した。親は絶対なのだと親に教えられたからだ。他でもない、この母親という人に。
言われるがままに部活もしないで塾へと通い、ずっと勉強だけに時間を使った。学生らしい思い出など、学校でのイベントしかないくらいだった。
全ては多分、今の会社に就職するためだったのだろう。自覚はしていた。自分はこの母親の作品なのだと。ステータスそのものでもあると思う。
理解はしていても認めたくないままズルズルと二十数年来てしまった。母をどうこうとすることもできず、反発する勇気もないままに。
だけど、今なら思う。
ならばお前はどうして家を出たのかと。家を出るのだって大変だったのだ。本当に何ヶ月も説得をした。ヒステリックに叫ぶ母親を宥めてやっと家を出た。その後も何ヶ月かは毎日連絡が来ていた。
帰ってくるのが怖かったのだって、もう良いでしょう?家に帰ってらっしゃい。と言われるかもしれないと思ったからで。
そうだ、こういうことを言う人だからそれが怖くて、僕は逃げたんだ。逃げて逃げて…。
「僕は、…何も決められない、の……?恋愛も、結婚も……?」
ぽろりと口から出た言葉だった。何の自由もなく言われるがままに動く人形のような自分。友達も合わないからと作らせても貰えなかった。
友達すら、作らせてもらえなかったのだ。人生を決める結婚、そしてそれに結びつく恋愛。その相手を選ばせてもらえない可能性は大いにあった。寧ろ可能性しか無かったじゃないか。
「決められないなんてことはないわ。何人か見つけてあげるから、そこから決めたらいいじゃないの」
お母さんが選んだいい娘の中からなら誰に決めたって怒らないわ。
そう、幻聴が聞こえた気がした。
今まで何も思わなかった。唯一、家を出る時だけは必死に宥めて説得したけれど、今回はそういうレベルの問題ではない。
人生の大事な何かが決まる
。仕事はいい。いい仕事に就けるのは間違いなくいいことだからだ。
だが…、これは、これはそうじゃない。
何の躊躇いもなく子供の人生の大きな大きな選択を自分がしようとしていることに、母は気がついているのだろうか?
あぁ、あの空を僕は自由に飛びたいだけなのに。
今まで歩いてきた道の全てが途端なくなったような気がして、文字通り目の前が真っ暗になった。
まともな友人がいない陽のスマホは常に静かなものなのに珍しいことだった。勿論、母親も目敏く気がついて目を釣り上げているのを察して、慌てて違うと否定する。
「他社の方だけど、家が近いんだ。友達みたいなものだよ。男の人だし」
生娘でもあるまいし、どうしてこんな心配をされるのだろうか?と陽は常々疑問に思っているが、昔からこうなので途中から考えることもやめてしまった。
何か余計なことを言えばすぐに怒鳴ってくることも理由の一つで、これに関しては父親ですら手が出せないし口も出せない。だからこの家の男は母に絶対服従になっている。
一番面倒なことにならない、一番安全な方法だからだ。
「そう。ならいいのよ。陽に変な女がついたら大変ですもの。でも、そろそろ結婚も考えなくちゃいけないわね。もう良い歳ですものね。私がきちんとした子を見繕ってあげなくちゃ」
何かの聞き間違いかと思って思わず母を見た。自分でも何が何やら分からないが頭が真っ白になって、何か言わなければと口をはくはくと動かす。未だ言葉を理解して飲み込めていないが、それでもどうしてか否定しなければいけないと思ったのだ。
もういい大人になったのに、結婚相手すら自分で選ぶことが許されない。
それが先行したが、結婚というよりは恋愛そのものだった。好きな人と恋愛をすることも許されず、母が決めた人とただ淡々と母が思う通りの家庭を作れと?それはその決めてきた女性にだって失礼だ。何より、自分の意見が全くない。今もそうだ。変な女がついたら大変だと言いながら結婚しろと言うし、その相手に張本人の意見は要らないと言っている。
子供の頃は我慢した。親は絶対なのだと親に教えられたからだ。他でもない、この母親という人に。
言われるがままに部活もしないで塾へと通い、ずっと勉強だけに時間を使った。学生らしい思い出など、学校でのイベントしかないくらいだった。
全ては多分、今の会社に就職するためだったのだろう。自覚はしていた。自分はこの母親の作品なのだと。ステータスそのものでもあると思う。
理解はしていても認めたくないままズルズルと二十数年来てしまった。母をどうこうとすることもできず、反発する勇気もないままに。
だけど、今なら思う。
ならばお前はどうして家を出たのかと。家を出るのだって大変だったのだ。本当に何ヶ月も説得をした。ヒステリックに叫ぶ母親を宥めてやっと家を出た。その後も何ヶ月かは毎日連絡が来ていた。
帰ってくるのが怖かったのだって、もう良いでしょう?家に帰ってらっしゃい。と言われるかもしれないと思ったからで。
そうだ、こういうことを言う人だからそれが怖くて、僕は逃げたんだ。逃げて逃げて…。
「僕は、…何も決められない、の……?恋愛も、結婚も……?」
ぽろりと口から出た言葉だった。何の自由もなく言われるがままに動く人形のような自分。友達も合わないからと作らせても貰えなかった。
友達すら、作らせてもらえなかったのだ。人生を決める結婚、そしてそれに結びつく恋愛。その相手を選ばせてもらえない可能性は大いにあった。寧ろ可能性しか無かったじゃないか。
「決められないなんてことはないわ。何人か見つけてあげるから、そこから決めたらいいじゃないの」
お母さんが選んだいい娘の中からなら誰に決めたって怒らないわ。
そう、幻聴が聞こえた気がした。
今まで何も思わなかった。唯一、家を出る時だけは必死に宥めて説得したけれど、今回はそういうレベルの問題ではない。
人生の大事な何かが決まる
。仕事はいい。いい仕事に就けるのは間違いなくいいことだからだ。
だが…、これは、これはそうじゃない。
何の躊躇いもなく子供の人生の大きな大きな選択を自分がしようとしていることに、母は気がついているのだろうか?
あぁ、あの空を僕は自由に飛びたいだけなのに。
今まで歩いてきた道の全てが途端なくなったような気がして、文字通り目の前が真っ暗になった。
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