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本編
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凪が遠くから急いでいると言わんばかりの早歩きでこちらへ向かっているのを見つけ、陽は小さくだが手を振る。向こうの表情が途端明るくなったのが見えてなんだか自分の心臓まで忙しなく動く感じがした。
「お疲れ様です、小日向さん」
「急に、遅くするって言って、はぁ…、はぁ、ごめんな、俺から、誘ったのに」
途中まで走っていたらしく少し息が切れている様子に思わず背中を撫でる。
「いいえ、僕は全然。元より予定もありませんし」
「はは、そう言われると助かる」
まだ息が切れてはいるが確かにもう時間だ。一旦店に入ってしまう方がいいだろうと頷いて店へと入り、奥の個室へと通される。鍋の店なだけあって小さい個室が数室あり、中は嬉しいことに掘り炬燵だった。
「よ、よかった…掘り炬燵…」
ヘロヘロと言っても過言じゃ無い勢いでコートを脱いだら座りこむ姿に、相当無理をしていたのでは、と嫌な予感がした。
「お仕事、相変わらず忙しいんじゃ無いですか?」
「年末だから余計なんだけど、それ以上にイレギュラーなことがあったからな…」
げんなりとした顔で言う凪を見て、本当に想定外のレベルのことが起こったのだろうと思うと何やら胸がざわついた。誰だ、彼に迷惑をかけた人間は…。いや、今は考えるのはよそう。彼と折角会っているのだから、と軽く首を振り全て吐き出すように息を吐く。
入った時点で鍋は既に置いてあり、水と温かいおしぼりがあって、店員には入る時にビール!生二つ!と元気に凪が言っていたので有難くそのままにして、あとは火をつけられた鍋が煮立つのを待つばかり。
鍋の向こうでお恥ずかしい限りなんですけどね、と頬を掻いて誤魔化そうとする姿になんとなく何かを察する。
特別大きい会社なわけではないし、人間関係はこちらより面倒な部分があるのかもしれない。言えないのに恥ずかしいならそれは社員のことで間違いないだろうし、彼は本来事務職だと言っていたから…。
それでも、普段は忙しくても言葉にする程じゃない以上、確実に面倒事があったのは間違いないだろう。あぁ、本当にこれ以上彼を疲れさせないでくれ。
「ああでも、もう解決してるからな?全部綺麗に終わらせたし、年明けは安心だと思う」
悩んでいたのに気付かれたのか慌てた否定が入る。これ以上引きずってもかえって迷惑かな、と思い「そうですか」と話を区切った。
折角の食事が美味しくなくなるのは本望ではない。どうせなら彼にだって美味しいご飯を食べてもらって、楽しい会話をして帰ってもらった方が僕も嬉しいし。
そういえば、ずっと持っていた紙袋を気にされていない、と気がつく。気付いていないのか気にされていないだけなのか気になったが、触れられないせいで自分でもどうしたらいいのかわからない。
何分人にプレゼントということを決まった行事など以外でまともにしたことがないのだ。そして致命的なことに、陽は漫画すらまともに読んでこないで成長してしまったのである。はっきり言えば娯楽をあまり知らずに育った結果、想像することすらできないほどの知識不足で、話の切り出し方もタイミングも何もかもが分からなかった。
「お疲れ様です、小日向さん」
「急に、遅くするって言って、はぁ…、はぁ、ごめんな、俺から、誘ったのに」
途中まで走っていたらしく少し息が切れている様子に思わず背中を撫でる。
「いいえ、僕は全然。元より予定もありませんし」
「はは、そう言われると助かる」
まだ息が切れてはいるが確かにもう時間だ。一旦店に入ってしまう方がいいだろうと頷いて店へと入り、奥の個室へと通される。鍋の店なだけあって小さい個室が数室あり、中は嬉しいことに掘り炬燵だった。
「よ、よかった…掘り炬燵…」
ヘロヘロと言っても過言じゃ無い勢いでコートを脱いだら座りこむ姿に、相当無理をしていたのでは、と嫌な予感がした。
「お仕事、相変わらず忙しいんじゃ無いですか?」
「年末だから余計なんだけど、それ以上にイレギュラーなことがあったからな…」
げんなりとした顔で言う凪を見て、本当に想定外のレベルのことが起こったのだろうと思うと何やら胸がざわついた。誰だ、彼に迷惑をかけた人間は…。いや、今は考えるのはよそう。彼と折角会っているのだから、と軽く首を振り全て吐き出すように息を吐く。
入った時点で鍋は既に置いてあり、水と温かいおしぼりがあって、店員には入る時にビール!生二つ!と元気に凪が言っていたので有難くそのままにして、あとは火をつけられた鍋が煮立つのを待つばかり。
鍋の向こうでお恥ずかしい限りなんですけどね、と頬を掻いて誤魔化そうとする姿になんとなく何かを察する。
特別大きい会社なわけではないし、人間関係はこちらより面倒な部分があるのかもしれない。言えないのに恥ずかしいならそれは社員のことで間違いないだろうし、彼は本来事務職だと言っていたから…。
それでも、普段は忙しくても言葉にする程じゃない以上、確実に面倒事があったのは間違いないだろう。あぁ、本当にこれ以上彼を疲れさせないでくれ。
「ああでも、もう解決してるからな?全部綺麗に終わらせたし、年明けは安心だと思う」
悩んでいたのに気付かれたのか慌てた否定が入る。これ以上引きずってもかえって迷惑かな、と思い「そうですか」と話を区切った。
折角の食事が美味しくなくなるのは本望ではない。どうせなら彼にだって美味しいご飯を食べてもらって、楽しい会話をして帰ってもらった方が僕も嬉しいし。
そういえば、ずっと持っていた紙袋を気にされていない、と気がつく。気付いていないのか気にされていないだけなのか気になったが、触れられないせいで自分でもどうしたらいいのかわからない。
何分人にプレゼントということを決まった行事など以外でまともにしたことがないのだ。そして致命的なことに、陽は漫画すらまともに読んでこないで成長してしまったのである。はっきり言えば娯楽をあまり知らずに育った結果、想像することすらできないほどの知識不足で、話の切り出し方もタイミングも何もかもが分からなかった。
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