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本編
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「それでは、お先に失礼します」
「はい、お疲れさん」
隠し切っているつもりの上機嫌で会釈をして会社を出る。前日に一時間遅れそうだから予約をずらしても良いかと確認が来ていたので大丈夫だと返したのだが、結局定時に出てきてしまった。
今からだと一時間半は時間がある。近くで時間潰しでもすれば良いだろうか、と慣れもしないウインドウショッピングとやらを堪能すると決めた。
鍋の店は事前にLIMEで教えてもらっており、飲み屋街に近いところにあるらしく、会社からはそこまで酷く離れているわけではない。その数本ずれた道にはクリスマスに色取られた店がたくさんあるはず。それを見ていればすぐに時間も過ぎるだろうとそちらへ足を進める。
イルミネーションに白い息。流石に雪までは降らないか、と空を見上げる。都会の空は星が上手く見えない。だが降ってくるもの無いからきっと空は晴れているのだろう。
マフラーを改めて整えて雑貨屋などが多く並ぶ道へ向かうと、イルミネーションはより華やかになり、店もライトアップされて随分とファンシーなことになっていた。三十分程あっちへこっちへと歩いていると、入るのを普通なら躊躇うほどに可愛くなっている店の前でガラス越しに見えたマフラーに目を奪われた。
たっぷり五分ほど見てから何も考えずに店へと入る。そして更に十分後。
ど、どうしよう。…買ってしまった……!
ダラダラと冷や汗を流す美形なサラリーマンが店の外にポツンと立っていた。
店員の景気の良い「ありがとうございました~!彼女さん、喜んでくれると良いですね!」という言葉で目が覚めた。
陽の目を奪ったそれは女性もののマフラーというかストールだったのである。グリーンとネイビーが基調のタータンチェック。俗にいうドレスゴードンということで気を抜いていた。何より似合うだろうな、とか思ったら店に入っていたし、気がついたら外にいた。ちゃんと代金は払っていたが。
そして今、この手にあるのは大人の女性向けと言わんばかりのシックで可愛らしいラッピングをされたクリスマスプレゼント、なのである。
だって世間はクリスマス。本日、十二月二十五日。クリスマスそのものなのだ。
待ち合わせの時間まであと二十分。そろそろ店へと向かい始めなければ今度は自分が間に合わなくなってしまう。
ついでに言うと正しいかわからないが、折角できた大切な友人だ。いつも大変そうだし何かしてあげたいな、と思っていたから、まぁ良いんじゃないか、と人生初の必死な自分への言い訳をして、陽は若干挙動不審に店へと向かった。
店に着いたのは五分前という所で、まだ凪は来ていないようで安心する。
いやもうこれでいられたら居た堪れない、と本当に思っていた。どちらにしろ渡すんだろうし、その時点で先にいてもいなくても変わらないのでは、と思わなくも無いけど。
とは言っても、気持ちを落ち着かせるには、覚悟をするには先に来ることができてよかったと言える。
「…へえ、そういう子、いるのねぇあの子にも」
そんなことを偶々そこを通りかかった同僚に言われていることも知らずに、ただ陽はソワソワしながら凪を待っていた。
「はい、お疲れさん」
隠し切っているつもりの上機嫌で会釈をして会社を出る。前日に一時間遅れそうだから予約をずらしても良いかと確認が来ていたので大丈夫だと返したのだが、結局定時に出てきてしまった。
今からだと一時間半は時間がある。近くで時間潰しでもすれば良いだろうか、と慣れもしないウインドウショッピングとやらを堪能すると決めた。
鍋の店は事前にLIMEで教えてもらっており、飲み屋街に近いところにあるらしく、会社からはそこまで酷く離れているわけではない。その数本ずれた道にはクリスマスに色取られた店がたくさんあるはず。それを見ていればすぐに時間も過ぎるだろうとそちらへ足を進める。
イルミネーションに白い息。流石に雪までは降らないか、と空を見上げる。都会の空は星が上手く見えない。だが降ってくるもの無いからきっと空は晴れているのだろう。
マフラーを改めて整えて雑貨屋などが多く並ぶ道へ向かうと、イルミネーションはより華やかになり、店もライトアップされて随分とファンシーなことになっていた。三十分程あっちへこっちへと歩いていると、入るのを普通なら躊躇うほどに可愛くなっている店の前でガラス越しに見えたマフラーに目を奪われた。
たっぷり五分ほど見てから何も考えずに店へと入る。そして更に十分後。
ど、どうしよう。…買ってしまった……!
ダラダラと冷や汗を流す美形なサラリーマンが店の外にポツンと立っていた。
店員の景気の良い「ありがとうございました~!彼女さん、喜んでくれると良いですね!」という言葉で目が覚めた。
陽の目を奪ったそれは女性もののマフラーというかストールだったのである。グリーンとネイビーが基調のタータンチェック。俗にいうドレスゴードンということで気を抜いていた。何より似合うだろうな、とか思ったら店に入っていたし、気がついたら外にいた。ちゃんと代金は払っていたが。
そして今、この手にあるのは大人の女性向けと言わんばかりのシックで可愛らしいラッピングをされたクリスマスプレゼント、なのである。
だって世間はクリスマス。本日、十二月二十五日。クリスマスそのものなのだ。
待ち合わせの時間まであと二十分。そろそろ店へと向かい始めなければ今度は自分が間に合わなくなってしまう。
ついでに言うと正しいかわからないが、折角できた大切な友人だ。いつも大変そうだし何かしてあげたいな、と思っていたから、まぁ良いんじゃないか、と人生初の必死な自分への言い訳をして、陽は若干挙動不審に店へと向かった。
店に着いたのは五分前という所で、まだ凪は来ていないようで安心する。
いやもうこれでいられたら居た堪れない、と本当に思っていた。どちらにしろ渡すんだろうし、その時点で先にいてもいなくても変わらないのでは、と思わなくも無いけど。
とは言っても、気持ちを落ち着かせるには、覚悟をするには先に来ることができてよかったと言える。
「…へえ、そういう子、いるのねぇあの子にも」
そんなことを偶々そこを通りかかった同僚に言われていることも知らずに、ただ陽はソワソワしながら凪を待っていた。
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