天を仰げば青い空

朝比奈明日未

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本編

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 …友人と呼べる人ができるって、こんなに楽しかったとは……。
 初夏の辺りから始まった凪との関係は、徐々に徐々にだが陽の心に影響を与えていた。
 どれくらいかと言われたら、その浮かれた様子を遠巻きに見ている人がいるくらいには。勤めて三年目になるが、未だ職場の人は職場の人でしかなく、終わった後に食事に行くとか、飲みに行くとか、そういう経験は会社の規定のものしかない。
 何故かと言われると本人も困るのだろうが、経験則で言うのであれば見た目とそれに対してのつまらなさ、なのだろうなぁと思っている。
 昔から教師や大人に好かれやすい性格だった。大抵こういう場合、子供の中ではまとめ役になったりするものだが、内気なところがある陽はそんなことをするタイプではない。ただただ優等生で見目麗しい、高嶺の花をやっていただけだ。
 それが社会に出ても続いていて、同じ新卒で入ったメンバーには距離を置かれ、先輩には好かれはするがあくまで仕事でだけ好かれている状態。
 上司には好かれているものの、当たり前だが上司との食事や飲みなど気を遣うばかりだ。
 だから、元々取引先とはいえ近所であると判明した凪との食事は本当に新鮮で大切で、大袈裟に言うなら人生に彩りを与えていると言っても過言ではない。
 そう、とうとうこんな風に普段プライベートな話など一切してくることがない先輩たちですら気付くぐらいには。
「ねぇねぇ、大城。ここ最近の六月一日くん、どうしてあんなに楽しそうなんだと思う?」
「さぁ…?恋人でも出来たんじゃねぇの?」
「見た目も仕事も最高だけど、あの気遣われ方されて嬉しい女の子、ねぇ…いや尽くされたい人ならありかしら?」
「仕事しにここに入ったお前とは合わねぇの、当たり前じゃね?」
「うるさいわよ。もう少し、可愛げあっていいと思うんだけどね」
「仕事できるって喜んでたくせに、都合良いこと言うなよな」
「確かにね。仕事だけなら本当にやりやすい子だもの」
「ひでぇ女」
「プライベートで関わりがないならその程度なの、それこそ当たり前じゃない」
 いつ頃からだったかしらねぇ、なんて追加で会話が聞こえないところで行われている事も知らず、今の今までどこにいても気軽に話してくれる人がいなかった陽は、顔に出ている以上に喜んでいたのだ。
 最初のうちは気持ちのどこかで仕事の延長線上みたいな部分があったが、半年もあればその気持ちも薄まり、どうしたら良いのかよく分かっていないなりに何でも話せる友人という枠に凪はなりつつある。これに関しては凪自身が思っている以上の状態だと言っていいだろう。
 そもそも、陽自身これまでの自分の人生はそれなりに良いものだったと本人も思っている。
 親は教育熱心だったから勉強をきちんとさせてくれたし、そこに惜しむものはなかった。一人っ子だった事も大きかっただろうが、小中高と勉強に励んで、良い大学に入り、今の大手に入ったのだから、順風満帆と言える。
 まさしく「良いところに入る為の教育」だった言えばそれまでだが、それに対しての結果で言うなら大成功だろう。
 外資系とかに行かなかったのは落ちたのもあるが、自分には向いていなかったからだ。母親にそこに関してだけは少しがっかりされた。自分としては満足なのだけれど。
 ただ、自分でも認める欠点として、部活にも入らず勉強していた部分もあって、陽は同じ立場の人間と関わることが苦手である。
 それがまぁ、現状を招いているのは本人も薄々感じてはいるのだが、いかんせんここまで同級生などと関わって来なかったツケが回ってきているのでどうしたら良いかわからないままだ。
 大人になれば誰もが人と一定の距離を置き、この国は特に「言わないことを美徳」とするが故に指摘もされない。何が正しくて、何が間違いだったのか、本当に手探りでやっていくしかないのが現状だ。
 だからこそ、はっきりと言ってくれた凪に対しては少しばかり特別な気持ちが芽生えているのは言うまでもなく、こうやってほぼ毎週末のように食事に行くほどの誰が見ても立派な友人ができたと言うのは紛れもなく「楽しいこと」で「浮かれること」だったのだ。
 ただ、恋愛感情なんてものとは無縁に生きてきた陽は凪からの恋愛的な意味も含めた好意など気付かぬまま、淡々と年末年始へ向けた業務をこなしながら定時へまっしぐらに仕事を片付けていくのであった。
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