天を仰げば青い空

朝比奈明日未

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本編

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 結局、あれから凪が寝たのは夜中の二時を過ぎてからだった。
 やりたい気持ちはあったのだが、気分が重いと筆も重いというか、ストレス発散でストレス抱えるのではないかと思ったのがストレスになったというか。
 一応、作業は進みはした。
 思ったよりも行かなかったが、週末には描き終われそうな程度までは進めた。結果睡眠時間が四時間まで削られたとしても満足だ。
 進みが目に見えてわかるものはストレスの発散にはいい。ちょっと昨日は自分にも苛立ってしまって最初は時間がかかってしまったが、それでも最終的には満足いくだけ描けたのだから、気持ちは多少スッキリしているのを感じる。
 昨日の陽の姿を思い出しては勝手に自己嫌悪という名の後悔で手が止まり、その度に過ぎたものはどうしようもない、次に会った時に謝罪しまくるしかないな、と無理にでも自分を奮い立たせて何とか色を乗せ続け、気がついたら大変な時間だったのはもう仕方ないとしか言いようもない。
 自分には必要な時間だった、うん。
 朝になって目が覚めても、凪は思い出してはそう自分に言い聞かせ続けていたくらいには、本当に必要な時間でだった。
 だが、凪はここで大きなミスを犯していることにまだ気付いていない。
 忙殺されるのが常である凪の頭は、久しぶりの恋心とやっちまった後悔とで混乱していたのである。


 朝の出勤時間くらいどうにかならないのか、と思いながら電車に揺られる。
 何故業務開始が九時なのに、七時前には会社に着いているのが当たり前と化しているのかが理解できない。いや出来なくて当たり前だろ。
 何度でも言うが自分は営業じゃない。
 なのに営業と同じような仕事をさせられ、更にそこに通常の経理やら事務やらの仕事が来るわけだ。
 俺は紛れもなく一般職なんだが?
 いや確かに総合職扱いと言われたらそれまでだけど、俺は余り人前に出たくないから一般職を選択したし、それで入社したはずなんですが?俺、それでちゃんと就職したよね?何、そこそこ小さい会社なのをいいことに都合よく解釈されちゃってるの?
 時には総合職と同じように営業をやらされ、そのサポートもやらされ、営業の奴らやらが持ってくる領収書とも睨めっこをしたり時にはズルしようとする輩と俺はバトルをしているんだが?
 そんななのに終わると思ってんのか。一日は二十四時間しかねぇよ。俺の体も一つしかねぇよ。わかってんのか?なのになんで営業の奴らはどいつもこいつも「小日向くん、これやっておいてくれるかな?」って言ってくるんだ?そんでお前らは外回りからの直帰とか定時帰りしてるんだろ?俺知ってるんだからな。
 なんでお前らの仕事を事務員にやらせて帰ってんだよ、お前らでやれよ。なんでその「やらないとわかってるよな?」みたいな態度取るやつまでいるんだよ。何がわかってるのか俺にはわからんから、今度きちんと裏を取ってやりゃいいのか。
 いくら今こんなことを考えたところで、今日もきっと日付を跨ぐギリギリで俺は家に帰るんだろうな。
 週末一応休みなことだけが救いのような気がする。結果として月曜日は終電以外で帰れないけど。
 そんなことをずっと考えながら会社へと向かうのだ、毎日。
 書類をまとめたりだとか、誰かのサポートをする方が向いていると思ったからこちらを選んだのに、見た目だけで色々なことをやらされる。サポートするのはいいが、俺にできることではあっても、俺の本来の領域を超える仕事を当たり前のようにやらせようとしてくる奴が余りにも多すぎる。
 確かに今の会社での男性事務員は俺しかいない。それだけじゃなくて、営業のサポートとかまでしてた経験あるのが、そもそも俺だけだ。
 これは仕方ない。
 長い間勤めてるおばちゃん事務員と、去年入ったばかりの新人事務員、それとパートで入ってくれてる午前とか午後三時くらいまでいてくれるママさん事務員しかいないんだから。
 ただ、見た目だって一般男性よりは小さいし、見た目も小柄だけど俺は立派な成人男性で何ならアラサーなんだ。それなのにとりあえず会食だの接待だのと連れていかれることがある。営業先でも接待先でも。どうにもウケがいいからと言われたって俺は何も楽しくない。
 こんな生活が三年ほど続いていて、凪の心はとっくに死にかけている。それでも毎日の日課でもある趣味と、最近は取引先の六月一日陽との打ち合わせが生きる糧だった。
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