美しさを捨てた私は、両親によって家を追放された

華原 ヒカル

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別れ後・出会い

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何も考えたくなたかった。

だから、私は森へと足を踏み入れた。
とはいっても、入ったら2度と戻ってこられない様な樹海などではない。

いつからだったか、辛いことがあると少しだけ遠出して、時折ここに来ては1人佇んでいたのだ。川のせせらぎや、小鳥の囀り。そういったものに耳を傾けているだけで、救われた様な気持ちになれたから。

「これから、どうしようかな」
世間から見れば、10代半ばの小娘。どこかに雇ってくれるような、奇特な方はいないだろうか?

今まで貯めていた、お小遣いを持ってきたは良いが、決して多くは無い。普通に宿を利用していては一ヵ月と経たず、使い切ることになる。

そんな事を、ぼんやり考えながら川を眺める。だが、うっかり手から硬貨を落としてしまった。コロコロと転がると、石に当たり、チャリンという高い音を鳴らした。

「誰かいるのか?」

突然、声を掛けられた。

視線の先には、麦藁の帽子を目深に被り、色の入った眼鏡をしている青年。私より年上に見えるが、帽子と眼鏡のせいで顔はよく見えない。

「おりますが、それが何か?」
私は毅然と答える。別にやましい事などはしていない。

「ええ?そんな自信満々に言われてもな。ここは一応、俺の家の領地なんだが」

知らなかった。多少整備された場所だとは思っていたけど、まさか私有地だったとは。

「まあ、この辺りは、別に誰が入ってきても、使用人すら気にかけない様な場所だがな」
男性は、あっけらかんとそう言った。

「それは失礼致しました。直ぐに、ここを立ち去ります」
私が歩き出そうとした時、制止の声が入る。
「まあ、待て。少し誰かと話したいと思っていたんだ。それに、先ほども言った通りだが、ここは別に、誰が入ってきても特に気にも留めていない場所だ。時折、子供たちが入ってきては、遊んでいるという話を聞いた事もある」

「それは、いくら何でも管理がずさん過ぎるのでは?」
「はは。まあ、別に不利益も被っていないし、もういいかなって」
本当に気にしていないという態度で笑う青年を見ていたら、私が気にするのもおかしな話だと思った。

「よし。それでは自己紹介だ。俺の名は、ルーカス。年は19になる。君は?」
「私は…」
何と言うべきか悩んだ。もう、あの時の自分には戻りたくない。だから私は、第2の人生を歩むべく新たな名前を自分に与えた。

「私の名前は、アルベロです。もう直ぐ15歳になります」
名前に意味など無かった。何かの詩に書かれていた、登場人物の名を拝借しただけ。

「そうか、宜しくな。時に、アルベロはここで何をしていたんだ?」
「別に何もしていませんでした。ただ、綺麗な景色を見に来ただけです」

ジッと、私の方を見据えるルーカスさん。そして、ニッコリと微笑みを向けてくれた。
「そうか。それなら好きなだけ、見ていくといい。」
「ありがとう御座います」

それから、私たちは色んな話をした。
不思議な人だった。人の懐に入るのが上手いというか。気が付けば、私は、彼の話に聞き入っていた。
また、言葉遣いとは裏腹に、彼は非常に博識だった。会話の節々に有名な小説や、詩の一節を織り交ぜては、私を笑わせてくれた。

こんなに笑ったのは、比喩などではなく、生まれて初めてだった。

ずっと、彼とこうして話していたい。

そう思わずには、いられなかった。

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