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22話(マルタン伯爵視点)
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「糞が…クソが!!」
グシャリと一枚の紙を握り締めた私は、苛立ちを収める事が出来ずにいた。
その紙に書かれた内容は、娘マリーの社交界参加を打診した結果を報せるものだ。馬鹿の一つ覚えの様な、決まりきった丁寧な定型文句での返答。これを要約するならば、社交界に参加するなという事だ。
ゴーティエ侯爵家の社交界にマリーが参加して一悶着があった後、社交界開催の話を聞きつけては、娘の参加を求める旨の手紙を出した。しかし、この度で続けて4件目のお断りを喰らう事となった。
私が憤っているのは、この件に加えて税収にも影響が出てきたことが大きい。
クロエの餓鬼や侯爵家の若造が何かを言っていたが、腹立たしいことにそれが現実味を帯びてきた。つまり、私の領土内における取引先の数が著しく下がってきたという事。来月、再来月からは別の領土から果実などを購入するからと、取引の停止を求める声が上がってきたのだ。領民からは対策を講じて欲しいという声が聞こえて来た。奴らがどうなろうと知ったことでは無いが、無い袖は振れぬというのは事実だ。このままでは、今まで同様に搾り取ることも出来ない。
「どいつもこいつも、役に立たない連中しか居ないのか」
怒りが頂上を迎えたところで、逆に冷静になることが出来た。まあ待て。と、私は根本的な原因と解決について考える。
確かに餓鬼どもに煮え湯を飲まされた事、それが苛立ちの大きな原因だ。いつか相応の報いを与えてやることは決定事項だ。しかし、今はそうも言っていられない。最近では貴族のコミュニティーの間で、私の株が下がってきている。これもマリーによる影響だろう。お陰で、以前は回ってきていた仕事の紹介がすっかりなくなったのだから。このままでは、貴族としての私の立場が悪くなっていくだけだろう。おまけに多額の納税を行っていた…ナントかという男が出て行くのも大きな痛手だ。
そうだ。ここで一つ私の頭の中に妙案が生まれた。簡単な事ではないか。稼げる金額が少なくなったのならば、出費を抑えればいい。ならば、私にとって現在最大の負債は何なのか?
娘のマリーだ。
考えるまでもない。欲しいものはどんなに高価なものでも購入するが、金を運んできたことは一度たりとも無かった。それでも、将来的には家の為になる婚姻を行えばそれでいいと思っていたが、現状を精査するにそれは絶望的だ。加えて、侯爵家に対して狼藉を働いたマリーに責任を取らせなければ、伯爵家当主としての私の在り方まで周りに疑われることになるだろう。
他の貴族連中に対して、責任を取ったという事を知らしめる必要がある。そうすれば、私の評判は上昇してコミュニティーでも再び仕事が回ってくるというものだ。
さて、どうしたものか。修道院にでも送るべきか?それもいいが、それでは金にはならんしな。どうせならもっと有効な使い道がありそうだ。
うむ。あそこがいい。私は使用人にマリーをここまで呼んでくるようにと命じた。
ほどなくしてマリーはやつれた表情でやってきた。無理もないだろう、パーティーにも出席させて貰えず、鬱憤を晴らしてきたクロエも今は居ない。友人として接してきたであろう他のご令嬢も、最近ではマリーから距離を取るようになったのだから。
「お父様。どういったご用件でしょうか?」
「なあ、マリー。お前は男が好きだよな。そして、男が好む仕草なんかも実地で学んできたはずだ」
「お、お父様?それはどういう意味です?」
その問いに、私は微笑みを浮かべた。
「貴族や金持ちだけしか入れない会員制の娼婦館があるのだが、そこで働け。嬉しいだろう?お前の美貌だ。きっと中にはお前を見初めて娶りたいという男が居るだろう」
ふむ、不思議な娘だ。何故そこまで絶望的な表情を浮かべる?泣き叫ぶ?
「イヤ。嫌です!考え直してください。お父様!ごめんなさい」
お父様か…そうだ。私はマリーの父親だ。私は泣き叫ぶ娘の頭にポンっと優しく手を置いた。マリーは私を見上げると安堵の表情を浮かべる。
「…お父様。私、頑張って勉強します。お父様のお役に立てるように」
「大丈夫。そんな必要はない」
そのまま娘の髪をグシャリと鷲掴みにすると、地面に投げつけた。
「そうだ!私が父だ。娘なら必死に父の役に立て!!」
何が起きたのか分からないというマリー。呆然自失という感じだったが、暫くするとコクリと首を縦に振った。
「いい子だ」
さて、後はマリーに罰を与えたことを周りに伝えるだけだ。泣く泣く実の娘に厳しい罰を与えた当主。これで私の評判は以前よりも高まる事だろう。
今後マリーが稼ぐであろう金銭は一度私の懐に入れる事にする。大丈夫、私は父親だ。責任を持って食事を摂れるくらいの小遣いは渡してやろう。
「さて、それでは次の負債を探すことにしようか」
1章 完
グシャリと一枚の紙を握り締めた私は、苛立ちを収める事が出来ずにいた。
その紙に書かれた内容は、娘マリーの社交界参加を打診した結果を報せるものだ。馬鹿の一つ覚えの様な、決まりきった丁寧な定型文句での返答。これを要約するならば、社交界に参加するなという事だ。
ゴーティエ侯爵家の社交界にマリーが参加して一悶着があった後、社交界開催の話を聞きつけては、娘の参加を求める旨の手紙を出した。しかし、この度で続けて4件目のお断りを喰らう事となった。
私が憤っているのは、この件に加えて税収にも影響が出てきたことが大きい。
クロエの餓鬼や侯爵家の若造が何かを言っていたが、腹立たしいことにそれが現実味を帯びてきた。つまり、私の領土内における取引先の数が著しく下がってきたという事。来月、再来月からは別の領土から果実などを購入するからと、取引の停止を求める声が上がってきたのだ。領民からは対策を講じて欲しいという声が聞こえて来た。奴らがどうなろうと知ったことでは無いが、無い袖は振れぬというのは事実だ。このままでは、今まで同様に搾り取ることも出来ない。
「どいつもこいつも、役に立たない連中しか居ないのか」
怒りが頂上を迎えたところで、逆に冷静になることが出来た。まあ待て。と、私は根本的な原因と解決について考える。
確かに餓鬼どもに煮え湯を飲まされた事、それが苛立ちの大きな原因だ。いつか相応の報いを与えてやることは決定事項だ。しかし、今はそうも言っていられない。最近では貴族のコミュニティーの間で、私の株が下がってきている。これもマリーによる影響だろう。お陰で、以前は回ってきていた仕事の紹介がすっかりなくなったのだから。このままでは、貴族としての私の立場が悪くなっていくだけだろう。おまけに多額の納税を行っていた…ナントかという男が出て行くのも大きな痛手だ。
そうだ。ここで一つ私の頭の中に妙案が生まれた。簡単な事ではないか。稼げる金額が少なくなったのならば、出費を抑えればいい。ならば、私にとって現在最大の負債は何なのか?
娘のマリーだ。
考えるまでもない。欲しいものはどんなに高価なものでも購入するが、金を運んできたことは一度たりとも無かった。それでも、将来的には家の為になる婚姻を行えばそれでいいと思っていたが、現状を精査するにそれは絶望的だ。加えて、侯爵家に対して狼藉を働いたマリーに責任を取らせなければ、伯爵家当主としての私の在り方まで周りに疑われることになるだろう。
他の貴族連中に対して、責任を取ったという事を知らしめる必要がある。そうすれば、私の評判は上昇してコミュニティーでも再び仕事が回ってくるというものだ。
さて、どうしたものか。修道院にでも送るべきか?それもいいが、それでは金にはならんしな。どうせならもっと有効な使い道がありそうだ。
うむ。あそこがいい。私は使用人にマリーをここまで呼んでくるようにと命じた。
ほどなくしてマリーはやつれた表情でやってきた。無理もないだろう、パーティーにも出席させて貰えず、鬱憤を晴らしてきたクロエも今は居ない。友人として接してきたであろう他のご令嬢も、最近ではマリーから距離を取るようになったのだから。
「お父様。どういったご用件でしょうか?」
「なあ、マリー。お前は男が好きだよな。そして、男が好む仕草なんかも実地で学んできたはずだ」
「お、お父様?それはどういう意味です?」
その問いに、私は微笑みを浮かべた。
「貴族や金持ちだけしか入れない会員制の娼婦館があるのだが、そこで働け。嬉しいだろう?お前の美貌だ。きっと中にはお前を見初めて娶りたいという男が居るだろう」
ふむ、不思議な娘だ。何故そこまで絶望的な表情を浮かべる?泣き叫ぶ?
「イヤ。嫌です!考え直してください。お父様!ごめんなさい」
お父様か…そうだ。私はマリーの父親だ。私は泣き叫ぶ娘の頭にポンっと優しく手を置いた。マリーは私を見上げると安堵の表情を浮かべる。
「…お父様。私、頑張って勉強します。お父様のお役に立てるように」
「大丈夫。そんな必要はない」
そのまま娘の髪をグシャリと鷲掴みにすると、地面に投げつけた。
「そうだ!私が父だ。娘なら必死に父の役に立て!!」
何が起きたのか分からないというマリー。呆然自失という感じだったが、暫くするとコクリと首を縦に振った。
「いい子だ」
さて、後はマリーに罰を与えたことを周りに伝えるだけだ。泣く泣く実の娘に厳しい罰を与えた当主。これで私の評判は以前よりも高まる事だろう。
今後マリーが稼ぐであろう金銭は一度私の懐に入れる事にする。大丈夫、私は父親だ。責任を持って食事を摂れるくらいの小遣いは渡してやろう。
「さて、それでは次の負債を探すことにしようか」
1章 完
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