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3話
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「はあ。そこまで頑張る必要は無いのに」
合わせ鏡に映る自分の顔を、私は眺めました。
自分の容姿を、不細工と思ったことはありません。でも、派手なブロンドヘアーに綺麗な青い瞳を持つマリー様と比べると、自分の容姿がひどく地味に思えます。髪も目もブラウンの私に、社交界という煌びやかな場は、どうしても不釣り合いだと思わざるを得ませんでした。
ですが、ナタリーに言われましたの、私はドレスへと袖を通します。
その後、直ぐにナタリーが部屋へと戻ってきました。
「いい。良いですよ、お嬢様!」
着替えた私を見たナタリーの感想に、私は訝し気な表情を浮かべます。
「本当に、そう思っているの?」
「勿論ですよ。さあ、仕上げと行きますよ。椅子にお座りになってください。髪を整えさせて頂きます」
椅子に座った私の後ろから、丁寧に櫛を入れるナタリーは、何処か上機嫌です。
「ねえ、ナタリー。私は怖いの。今の自分には何も無いのではないかと、時々消えてしまいたいくらい不安になるの」
その弱音を、ナタリーは優しい口調で諭してくれました。
「何を言っているのですか。クロエお嬢様よりも、強く、賢い人間を私は知りません。旦那様もそうですが、口を開けば哲学じみた精神論ばかり。何一つとして結果など出したこともない癖に。真に賢く優秀足り得るためには、日々の継続しかないというのに。でも、それを出来る人間は多くはいません。そして、その努力を行ってきたのが、お嬢様です」
「そんな。私は賢くなどありません」
「いいえ。将来的にこうなる予定だと、大風呂敷を広げるだけならばサルにも出来ます。でも、貴方は毎日、ご自分の課題を見つけては、徹底的に改善を図ってきたではありませんか。そんな優秀な人間を見初めない貴族の殿方などおりませんよ。もしも、お嬢様と対話して何とも思わないのというのならば、そんな男は盲目な愚か者です」
私は涙腺が緩んでしまいました。こんなにも、私の事を評価して思って下さる人がいる事に。涙を堪える事に必死で、上手く話せそうもありません。
「それに、私は分かっていますよ。お母様の遺言通りに、このお家のためどれだけ頑張っているのかを。領土内の、果実や畜産物、今までは廃棄していたものも、お嬢様が新たに販売先を見つけて下さったお陰で多くが売れるようになりました。それに、果実を加工して下さったお陰で日持ちが良くなりました。王室からも、兵士たちの遠征中に糖分の補給が出来て感謝するという、礼状まで頂けたでは無いですか」
「そんな、たまたまよ」
ナタリーは静かに首を横に振ります。
「たまたまで、こんな成果が残せない事お嬢様が一番よく分かっていますよね。それに比べて、旦那様は」
溜息を吐くナタリー。
「奥様の時からそうでした。ご自分は伯爵家の腰巾着になることを仕事だと穿き違えて、接待ばかり。それで、一体どんな恩恵があったというのですか?実際にこのお家に富みをもたらしていたのは、実直に実務に当たっていた奥様です。何よりも、奥様のお陰という事を本当に一切気が付いていないご様子。奥様の代わりに、お嬢様が頑張っているので何とか持ち直してきましたが、そうで無かったらと思うと、今でもゾッとします」
興奮冷めやらぬ、といったナタリーは凄い勢いで話を続けます。
そして。ふと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべまた。
「実は、耳寄りなご情報が」
私の耳元にそっと口を近づけます。
「・・・それは本当なの?」
「はい、確かな情報かと。メイドのコミュニティーを侮ってはいけませんよ」
それが本当だとすれば私は。
私が暫く考えこんでいると、彼女に両肩をポンと優しく叩かれました。
「はい、完成です。とてもお綺麗ですよ。お嬢様」
そう言われて、私は鏡を見ました。
「…誰?」
胸元には、彼女の私物である品の良いダイヤのネックレス。主張をしすぎない厳かな雰囲気が、大人の女性という雰囲気を醸し出していました。何より、メイクのお陰で血色が良く見えてブラウンの瞳と髪は、地味ではなく淑女のような雰囲気を醸し出していました。
「まあ、色々と申しましたがやはり見た目は大事です。これで明日は、お嬢様の独壇場ですよ」
ニコリと微笑むナタリー。
「ありがとう。私頑張るわ。貴方の為にも」
私がそう言うと、彼女は肩をすくめてお道化たポーズを取りました。
合わせ鏡に映る自分の顔を、私は眺めました。
自分の容姿を、不細工と思ったことはありません。でも、派手なブロンドヘアーに綺麗な青い瞳を持つマリー様と比べると、自分の容姿がひどく地味に思えます。髪も目もブラウンの私に、社交界という煌びやかな場は、どうしても不釣り合いだと思わざるを得ませんでした。
ですが、ナタリーに言われましたの、私はドレスへと袖を通します。
その後、直ぐにナタリーが部屋へと戻ってきました。
「いい。良いですよ、お嬢様!」
着替えた私を見たナタリーの感想に、私は訝し気な表情を浮かべます。
「本当に、そう思っているの?」
「勿論ですよ。さあ、仕上げと行きますよ。椅子にお座りになってください。髪を整えさせて頂きます」
椅子に座った私の後ろから、丁寧に櫛を入れるナタリーは、何処か上機嫌です。
「ねえ、ナタリー。私は怖いの。今の自分には何も無いのではないかと、時々消えてしまいたいくらい不安になるの」
その弱音を、ナタリーは優しい口調で諭してくれました。
「何を言っているのですか。クロエお嬢様よりも、強く、賢い人間を私は知りません。旦那様もそうですが、口を開けば哲学じみた精神論ばかり。何一つとして結果など出したこともない癖に。真に賢く優秀足り得るためには、日々の継続しかないというのに。でも、それを出来る人間は多くはいません。そして、その努力を行ってきたのが、お嬢様です」
「そんな。私は賢くなどありません」
「いいえ。将来的にこうなる予定だと、大風呂敷を広げるだけならばサルにも出来ます。でも、貴方は毎日、ご自分の課題を見つけては、徹底的に改善を図ってきたではありませんか。そんな優秀な人間を見初めない貴族の殿方などおりませんよ。もしも、お嬢様と対話して何とも思わないのというのならば、そんな男は盲目な愚か者です」
私は涙腺が緩んでしまいました。こんなにも、私の事を評価して思って下さる人がいる事に。涙を堪える事に必死で、上手く話せそうもありません。
「それに、私は分かっていますよ。お母様の遺言通りに、このお家のためどれだけ頑張っているのかを。領土内の、果実や畜産物、今までは廃棄していたものも、お嬢様が新たに販売先を見つけて下さったお陰で多くが売れるようになりました。それに、果実を加工して下さったお陰で日持ちが良くなりました。王室からも、兵士たちの遠征中に糖分の補給が出来て感謝するという、礼状まで頂けたでは無いですか」
「そんな、たまたまよ」
ナタリーは静かに首を横に振ります。
「たまたまで、こんな成果が残せない事お嬢様が一番よく分かっていますよね。それに比べて、旦那様は」
溜息を吐くナタリー。
「奥様の時からそうでした。ご自分は伯爵家の腰巾着になることを仕事だと穿き違えて、接待ばかり。それで、一体どんな恩恵があったというのですか?実際にこのお家に富みをもたらしていたのは、実直に実務に当たっていた奥様です。何よりも、奥様のお陰という事を本当に一切気が付いていないご様子。奥様の代わりに、お嬢様が頑張っているので何とか持ち直してきましたが、そうで無かったらと思うと、今でもゾッとします」
興奮冷めやらぬ、といったナタリーは凄い勢いで話を続けます。
そして。ふと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべまた。
「実は、耳寄りなご情報が」
私の耳元にそっと口を近づけます。
「・・・それは本当なの?」
「はい、確かな情報かと。メイドのコミュニティーを侮ってはいけませんよ」
それが本当だとすれば私は。
私が暫く考えこんでいると、彼女に両肩をポンと優しく叩かれました。
「はい、完成です。とてもお綺麗ですよ。お嬢様」
そう言われて、私は鏡を見ました。
「…誰?」
胸元には、彼女の私物である品の良いダイヤのネックレス。主張をしすぎない厳かな雰囲気が、大人の女性という雰囲気を醸し出していました。何より、メイクのお陰で血色が良く見えてブラウンの瞳と髪は、地味ではなく淑女のような雰囲気を醸し出していました。
「まあ、色々と申しましたがやはり見た目は大事です。これで明日は、お嬢様の独壇場ですよ」
ニコリと微笑むナタリー。
「ありがとう。私頑張るわ。貴方の為にも」
私がそう言うと、彼女は肩をすくめてお道化たポーズを取りました。
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