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2話

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トボトボと、自室へと向かう暗い廊下を歩きていた時です。

「お嬢様、御口から血が!直ぐに手当てを致します」
メイドとして、我が家に仕えてくれているナタリーが、私の元へと駆け寄ってきました。

「ありがとう。でも、大丈夫よ」
実の父親からも冷遇される中で、唯一、私の事を気遣ってくれる彼女。彼女の存在は私の中で非常に大きいものです。

「そんな。では、せめてこれで、お拭きください」
差し出されたハンカチ。戸惑いながらも、私は口元を拭きました。

「ごめんなさい、綺麗なハンカチを汚してしまって」
「構いませんよ。そのために差し上げたのです」

「ねえ、ナタリー。明日、私は社交界に出席しなければならないの。でも、そんなのもう何年も出ていないわ。どんな格好で行けばいいのかしら」

掛けている眼鏡をカチャカチャと、何度も上げ下げしているナタリーは、凄く嬉しそうです。

「是非!是非とも私に、お洋服を見繕わせて下さい!」
普段、冷静な人からこうやって来られると、少し怖いです。でも、私のために力になってくれるのですから、有難い申し出でした。

「そうですわ。そうと決まれば髪形や、小物も考えなくていけませんね!今すぐお嬢様のお部屋に行きましょう。さあ」

そうして、私はナタリーに手を引かれて、自室へと戻るのでした。

部屋に入ると、ナタリーは、私の部屋を見渡します
「しかし、お嬢様のお部屋はさっぱりしていますよね」

私はお仕事の関係上、余り派手な服装をすることはありません。農家の方にお会いするときは、土にまみれてもいい格好で伺います。交渉の場に於いては、派手なドレスを着ることは、自らの幼さを露呈するようで、いつも暗い色合いの服装で、会合に臨んでいました。

「いえ、分かっていた事ですが。小物は、差し支えなければ私の物をお使いください。高価ではありませんが、それぞれ味があって中々のものですよ。直ぐに取って参りますので、その間に、こちらにお着替えください」
私の衣装タンスから、一着、ライトグリーンのドレスを取り出すと、ナタリーはそれを私に、渡しました。
「…私には、少し派手じゃないかしら。それに、胸元も開いていて、恥ずかしいです」

「何を言っているのです!お嬢様は立派なものを、お持ちでは無いですか。使える武器は使う。それが兵法の基本です」

あれ?明日は、マリー様の引き立て役で参加するはずですよね?
「それに、お恥ずかしいというのならば、ストールを御肩にかけるという事も出来ます。先ずはギリギリのラインを見定める所から始めましょう」

良いですね。と言い残して、彼女は自室へと向かいました。
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