追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

華原 ヒカル

文字の大きさ
上 下
1 / 22

1話

しおりを挟む
「このドレス可愛いわね。貰ってあげる」
伯爵家のご令嬢であるマリー様は、それがさも当然の事であるかのように言われました。

「えっと、マリー様。それはお亡くなりになった、お母様から頂いた大切なものですから」
私は、子爵家の一人娘であるクロエ。お仕えする立場上、強く言えるわけもなく何とか諦めて頂けないかと、力なく抵抗を試みました。

「はあ?!今、私にこのドレスは渡したくない。そう言ったわけ?」
「あ、いえ。でも、それだけは、申し訳ございません。他のドレス、これなんて如何ですか?私の持っているドレスの中で一番高価なものですの。きっとマリー様によくお似合いになります」

チラッと、マリー様に視線を向けると彼女は悪魔と呼ぶに相応しい表情をされていました。

「そう、成程ね。よっぽど、お父様に言いつけられたいみたいね」
「それだけは!御止めになって下さい。お願いします」

その言葉を聞くと、マリー様はニヤニヤとした表情を浮かべています。
「なに?そんなに止めて欲しいの?」
「はい。この通りで御座います」
私は頭を深く下げて、彼女に許しを乞いました。

しかし、

「残念でしたぁ!止めませーん」
心の底から嬉しそうに、そう言い残して彼女は私のお屋敷を後にされました。

その日の晩の事です。
私は父上に呼び出され父の書斎へと向かいました。何を言われるか、されるのかという見当はついていたので非常に足取りは重いです。

書斎のドアをノックして、父の書斎へと足を踏み入れます。
「お父様。御用とは何でしょうか?」

父は無言のまま、私へと近づいてきます。そして次の瞬間には、パン!という大きな音が鳴り響きました。
「この、ゴミが!屑が!マリーお嬢様に歯向かいおって。私がどれだけマルタン伯爵にお叱りの言葉を受けたか分かるか!?この恥知らずが」
私は父に頬をぶたれ、酷い叱責を受けました。

「申し訳、ございませんでした」
私は何も言い返すことが出来ず、ただ涙を堪える事で精一杯です。

「聞いたところによれば、マリーお嬢様が欲しがったドレスを差し上げないばかりか、お前には似合わない、などの暴言まで吐いて断ったらしいな。何様のつもりだ!」

「そ、そんなことは申しておりません。信じてください」
脚色まで加えられていたなんて。

「うるさい!お前の言う事と、お嬢様の言う事、どちらの言う事が正しいかなんて明白だ。口を慎め、ゴミの分際で」

再び手を振り上げた父でしたが、その手をハタと止めました。
「そんなゴミでも活用する方法はある。明日の社交界に出席して、マリーお嬢様の引き立て役として参加しろ。これ以上殴って、只でさえ悲惨な顔が変わっては、マリーお嬢様にご迷惑をお掛けすることになる。本日の謝罪も忘れるなよ!」

私は力なく頷くと、書斎を後にしました。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...