突然、天才令嬢に転生してしまった ③ 【南の国編】【西の国編】

ぷりりん

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影絵芝居 ①

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 天候に恵まれ想定より早く南の国に着陸することができた。しかしどうやら即位式の前に聖女である私の到着を知られると大変な人集りになるということで、とりあえず港湾都市の近くにある小さな島で待機することになった。

 クニヒト宰相が所有するこの島は原則として一般人の立ち入りを禁じている。そのため海岸から遠く離れたふもとにぽつんと立っている屋敷の周囲には緑しかなく、閑寂としている。

 屋敷に着いて早々、ジョセフとイグは色々と準備があるとのことで、そのまま部屋を空けた。

 二人共休む間もないのね。私たち三人だけ暇しているのはなんだか申し訳ないわ。

 そうして昼食をとりソファーでくつろいでいると、地図を手にしてニロが口を開いた。

「ふうん。王都までまだかなり距離があるな」

「あでも意外と道はきれいだから、一日で行けるよ?」

 くだけた口調でセルンがそう答えた。

「ふむ。そうか。そういえば其方は一度きたことがあるか」

「うん。あの時からこの島が気になってたんだよなー」

「ふうん」

 なんだろう。ニロとセルンが普通に会話してる。これは新鮮……!

 一応世界地図を覚えているが、会話に混ぜてほしくてついキョロキョロしていると。

「ん? 地図が気になるかい、お嬢?」

 目の前にいるセルンとばっちり目があった。こっくり頷くと、ニロがテーブルに地図を置いてくれた。






 えっと……着陸した港は確か東南の……。

「ふむ。こことここだ。フェーリ」

 そう言うとニロは王都と島を指差してくれた。








(ありがとう、ニロ)

 瞳で礼を言うと、セルンにもわかるように用紙を取り出す。

<確かにかなり遠いね>

「ふむ。セルンの場合と異なり、我々は再び船に乗る必要がある故、二日程かかるかもな」

「まあそうだけどさ。即位式まであと五日もあるし、のんびり行こうぜ」

 そう言うとセルンは「ふぁあ~」とあくびをしてソファにもたれかかった。

 昨日相談に乗ってくれたセルンはだいぶ疲れている様子で、朝からずっとあくびをしていた。セルンの腕の中でうっかり寝てしまったが、起きたら自分のベッドに入っていた。いつも通り彼が入れてくれたのだろう。

 すごい迷惑をかけてしまったわ……それで寝不足になっているのかな?

「堂々とあくびをするな。セルン」

「お前こそ堂々と先輩にものを言うな」
 
 セルンにそう返され、ニロは不快そうに腕をくむ。

「……なんだ。その態度は?」

「あのな、ニロ。お互い護衛だから普通に接していいと言ったのはお前だぞ?」

「ふむ。無論。余が指摘したのはその口調ではなく、其方の態度だ。セルン。初日から気が抜けすぎだ」

「態度? あくびくらいで? あーあ。だからオレはマジメなやつが苦手なんだよ。イチイチめんどくせ」

 う、露骨に嫌そうな顔をしないで、セルン……。いまのニロは王子ではないからってその言い方はよくないよ……。

 案の定ニロの顔に不満げな色が浮かんだ。

「セルン、其方は──」

「あのさー、ニロ。お前がくそマジメだから言うけどさ。同じ護衛ならオレの方が歳上で先輩なんだぜ? さん付けくらいしたらどうだ?」

「…………っ」

 セルンに発言を遮られ、ニロは更に眉根を寄せた。

 ど、どうしよう。ニロがそろそろ怒り出しそうだ……。

 言い合いにならないかと不安になったが、予想と反してニロはただ「ふんっ」と鼻を鳴らし、そっぽを向いただけだった。

 あれ? ニロが言い返さない……。
 ということは、一応正論だと認めたってこと……? 

 ニロの反応を見て私と同じことを考えたのか、セルンは得意げに笑った。
 あ、嫌な予感がする。

「ほらニロ。言ってみろ、セルンって……ん?」

<わざとニロを怒らせないで、セルン>

 紙でセルンを止めた。

「いやオレは後輩を指導してるだけだよ?」

<ダメだよ。仲良くしよう>

「あいつがさん付けしてくれたらな」

 いつもなら敬称なんか気にしないのに、こういう時ばっかり無理難題を言うんだから、もう……。
 あっ、でもニロは否定してないから、もしかしてありかも……?

 ふとニロの方を向くと、その期待が届いたのか、すっとニロが立ち上がった。

「考慮の余地もない」

 言いながら地図を本棚に戻すと、ニロはそのまま立ち読みをはじめた。

 喧嘩にならずにすんだけど、相変わらずピリピリしているわね……。

「ふああ」

 ソファの背もたれに首を休めるセルンとニロを交互にみて、こっそりため息をこぼす。
 険悪な雰囲気ではないけれど、微妙に空気が重いのよね……。どうすれば二人はもっと仲良くなってくれるんだろう……。

 しばらく沈黙が続くと。
「……スー」
「?」
 セルンの規則正しい寝息が聞こえてきた。

 まあ。珍しい。セルンがすやすやと眠っているわ……。
 やはり昨日は無理をさせちゃったみたいね。

 部屋に控える使用人に毛布をお願いすると、それをセルンにかけた。それに気づいたニロは顔をしかめ、近寄ってくる。

「……ぞんざい千万」

(あ、起こさないであげて、ニロ! 昨日の夜遅くまで相談に乗ってくれたから、セルンが疲れたのよ)

 ニロの手を止めてそう説明すると、相当セルンの態度が気に障ったのか、ニロはひどく険しい表情を浮かべた。

「夜、遅くまで……?」

 重厚感のある声と共に、絡めあっていた銀の瞳が眇められ、逆に手をつかまれた。
 え、なに。 怒りの対象は私なの……? 


「具体的にどこで何時までだ、フェーリ?」

 か、顔が怖い……。
 思わず後ずさる。

「……相談?」

 近くまで迫ってくるニロが怒り出すかと思いきや、突然首を傾げた。

(あっ、ーそれならもう解決したから、気にしないで……!)

 瞳でそう返すと慌てて彼から目を逸らす。

 ニロのことで悩んでいたなんて知られたら恥ずかしい……。

「何の相談だ、フェーリ?」

(些細なことだよ……! ニロが気にするほどでもないわ!)

 相談の内容をなるべく考えないでそう返せば、見逃さんとばかりに銀の視線が私の目を捉えてきた。

 なんとなくバレる気がして不意に窓の外に目をやると、ピカッとなにかが光った。

 ん? いまのはなんだろう?

 窓枠に手をかけて見上げると、山の上に黄色い建物が目に映った。

 あれは……塔? 下は丸いのに上が尖っている……不思議な形ね。
 塔の先端に付いている鏡のようなものがギラギラと太陽光を反射している。

「異な形をしているな」
 とニロもそれに目を引かれた。

(ニロもそう思う? あんな山の奥に……なんの建物だろう? 気になるね)

「ふむ。そうだな……。よし、行ってみるとしよう」

(え?)

「自由に散策してよいとジョセフ殿も言ってあるのだ。お前もあの塔が気になるであろう?」

(そうだけど……でもセルンがまだ寝ているから……)

「ふむ。ちと散歩するだけだ。セルンはこのまま寝かせておくとよい」

 寝かせるって……さっきまで『ぞんざい千万』とかあんなに怒っていたのに、なんでいまは嬉しそうなの……。

(ダメだよ、ニロ。セルンが起きたら心配してしまうからいけないよ)

 なにも言わないで行ったらあとでセルンに怒られそうで怖い。

「……そうだな。ふむ、であれば……二人で、散歩っと。……これでよかろう」

 紙にきれいな線を引くと、ニロは私の手を引っ張り歩き出した。

 前を歩くその広い背中を見て、だんだんと胸が鼓動を増していく。
 二人だけで散歩って……、そんなの、まるでデートみたいじゃない……!


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