蛇の香は藤

羽純朱夏

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一幕

肆話

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今朝の琥珀の口づけにドキドキしたまま仕事をしていると、隣にいる同僚に突然声を掛けられた。

「青葉さん、何かあった?顔赤いよ」

「!!」

「さては、本気で彼氏できたの?」

「いや、彼氏というか……そんなんじゃ」

彼氏とは言えないと思い口篭っていると、同僚は残念がるように声を発した。

「なーんだ。残念。青葉さんもついに春が来たと思ったのに……」

そんな彼女の声を聞きながら仕事に集中する。
今日は少し資料をまとめなくてはならず、仕事が長くかかりそうだ。
仕事をしながら机にある雑誌に目をやると、ある記事に目がついた。
とある蛇の神社が金運パワースポットで人気らしい。

「この社に行ったら……」

その拝殿の台座に緑がかったものが目に留まった。

琥珀様と同じ蛇…‥?
どうやら、この珍しい蛇見たさに女性陣が殺到しているようだ。

「珍しい色。透明な緑……」

でも琥珀様の方がどちらかというと神聖で可愛い。
どこか心の中で惚気てしまう自分がいた。

気づけば昼になり、彼が作ってくれた弁当を広げると、山菜物の具が丁寧に敷き詰められていた。
彼が言ってた通り、確かにこれでは少し足りないかもしれない。

「…‥」

「わ~野菜たくさん」

「わっ!!」

「いつもと違う弁当。やっぱり誰かいるの?」

「あ、いえ……少し、健康を考えましたっ」

同僚に責め立てられ急いで弁当を食した。
口に含むと甘さやほどよい塩加減……これを彼が朝から作っていたのを想像すると何故か笑えてしまった。
『帰ったらお礼を言おう』そう思いながら弁当を味わった。

それから、定時になり仕事から帰る帰り道、とあるアクセサリー店に目がいった。
そこには彼の目に似た石が飾られている。

琥珀――アンバー――

茶色く澄んだ石は彼の瞳によく似ていて、迷わずその首飾りを買うことにした。
ただ金属は、神にとっては苦手なものだと言っていた気がしたため、麻紐に切り替えてもらった。

「ちょっと高かったけど、まぁいいか」

足早に帰宅し、部屋の鍵を開け中に入るとソファーに白蛇の姿があった。

「琥珀様……寝てる?」

近づいてもずっと動かないまま。声も聞こえて来ないので眠っていると思った。

「疲れてるのかな…‥」

白い裸体を撫でると、すべすべな質感に何度も肌を撫でた。
すると寝ぼけているのか、甘えた声が聞こえた。

『ん~。まだ眠い……』

「あ、ごめんなさい……」

ゆるりと、少し身を動かしたかと思うととある箇所に目がいった。


「何だろこれ……?」

裏側の腹の辺りに二つとある小さな

「腫物かな?」

不安になりその箇所を撫でると、声がした。

『……っ!やめろ、よせっ……!!』

「え。痛いですか?」


その薄く赤みがかっているモノを再度指で撫でると、蛇が素早く動き、目の前に大きな影が広がる。

「くっ……っ。鈴っ、何してくれる!」


「!!!」

裸体の姿のまま荒々しく見る瞳は、琥珀の色を無くし赤く映る。
その姿はどこか、襲い掛かりそうな獣のようで身が強張ってしまう。

「琥珀様……痛むんですか。これ腫れて」

彼から発せられる花の香りが、濃厚に辺りを包みだす。

「これはっ……。腫物……じゃない」

「え……?」

意味が分からないまま固まってると、熱を帯びた瞳が私を捉えた。

「お前は、急所に触れたんだ……」

「まさか…‥ご、ごめんなさいーー!!」

内容を理解した自分は、何てことをしてしまったんだろうと思い、恥ずかしさと罪悪感で離れた。


「私、何勘違いして……」

よりによって男の急所とは……
そう思っていると、琥珀は頭を抱えながら立ち上がり言った。

「はぁ~。もういい……。少し障りがあるから……風呂行ってくる」

髪をくしゃりと触られた後、一人琥珀は鈴の傍から離れた。
きっと彼は怒ってしまったに違いない。そう鈴は思い困ってしまった。

「どうしよう、顔向けできない……」

いわゆる男の人の大事な部分に触れてしまったことに、恥ずかしさが込み上げる。
しかも強くその部分に力を当ててしまったし……
悶々としながら夕ご飯の支度を始めた。

「……」

水に打たれながら熱の篭った箇所を開放した後、暫し己の姿を見つめる。


「参ったな。顔を合わせたらまたどうなるか……。我慢してるのがこんなにも応えるとは」


浴室から上がると、そこにタオルを差し出す彼女がいた。
顔を見るのを躊躇っているのか、顔を地面に伏せている。

「こ、これ……なかったから」

「あぁ、ありがとな」

いつも通りの琥珀の反応に、鈴は少しだけ安堵した。

「ごめんなさい。本当に……あの、ご飯できたので」

「あぁ、鈴に変なもの見せたな……うまく隠しているつもりだったが」


「いえ、勝手に勘違いして……」

「心配してくれて嬉しかったよ、さて、身体拭くから先に席に着いてろ」

「はい……」

彼女がその場を過ぎ去った後、琥珀は溜息をつくように呟いた。


「優しさは時に罪だぞ、鈴……」

衣に袖を通し台所に向かい席に着くと、彼女の作った手料理を食べる。
先程の緊張が残っているのか無言のまま食事をする彼女に視線を移すと、やはり俯いたまま食事をしている。


「鈴、俺の料理真似たのか?」

「あ、はい……」

彼のようにうまくは作れないが、彼の作っていたものを真似て頑張って作ってみた。
鈴は、琥珀が食べている様子をちらりと見やると、また視線を下に落とした。
少しして彼が呟いた。

「美味いよ。ありがとう……」

食べ終わった後も彼をうまく見ることができず、食器を片付けようと立ち上がると、手を止められた。

「え……?」

「片付けとくから、風呂行ってこい」

「あ、はい……」

促されるまま浴室に向かうと、彼の残り香が香っていた。

「この香りいったい何の花だろう?」

甘くてどこか落ち着く香り…‥
思い浮かべながら浴槽に浸かっていると、不思議な気配がした。


『まだ。消えていなかったか……お前のせいで……』


「!!」

背後からゾクりと緑の光が伝うのがわかった。

「な……に」

『あいつの香…‥お前が番となる女か』

じわじわと、背筋に冷たく滑り気のある感触がし始め、声が笑いを含むようにこだまする。

恐怖のあまり思わず叫んだ。

「琥珀様!!助けて――!」


「!!!鈴」

鈴の悲鳴に急いで駆け寄ると緑の光が映っていた。

―嫌な予感がする

「開けるぞ!」

勢いよく浴室の扉を開けると、見覚えのある緑の光が目に入った。
その光を見るなり、その声は憎しみを込めたように低く語りだす。

『しぶとく生きているな琥珀……』

「翡翠……どうして」

仲間の神霊の一人、翡翠。あの日別れてからもう会わないと思っていたが、鈴にまで手を出しに来るとは。
緑の光はゆっくりと蛇の姿になり、地面に降りると人の身になり、俺に向かって叫んだ。

「琥珀よ、人の姿でいるとは醜い化け物が!」

「黙れ!何をしに来た」

「お前の神気を感じたからその確認だ、他の仲間にも報告せねば……」

「もう関係ないだろう!そっとしておいてくれ」

「今度の番はいつまでもつかな……」

気を失っている鈴の身を、翡翠は嘲笑いながら触れていく。
その光景に苛立ちが募る。

「穢れた手で鈴に触れるな!」

叫ぶと、翡翠は笑いながら再び蛇に姿を変え、彼女の頬を舌で舐めた。

『俺がいずれ攫ってやるよ。まだ、男を知らない生娘か……面白い。琥珀何を我慢している?奪わねば取られてしまうぞ』

「っ。出て行け!!」

『はははははっ!!』

部屋に高笑いが響き緑の影が消えた後、傍で横たわっている鈴を抱きかかえ、必死に呼びかけた。

「鈴、起きろ!目を開けてくれ」

「……あ。琥珀様。今のはいったい……私」

「あいつはかつての朋輩だ。主の元でそれぞれの集落を守っていた」

「何でその方が私を?」

「俺が、生きていたのを知り近づいてきたんだ。あいつは俺が嫌いだからな……さぁ、身体を拭いて着替えろ……」

「あっ……」

自分が裸のままだということを知り恥ずかしくなった。
すかさず身体を隠すと、彼は悪いように視線を逸らした。

「……向こう行ってるから」

そう言うと目線を合わせないまま、彼はその場所から立ち去った。
琥珀が離れたのを確認すると、急いで服を着て寝る支度をした。

彼がどうして狙われているのかわからないまま、とりあえず彼が危機に陥っていることは理解できる。
布団の元へ行くと彼はどこか元気がない顔で私を近くへ招いた。

「おいで……」

「……あの、琥珀様」

「何だ?」

「これ、よかったら」

帰り際に購入した贈り物の包みを渡すと、彼はすぐさま中身を覗いた。

「……これ」

「琥珀様の色だと思いまして……アンバーの首飾りです」

「ありがとう、俺の色か……」

首飾りを付けると、その場に横たわり私を見上げる。

「ははっ。鈴といるといろいろ困惑するけど、嬉しい……」

「今日はごめんなさい。その……」

言葉に詰まっていると、大きな手が頬を包む。

「鈴といると心が温かくなる。本当に幸せで……」

「そんな、大げさな……」

寂し気な彼の顔を見ると、何故か可愛く思えてきて、頭を撫でた。

「琥珀様って、可愛い……」

「……可愛いとは?なんだよ」

軽く彼に凭れ掛かると花の香りに包まれる。

「鈴……俺の事、呼び捨てで呼んでくれないか」

「それは……」

「駄目?」

耳元で囁かれた途端変な声を上げてしまった。

「琥珀様……っ」

「ほら、様って言ったな……」

耳元での声が甘くなり、耳朶に彼の舌の熱が当たる。

「やめてくださ…‥」

「ふっ、顔を真っ赤にして……可愛いなぁ」

「こ、琥珀さん。意地悪しないでください……」

絶対からかってると思う彼の言動に翻弄されそうになりながらも、元気になってくれてよかったと思う。

「さん付けか、つれないな……」

「もう、寝ますよ」

「仕方ないな、わかった。おやすみ……」

向き合わせの体制になり、腕の中にすっぽり収まる形で眠りについた。
花の香りに抱かれていると、ある光景が頭の中に広がった。

それはいつの時代か、田舎の風景が広がっている。


『蛇神様、村の娘を捧げまする』

村人たちは、一人の娘をある社へ引き渡す。
その社から白き大蛇が姿を現していた。

『……おぉ、今度の女はどんな者だ?』


神に捧げる贄として女の人たちは、彼の元へ行っていたんだ。
この時の彼は人の姿ではなく大蛇の姿のままだ。

『娘よ……何が欲しい?何でも叶えてやる』

優しい言葉をかけながらその娘に近づくも、その娘は怯えるように大蛇に向かって叫ぶ。

「……近寄らないで化け物!」

『……っ』

異形の姿から人になり、どこか悲しそうな姿の彼が映し出された。
人となった彼は震えている娘の肩を持ち、宥めるように語り掛ける。

「怯えるな。傍にいてくれるならこの村を守ってやる…‥お前も幸せにしてやる」

「……」

その娘はひたすら彼に怯えている人だった。
彼が作った料理にも口を付けず、ただ自分の人生がこんな形になったと憎んで、ひたすら死を乞うばかり……

「……どうして食べない!このままでは死ぬぞ!」

「貴方様のもとにいるくらいなら消えたい……。私は人に嫁ぎたかったのに…‥」

「っ……この姿を持っても駄目なのか?」

彼はその娘の最後を、ただじっと見ているだけだった。
暫くしてその娘は静かに息絶えていった。

「何故…‥幸せにできないっ。どうして、拒まれる……何度も何度もっ……!」

その娘の死体を抱えながら、低く悲し気な声を漏らす彼の瞳からは涙が溢れていた。



そこからまた景色は移り、蛇の姿の彼ともう一人白き衣を纏った神々しい女性の姿が映った。

「琥珀、もう人との関わりなど捨て、我がもとに帰ってきたらどうだ?」

その女性は琥珀の主だろうか?彼女は心配するように声をかけている。

『主様、神と人との絆は難しいものですね……もう七度目です』

琥珀は項垂れるように、彼女に話しかけていた。

「お前は何故そこまでして贄と結ばれようとする?」

『共にいる以上悲しい思いはさせたくないのですよ……』

「だが、お前の優しさはいいものだ。いつか結ばれるとよいな……」

『……はい』

もう少し彼の事が知りたい……そう思うと情景が変わった。



『今年も贄がよこされなかったようだな。琥珀、人間なんぞにうつつを抜かして呆れる』

あの時の緑の光を思い出した。この人が彼を虐めていた人だ。


『……村が平和ならいい。贄がいなくとも。力が削がれていくことになるが……」

「うぇぇぇん」

『?』

子どもの鳴き声が聞こえ傍に近づいていくと、そこには火災で家族を亡くし孤児になった女の子がいた。
彼はその女の子に向かって声をかけた。

『おい。何を泣いている……」

「っ。母様と父様死んじゃった……」

『……そうか、辛いよな』

「蛇がどうして喋るの?」

その幼い瞳は白い蛇を見つめ問いかける。

『神だから……かな』

「この村の蟒蛇様?」

ふとその女の子からお腹の虫の音が響くのがわかった。
その子がお腹を鳴らすと、彼は女の子を身で担ぎ上げ移動しだした。

『ご飯やるから捕まってろ』

「……はい。えへへ」

女の子は嬉しそうに大蛇の身体にしがみついた。
洞窟に入り暫くして、女の子の前に人の姿の彼が現れた。

「ほら、握り飯だ」

「わぁぁ!!」

「たくさん、食べろ。まだ足りないなら作ってやる」

「ありがとう」

それから温かな光景が浮かんでは消えていく。
子どもたちと共に、にこやかに遊ぶ彼の一面を見た。

「琥珀さまー!」

「こらっ、悪戯するなって……」

「高い高いしてー」


この時の彼はすごく幸せそうで、いつしか子供たちの神様になっていた。
彼が育ててきたその女の子はしばらくして立派な娘に育った。
この幸せな光景が続くと思った。

「琥珀様!私ね……」

「何だ?どうかしたか?」

「ある方に見初められて……その方の嫁に行きたいの」

「え……嫁?」

「ここまで育ててくれてありがとう。琥珀様のところにいたいけど。貴方と私は生きる世界が違う……」

「……化け物だからか?」

「もうっ。そんなんじゃ」

「わかった……お前が幸せになれるなら手放してやる」

「ありがとう。なんてお礼を言っていいか……」

「幸せに……なれよ」

それから琥珀は人の姿にならず社に篭ってしまった。まるで心に蓋をするかのように……
その後、女の人は別の人のところに嫁いでいってしまった。
寂しそうに見送った彼の瞳からは、ここでも涙を流していた。


とある日、川沿いの光景で、再び翡翠が映し出された。
どうやらここでは、彼の贄が翡翠によって奪われたようだ。

『翡翠!!何故だ……何故彼女と』

「あぁ、琥珀。あの女は大層美しいな」

『……翡翠っ、よくも』

「寵愛を受けるのは主様だけでいいのでは?あの方は俺を見てはくれない。いつもお前ばかり……」

『関係ないだろ……返せよ』

鋭い視線で飛びかかった彼に対し翡翠は力で跳ね返す。

『ぐあぁぁ』

「今では俺のほうが上だな」

『……』

「ありがたく、あの女をいただくぞ」


翡翠が消えた後、轟くほどの叫びが起こり大地は揺れた。

「何故、奪われる。何故いつもうまくいかない……何をしたというのだ俺がーー!」

(こんなの見たくない……やめて!)

「俺は、いつまでこの絶望ばかり味わうんだ!」

「琥珀さん……」

沈んでいる彼の身に触れると、微かに反応があった。
傍にいないはずなのに、声が返ってきた。

「誰だ……?」

『貴方に人を傷つけてほしくないです』

そう声をかけると、彼がぽつりと声を発した。

「何百年とこの土地に尽力しても、俺には一握りの幸せしか味わえない。牡丹、何故俺ではなく奴を……」

『その人の事、好きだったんだ……』

彼が想いを込めた人は、どうして彼を拒むのだろう。
そう思っていると、彼と目が合った。
琥珀色の瞳は、涙でどこか潤んでいた。

「お前、どっから来た?ここは俺しかいられないはずだ」

『私は、貴方の……』

そっと彼を包むように抱きしめた。

「……」

花の香りはしなかったが、彼の体温を感じる。
この人を悲しませたくないと思い、その身を強く抱きしめた。

「何だ……寂しさが見せた幻か……?」


――鈴っ!!――


「!!!」

突然叫ぶ声が聞こえ、目を覚ますといつもの彼がいた。

「何の夢見た?ひどく魘されてたみたいだが」

「大丈夫です……っ」

先程の彼の状況を思うと涙が溢れてきた。
必死で我慢しようとするのに、とめどなく溢れてきてしまい俯いた。

「おかしいな」

「おい、泣くなよ……」

抱きしめられると変わらずの花の香りがする。

この人の悲しみを拭い去られたらいいのに……彼はずっと小さな幸せを望んでいた。
相手を悲しませないように……。

「鈴、本当に何があった?」

「私は捨てられるまで一緒にいますから……」

「は?捨てるって……そんなことしないよ」

「……」

「やれやれ、泣き止まないと。食べるぞ……?」

彼を受け入れてあげたい、私は彼に食べられてもいいと覚悟して呟く。

「……はい」

「……って、え!!」

その返事に驚いたのか、回している手が緩んだ。

「本気にするなよ。承諾したら。俺は本当、何するか……」

「……琥珀さんなら大丈夫って信じてます。」

「本当にいいのか……?」

掌が私の頬を撫で伝う涙をぬぐう。にこやかに微笑むと目元に唇を寄せられる。

「っ……」

承諾したものの恐怖を感じ目を瞑る。
それを確認したのか、髪を優しく撫でられる。

「怖いよな。いきなり酷いことはしないよ……」

「……んっ」

唇が交わると温かい舌が口内を探るように動く。
緊張を解くかのように、背を撫でながら擽るように触れていく。

「……鈴っ、平気……?」

心配するように見つめてくる瞳に、不安ながらも頷いた。

「はい……」

返答に優しく頭を撫でられる。彼の指先が、まるで大事なものを扱うかのように、私の心を宥めていく。

「いい子……ならもう少し……」

「……」

いつの間にか、彼の手が上着に触れていき、下着の中へと手が滑り込んでくるのがわかった。
胸元に指が這い、先端を軽く弄られるのがわかると、再び口づけられ口内を甘く侵される。

「ん……っ」

声を漏らすと、彼はそれ以上することなく、そっと私から手を放し呟いた。

「っと、ここまでにしておくか。俺の枷が外れる……」

「……」

「これ以上したら。止められなくなる……」

困ったような表情をして上体を起こすと、耳元で擽るように彼が囁いた。

「怖がらないように……少しずつ……な」

「っ……」

花の香りが濃くなっている感じに、彼の気が高揚していると感じる。
それと同じくらいに、自分の鼓動も早鐘を打つ様に、胸が高鳴っていた。

「ほら、仕事行かないとだな」

「はい……」

気が付けば、すでに日が昇り始めていた。
いつものように支度をして彼女は家を出ていく。
それを黙って見送った後、一人その場で苦悩した。

「参ったな。唐突すぎて……」

気分がまだ高揚したまま、首にかけている同じ名の飾りを握りしめ、思いに耽った後。琥珀は静かに顕現を解いたのだった。
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