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駆け落ち、はじめました
しおりを挟むアスター家とデューク家は500年の歴史を誇る由緒正しい犬猿の仲だ。
当主同士の意地の張り合いは上流社会の間でも触らぬ神に何とやらだし。
その跡取りたちに至っては、学生時代から2大派閥に分かれて揉める位のバチバチ具合である。
しかし、どんな一族にだってはみ出し者はいるわけで。
アスター家の次男テディと、デューク家の三男オスカがそのはみ出し者に相当した。
そして変わり者故に2人は当然のように一族の慣習に逆らって仲良くなった。
しかし親友同士で終わればいいものを、裸でいちゃつく程の仲になってしまった理由は愛の女神に聞くしかない。
どうせ女神の息子が愛の矢で射る標的を間違えたとかそんなとこだろうけど。
「どうするテディ」
「どうしようかオスカ」
今日も人目を盗んで、こっそり持ち込んだシーツをグシャグシャにするほど愛し合った2人は気だるい中で途方に暮れる。
「どうも、うちの執事がオレの身辺を嗅ぎまわってるみたいなんだよね」
「俺の所もお袋が何か感づいたっぽい」
「オレらどうなる?」
「どうなるって……想像に難くないな」
「間違いなく火炙りだね」
「お互い家族から追い回されるだろうな」
「わお、二大侯爵家初めての共同作業じゃないか」
「俺らが家族たちを繋ぐ懸け橋になるわけだ」
「感動的だね」
「感動的だが」
「お前を失ってまでやることではないなあ」
「同感だな」
「……別れるか?」
「冗談」
「じゃあどうする?」
「決まってるだろう」
「一応準備はもう出来たんだ……」
「気が合うな。俺もちょうど終わったとこだ」
「なら決行は」
「明日の新月!」
そして次の日2人は夜に落ち合った。
「よお」
「よお」
「なんつって出てきた?」
「夜釣りに行くっつった。お前は?」
オスカは荷物と共に持ってきた釣竿をテディに見せつけた。
「山狩り」
テディの背中には野宿用の簡易テント一式が担がれていた。
「で、何処行く?」
「お前となら何処へでも」
「オレも何処でもいいなあ……」
「海でも山でもお互いの荷物があればなんとかなるしね」
「お互い示し合わせたようにちゃんと違う物を持ってこれるのは愛だね」
「じゃあ運命に身を任せてみるか」
そう言ってテディは落ちていた枯れ木の枝をブンと空中へ放った。
空高く放られた枝はカランと音を立てて2人の道行きを示した。
「海でも山でもないな……」
「そのまま街道を行けってか」
「まあそれもありか」
「それもありさ」
「じゃあ行こうか」
「ああ行こう」
どちらともなく手を取り合い2人は歩みだした。
「なんていうかさ」
「うん?」
「……初めてだな。こうやって堂々と外で手をつなぐの」
「ああ、これからはずっとだ」
「ずっとか」
「ずっとだ」
星明かりの中、2人はこそばゆそうに微笑み合う。
「しかし何だな。ここまで順調だと拍子抜けするというか」
「まあお互い元々跡取りってわけでもないから監視は緩いしな」
「そうなると、これは駆け落ちというよりは……自立?」
「そうか。そういう考えもあるな!」
「どうせいつかは屋敷からおん出されるわけだしな」
「ならこれは一足早い自立ということで」
2人は同時に来た道をくるりと振り返った。
「親父様、お袋様。兄上姉上、弟妹共よ」
「今までお世話になりました」
「「おれたち、幸せになりますっ!」」
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