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36.形勢逆転
しおりを挟む当事者のはずなのに一切話に加われず、一方的に責められるアビリウスさんを私はぼんやりと眺めていた。
「女の子は繊細なんだよー?」
「はい…」
「今まで付き合ってきた経験はあるんですか?」
「い、一応…」
「これは…期待できませんわぁ…」
真実達は最初こそアビリウスさんにビビっていたのか口数も少なかったが、それも直ぐになくなった。
アビリウスさんも怖がらせた相手が私の友人だとわかって申し訳なく思ったのか、反論もせず女の子三人相手に小さくなっていた。
「伊織ー、この人のどこがいいの?」
「うえっ?!」
「そうだよ、村瀬さん。女の子泣かすような男だよ?今からでも遅くないっ!」
「えっ!!!」
矛先を私に向け、親指でアビリウスさんを指差しながらぶすっとした真実に乗っかるように南さんがにこやかに告げる。
口にこそしてないが、西田さんもうんうんと頷いている。
だんだんアビリウスさんが不憫に思えてくる。というかそもそも私にも原因はあるわけだし…。
「アビリウスさんは優しい…よ、」
「イオリちゃん…!」
フォローしようとそう言えば、アビリウスさんはキラキラと瞳を輝かせ、御三方は納得がいってないのか死んだ瞳でこちらを見る。
「優しいなら、どうして村瀬さんを不安にさせるような言動をしたんですか?」
「確かに」
「うっ、それは…」
たじろぐアビリウスさんに詰め寄る西田さん。
そろそろ止めようと思っていると、南さんがちょこんと横にやってきた。
「村戦さん、ごめんね」
「え?」
「いやー、村瀬さんに何も聞かずに乗り込んじゃったからさ…余計な事したかと思って」
「ううん、そんな事ないよ…きてくれてありがとう」
実際のところあのタイミングで三人が登場しなかったら私達は自分を卑下する事をやめなかったように思う。
それを考えると来てくれたことは、本当に有り難かった。
「…それならよかった」
「うん、あ…一つ聞いてもいい?」
「ん?」
気になっていたことがあった。それは、
「どうして来てくれたの?」
「あはっ、何か似たような事二人にも言われたなあ」
それを聞いてへらっと気の抜けた笑いをした南さんはさも当然のように言った。
「友達だから、困ってたら助けるよ。当たり前じゃん」
「!!」
「あれ、違った??」
「ちっ、違わない!!」
何だか少し照れ臭くて、思わず大きな声でそう言うと南さんはまた笑っていた。
「やっぱ村瀬さんおもしろっ」
「え、面白いポイントあった?!!」
「あったあった、」
「イオリちゃんー助けてぇー」
「あっ、伊織に助け求めてる!」
けらけらと笑っている私達に助けを求める声がする。
さすがに可哀想だと二人を諌めると、まだ少し言い足りないのか西田さんは口をへの字にしていた。
真実は完全にそれを面白がって煽っているだけだ。
「もう十分反省しているから、ね?」
「えー?誠意が見えないんだよなあ??」
「真実…悪い癖が出てる…」
ニヤニヤとアビリウスさんを揶揄う真実は生き生きしている。
「誠意って…」
「その仮面、そろそろ外そうか!」
「賛成ー!」
「みっちゃんまで…」
「あっ、ちょ!!」
南さんと西田さんが腕を掴んでアビリウスさんを拘束。真実は何だか無駄にいやらしい手つきで仮面に手を伸ばした。
「…よっ!!…イェーイ!とったどー!!…おお!!」
「…噂は間違ってなかったみたいだね」
「超イケメンじゃん!!やばー!!!」
「…あはは」
「…こんなイケメンが彼氏だと伊織も不安に思うわなぁ…」
「ちょ、真実?!」
南さんがイケメンイケメンと騒ぐなか、ぼそりと真実に耳打ちされてぶわっと顔が赤くなる。
「いやいや、私達は…!」
まだその結論には至っていない為慌てて否定しようとすれば、隣にアビリウスさんがやってきて私の腰に手を回す。
「僕も結構不安なんだよ?」
「えっ?」
「こんなに可愛いと悪い虫がたくさんつきそうでさ」
「そこは私にお任せください!伊織を貴方の手から守ります!!」
「え、僕が悪い虫なの?」
「いやらしい手つきで触るんじゃあない!!」
「僕は許してほしいな?」
勢いよく手を叩かれて、またしても追いかけまわされているアビリウスさんを見ながら呆然としていると、西田さんに話しかけられる。
「あの人相当村瀬さんの事好きだよ」
「えっ?」
「聞いてて恥ずかしくなったもん、相当大切に思われてるんだね」
「…そうかな、」
「自信持って。きっと村瀬さんの不安は取り除けるよ」
余程の根拠でもあるのか西田さんはそう言って、いまだ追いかけている真実といつの間にかそこに加わっていた南さん二人の首根っこを掴んでいた。
「ほら、帰るよ」
「え、私達だけ?!伊織も帰ろうよー!」
「村瀬さんまた明日学校でねー!イケメンさんもちゃんと伝えるんだよー?!」
「じゃあ、また明日」
ずるずると二人は西田さんに引きずられ出て行った。
残された私は静かになった空間で一人大きく息をついた。
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