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35.引けない side南
しおりを挟む酷く狼狽している村瀬さんとは違い、まるで私達が来る事をわかっていたかのように微動だにしない占い師に私の方が怯んでしまった。
でも引くわけにはいかない…!
「…こんばんわ。…一応聞くけど、何しにここに来たのかな?」
「あっ、…私達は…」
低く響く男の声は口調こそ柔らかなものだったが、仮面から覗く瞳はぞわりとするほど鋭く冷たい。
後ろにいる二人も私と同じなのか動く気配はない。
「何?」
「えっ、と」
仮面をつけているとはいえ、見た目は細身で気も弱そうに見える。それなのに眼光と鋭さからか占い師から向けられる視線に上手く言葉を発せない。
「……はぁ…答えられない?」
「…っつ!!!!」
瞳の冷たさに同調するかのように、この場の温度も下がっているのか体の震えが止まらない。
「申し訳ないんだけど、今日は帰ってもらえるかな」
表情こそ笑っているが、目は全く笑っていない。
私達がこれ以上ここにいる事が余程気に入らないらしい。
「今、大事な話してるんだよね」
「だっ、大事な話って…何ですか」
自分の声が震えているのがよくわかった。
それでも負けるわけにはいかない。
「…いっ、伊織が泣いてるのに…帰れません!」
まみりんの声も震えていた。
「そっ、そうです!女の子を泣かせてまでする話って何ですか!!」
「…君達に関係ないよね」
村瀬さんの姿を隠すように私達の前に立つ占い師は、じりじりとこちらに近付いてくる。
ここで怯んではいけないと声を張り上げた。
「友達だから関係あります!!」
「あの、あなたと話して泣いてるんですよね?これ以上話し合いもできなさそうですし、連れて帰ってもいいですか?」
「伊織!!帰ろう!!」
追従するようににっしーとまみりんが声を上げてくれたおかげか、占い師が少し怯んだように見える。
「村瀬さん!!貴女を泣かせるそんな男なんかこっちから捨てちゃえ!!!」
村瀬さんに呼びかけるように言うと、占い師の後ろから顔を出した彼女は心底驚いた様子でこちらを凝視していた。
「えっ、うっぇ??南さん…??」
状況がいまだ把握できていない村瀬さんは涙こそ止まっているように見えるが、表情は強張ったままだ。
「ごめん!朝の独り言聞こえてたの!村瀬さん、彼との関係性で悩んでたんだよね!」
「…えっ?………あっ!!!!」
ようやく理解できたのか徐々にその表情は驚いたものに変わっていき今度は顔が赤くなっていくのがわかった。
「聞かなかった事にするつもりだったんだけど、辛そうな顔を見ちゃったから…!」
「あっ、…」
それを聞いていた村瀬さんはもとより、何故か目の前にいる占い師も落ち込んだ様子。
何なら村瀬さん以上に肩を落として悲しそうにしているものだから思わず、
「いやいや、あなたが原因でしょ?」
そう言い放つと、入ってきた時の態度からは似ても似つかないほど弱々しくなった占い師。
それにはさすがに驚いたが、この隙に村瀬さんを占い師から引き離そう。
まみりんも同じことを思っていたのか、私より早く村瀬さんの元に駆け寄っていた。
「伊織!!行こう?」
「真実…私、」
まみりんに繋がれた手をやんわりと解く村瀬さんは、行くことを躊躇っているように見える。
「村瀬さん…」
「…村瀬さんこの男に何かされた?」
「まっ、まって!違うの!!」
様子を伺っていたにっしーがそう言うと、慌てて否定をする村瀬さん。
「…じゃあ…、」
「あの!私が全部悪いの!!この人は悪くないから!!」
「…ほんと?」
「うん、だから…」
「イオリちゃん、待って」
「…アビリウスさん、」
占い師を庇うように自分に非があると言う村瀬さんを止めたのは、私達ではなく占い師だった。
「…だめだよ、さっき言ったじゃない。君は悪くない」
柔らかな、慈愛に満ちたその声色は聞いている私まで勘違いしてしまうほど愛に溢れていた。
もはや私達がいる事など気にしてもいないのか、完全に背を向けて村瀬さんに向かってそう言う占い師。
「…みっちゃん、私達…」
「…やっちゃったね」
「…あの感じ心底村瀬さんが大事って感じよね」
真意はどうあれ、今の二人の姿は誰の目にもお互いを思い合っている恋人にしか見えなかった。
それを物語るように、村瀬さんの隣にいたまみりんが顔を真っ赤にしてこちらに小走りできた。
「熱々なんですけど!?」
「…これじゃあ私達が悪者だね」
「あちゃー…」
すっかり気の抜けた様子でにっしーが呟く。
「でも、村瀬さんが泣いてた事は事実だからそれ次第」
「まあ…そうかもしれないけどさ…」
「…そうだね、結果的に君達も巻き込んでしまったようだし…」
「?!」
私達の会話に介入してきた占い師は、私たちに向かって深々と頭を下げた。
「さっきは怖がらせてごめんね」
あまりにも違う態度に、ぽかんと空いた口が塞がらず占い師を見上げる事しか出来ない。
「それで、君達は何をしにきたのかな?」
最初に言われた言葉を再び投げかけられたが、同じ言葉とは思えない柔らかな雰囲気に私は気付けば口を開いていた。
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