【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

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32.疑心暗鬼

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 今日一日、ずっと考えていたアビリウスさんとの関係性。
 考えれば考えるほど、答えがそこにしか行きつかなくて私の気分は最悪だった。

「悪い方に考えなければいいんだけど…」

 出会いから仕組まれていたものだとしたら?
 キール君も、あの瞳ですら演出だったのでは?と悪い方にばかり考えが及んで、もう自分の中では到底処理できなくなっていた。
 だからと言ってアビリウスさん本人に、私達の関係って体だけ?なんて聞く勇気も勿論ない。

「…はぁ…」

 アビリウスさんの事を疑っている自分にも辟易として溜息ばかり溢れる。
 夜会いに行くのはやめておこうか、そんな風に思っていると着信が入る。

「ん?…あ、真実」

 画面には【真実】の文字。そういえば、何も言わずに帰ってきたなと電話を取る。

「伊織?今大丈夫?」
「うん、どうしたの?」

 なんて事ない日常的な会話をしながら、わざわざ電話してくるなんて珍しいなと思っていた時だった。

「うん…ねえ、ちなみに何だけどさ…今日の夜って…」
「よっ、夜?!!!」

 思わず大きな声が出てしまった。
 真実と遊ぶことはあっても、それは夜ではない。まさかの問いかけに心臓がどくりと跳ねた。
 もしかして南さん同様、真実も何か怪しんでいる?
 
「あー、ごめん、夜はちょっと用事が…明日の放課後なら、」
「ううん、私もいきなりごめんね!じゃあ、また明日!」
「うん、またね」

 電話が切れてもなお心臓の鼓動が早い。

「嘘ついちゃった…」

 真実がただ夜に遊びに行きたいだけならとても申し訳ない事をしたが、今まさに夜にしか会えない彼のことを考えていた私にとってその単語は自分を冷静に保てなくなるものだった。

「良くないなあ…」

 朝はあんなに幸せな気持ちだったのに、今じゃこんなにどんよりと陰っている。
 
「やっぱり会いに行く…で聞く?」

 聞いて、アビリウスさんの口から語られるものが必ずしも私が喜ぶものではないとしたら?

《全部お前を食うための演技だよ、演技》
《お前みたいな女に僕が優しくするわけないじゃん》

「っ!!」

 勝手に自分の中で妄想して、そんな事言われた事もないのに、もしそう思っていたらと傷付くくらいには私の中のアビリウスさんという存在はとても大きなものになっていた。

「…はぁ…」

 アビリウスさんがそんなことを言うはずない、そう頭では思っていても、実際に彼が考えてる事が全てわからない以上それが本心かもわかりようがない。
 
「信じたいのに…信じれない…」

 自己嫌悪と疑心暗鬼に精神が不安定になる。

「…っはは」

 こんなに心を乱されるとは思いもしなかったなと一人自嘲した。

「…弱いなあ…」

 もはや依存に近い感情をこんな短期間で抱くとは思わなかった。
 そこまで不安になるなら聞かずに現状維持すればとも思うが、一度芽生えた思いがそれを許さない。

 いつのまにか彼の心すら欲している私は不安を抱きながらも結局アビリウスさんに会いに行った。



 
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