【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

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26.きっと見透かされてる

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 どれくらいそうしていたのか。
 鼻を啜る音が聞こえなくなると、私を抱きしめる腕が強くなった。

「アビリウスさん?」
「…僕はまた本能に従って君を殺してしまうかもしれないのに…怖くないの?」

 青い瞳を見て恐怖を感じなかった事は事実だ。けれど…。

「んー、分かんない」
「え?」
「怖くないって言いたいけど、実際にそうなってみないと分かんないよ」

 正直に伝えた。今のアビリウスさんに怯える要素は一つもないし、美月さんの話はそうなる可能性があると示唆しているにすぎない。

「何ならもう一回あの目が見たいまであるよ?」
「怖いもの知らずだなあ…」

 そう言われて確かにそうだなと一人納得したが、結論から言えば《今は怖くない》ってところだなと思った。

「一つ質問しても良い?」
「ん?」
「青くなったのって、美月さんと私の時だけ?」
「そう、だね。恐らくなんだけど、」

 アビリウスさんの推測としては感情が昂った時に起こるのではないかということだった。
  
「…そっ、か」
「前例がそれしかないから確証はないけど」

 不謹慎だが、アビリウスさんの感情をそこまで引き出せた美月さんに羨望と嫉妬を抱いていた。
 そんな事を思うべきではないのに、どう足掻いても追い越せないという現実に不安さえ覚える。
 それを悟られたのか、

「イオリちゃん」
「んっ?」

 私の頬を掴んで目を合わせてくるアビリウスさん。

「…僕の目を綺麗と言ってくれたのはイオリちゃんだけだよ」

 不意に告げられたその一言は、瞬く間に私の心を軽くし、無意識のうちに強張っていた体から力が抜けていくのがわかった。

「…敵わないなあ…」
「何が敵わないの?」

 私を見るアビリウスさんの表情は、私が不安を抱いていた事が分かっていたのか笑みを浮かべている。
 多少は調子が戻ったようで何よりだが、これを教えて揶揄われるのは御免被りたい。

「目が真っ赤なアビリウスさんには教えませーん」
「なっ」

 不意をつかれたのか、少し顔が赤らむアビリウスさんにレアな顔が見れたなと少し満足した私だったが、当然これで終わるわけもなく…。

「んっ?!」
「…」

 やり返しと言わんばかりに無言でキスをしてきた。

「まっ…んぁっ、ちょ…!」

 抵抗空しく、わずかに空いた隙間からぬるりと舌が侵入して口腔を蹂躙していく。

「んっ、ふっ…ぁん…」

 生気を吸われているのか次第に体が熱を帯び始め、下腹部が疼き出す。
 絶え間なく唇を奪われ続け、徐々に力が入らなくなりトンっと押されれば私の体はいとも簡単にベッドに崩れ落ちる。

「形勢逆転だね」
「…うぅ…」

 弱々しいアビリウスさんはどこへやら。ぺろりと舌舐めずりして私を見下ろす彼は煽情的だ。
 
「この前の続き、しよっか」
「…っ!!」
「逃げ出すなら今のうちだけど、どうする?」

 私の気持ちなんてきっとわかってるだろうに、確認してくるアビリウスさん。
 言葉にするのが何だか気恥ずかしくて、私はただこくりと頷いた。
 
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