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25.代わりに泣いて
しおりを挟む「それからまともに人と関わることもできなくなって、人の形を保てなくなって…いよいよってところでイオリちゃんに会って…今に至るってとこかな」
話を終えたアビリウスさんは黙り込んでいた私が泣いてるとは思っても見なかったのか少し驚いた様子でこちらを見ている。
「何でイオリちゃんが泣いてるのさ」
「…だってぇ…」
とうに泣きつくしてしまったのか、過去の出来事を話しているアビリウスさんは一粒も涙を流す事はなかった。
それがまた何とも言えない感情を掻き立てられ、何故か涙が溢れた。
「…泣かないで」
困ったように笑って私の涙を拭ってくれるアビリウスさんに余計涙が止まらなくなった。
「…泣かせるつもりはなかったんだけどな…」
「代わりに泣いてるの…!!」
「!!!…っくく」
グズグズと泣きながらそう言うと、何が面白かったのか目を一瞬見開いたかと思えば肩を震わせ笑い出した。
「…な、なんで、笑うの?」
「いや…まさか二回も…言われると思ってなくて」
「え?」
一切状況が理解できずに困惑する私。
それに気づいてくれたのか、アビリウスさんは笑いながらその事を話してくれた。
「イオリちゃんに初めて会った時に、今と同じ事言われたんだ」
「同じ事?」
「…あの時もイオリちゃんは僕の代わりに泣いてくれたんだ」
当時を思い出しているのか、懐かしむ表情で私を見つめてくるアビリウスさん。
「悲しいのに笑ってるって、泣きながらアイスくれたんだよ」
覚えてない?と聞かれ、アイスをあげた記憶はあれど泣いた事は覚えてなかった。
でも、当時の私も分からないなりに同じように思っていたんだなと思った。
「アビリウスさん…」
言いたい事が伝わったのか、彼はゆっくりと首を横に振る。
「…僕には…泣く権利はないよ」
はっきりと言うアビリウスさんは美月さんの死を乗り越えてないんだろうなと何となく感じた。
心の奥底に沈めた自分の気持ちも一緒にそこに閉じ込めてしまっている。
「それを決めたのは美月さん?」
「…」
美月さんへの贖罪なのか、自らを傷付ける事でしか罪を償えないとアビリウスさんは思っているんだろう。
「…好き、だったんでしょ?」
話を聞いてて伝わってくるアビリウスさんの感情は、今の私には少し苦しいものがあったけど思いを口にする。
「…」
美月さんへの気持ちを認めなくないのか、私の問いかけにただ沈黙を貫くアビリウスさん。
「…美月さんはアビリウスさんのこと好きだったと思うよ」
返事がなくても話し続ける私を止める事もしない。
「悲しい最期だったかもしれないけど…幸せって言葉に嘘はないと思う…」
私が美月さんの立場だったら…そう考えるのは烏滸がましいけれど、きっとそう思うだろうから。
「それキールにも言われた…」
自嘲気味に笑うアビリウスさんに、思わず私は彼の頭を抱き寄せた。
「…イオリちゃん?」
「アビリウスさんだけだよ、美月さんを不幸なままにしてるの」
「…!」
びくりと体が強張るのが伝わった。
「アビリウスさん自身も、ね」
「僕は…」
だらりと落ちていた手が私の背中に回って、ぎゅっと抱きついてくると、胸の部分がじんわりと温かくなる。
私は何も言わず彼の頭を撫で続けた。
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