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21.夜明けの月
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いつものように、夜道に突っ立って狙えそうな女の子を探していた時の話。
「あー、俺好みのお姉さんいないかなあー」
「偏食は死ぬよキール」
「わかってるけど、やっぱ美味しいもの食べたいじゃん?」
今日も空振りに終わりそうな気配に不貞腐れているキール。
斯く言う僕も、ここ数日生気を吸えておらず空腹気味だ。
「上手く釣れるやり方あれば苦労しないのにね」
「夢の中に入っても、少年は興味ないですって追っ払われた俺って…」
「姿変えればいいのに」
「俺はこのスタンスを曲げたくないの!」
意地でも少年の姿を貫きたいのか、キールはふんふんと鼻息荒く暗がりの中を歩いていく。
先を行く彼の背中を眺めながら、それでもそうは言ってられない状況に陥った時キールはどうするのだろうと何となく考えていた。
「逆に聞くけどさ、アビリウスにはないわけ?そういうの?」
「んー、特に。食べれればいいかなって」
「え、まじ?」
「うん、空腹を満たせたらそれで問題ないよ」
「そんなのただ生きてるだけじゃん」
そう言い放ったキールに、それの何が悪いのか僕にはよくわからず返答できなかった。
「少年だと思って余裕ぶってるお姉さんを虐めた時の顔、それを見ながら食べる…はあ、最高」
「…」
悦に入っているのか、僕の方を振り向く事なくキールは次なる食事を求めて消えていった。
残された僕は、一人その場に座り込んで真っ暗な空を仰いだ。
「同じ味にしか感じないけどなあ…」
体に取り入れている物は同じはずなのに、こうも違う物なのだろうか。
考えたところで答えが出るわけもなく、夜が明ける前に誰か一人でも捕まえようとぼんやり考えていた。
「…お腹空いた」
「お兄さんお腹空いてるの??」
「?!!」
突如として降り掛かる声に驚いて、そちらを見れば若い女の子と目があった。
夜目がきくのか、視線は合っている。
「こんな暗いところにいてもお腹は膨れないよ」
「えっ、」
「ほら、行こう?」
僕の返事なんて聞かずに強引に腕を引っ張られ、言われるがまま立ち上がると女の子はどんどん歩いて行く。
その先は明るい光で満ちていて、少し目が眩んだが陽の光ではない為、徐々に視界が晴れていく。
「ここ、入ろ?」
「…ここは」
「美味しいご飯が食べれるところ!」
そう言って女の子は僕の腕を掴んだまま、店の中に足を進めた。
そういうお腹が空いたんじゃないんだけど、何て言うわけにもいかず適当に切り上げようと一旦は着いていく。
「おっちゃん!生二つ!!」
「あいよ…ってみっちゃん!!お前に酒は出せねえよ!」
「あははっ、ごめんー」
顔馴染みなのか、軽快な会話を繰り広げている彼らを黙って見ているとおっちゃんと呼ばれた男性に訝しげな顔で声をかけられる。
「お前…みっちゃんの彼氏?」
「いいえ」
「あ?」
「あ!!今ね、そこの路地裏にいたから連れてきた」
みっちゃん、そう呼ばれる僕をここに連れてきた女の子は屈託のない笑顔をこちらに向ける。
「お腹空いたっていってたから!」
「猫じゃないんだから…」
男性の呆れ返った表情に僕ですらそう思う。見ず知らずの、ましてやあんな暗がりにいた男を連れてくるなど普通はしないだろう。
「まあまあ、ここは私が奢るからさ」
「あの…」
「あ!自己紹介がまだだったね!私美月!お兄さんは?」
「…アビリウス」
「あびりうすさん?海外の人?」
「…まあ、そんなとこ」
切り上げるどころか、あれよあれよと自己紹介まで済ませて気付けば向かい合ってご飯を食べていた。
「アビーさんは、」
「アビーさん?」
「アビリウスさんだからアビーさん!ダメだった?」
「…いや、そう呼ばれたのは初めてだから」
気さくに話しかけてくる美月さんはとても美味しそうにご飯を食べている。
それにつられてか、僕も人が食べるものを食べてみたいと思っていた。
人が食べているところは見た事があるが、僕自身が食べた事はなく、箸の使い方もままならない。
「あ、お箸難しいよね、ちょっと待ってて」
「?」
何を思ったのか僕の拙い動きを見て、彼女は立ち上がると先ほど話した男性に何か言っている。
会話の内容はわからないが、男性は何かを取り出して美月さんに渡していた。
「はい、これ!」
「これは、」
「フォーク!これなら少しは食べやすくなるかなって」
ぶすっと刺しちゃっていいよ!そう言って渡されたフォークを言われた通り目の前の食べ物に突き刺した。
「わあ、豪快だ」
「…そう?」
「ほら、食べて!おっちゃんのご飯美味しいから!!」
そう促され、フォークに突き刺さったものをゆっくりと口に運ぶ。
「……」
「どう?美味しいでしょ?」
「…うん、美味しいよ」
「よかった!!私ここのご飯食べる為にバイト頑張ってるんだ!!」
口に入れて、咀嚼したが何も味がしなかった。
飲み込んでみたが、やはり空腹が満たされる事もなくそれに関してはそんな物だろうと何も感じなかった。
ただ笑っている彼女をみて、正直に言わなくてよかったと思う自分がいた。
「んー、美味しかったね!」
「そうだね」
「じゃ!私はこれで!ちゃんと、ご飯食べるんだよー?」
ご飯を食べ終え店を出ると、美月さんはこれからバイトがあるからとあっさりと別れた。
何故僕に声をかけてきたのか分からず疑問に思っていたが、日を追うごとにそれも忘れていた。
「あー、俺好みのお姉さんいないかなあー」
「偏食は死ぬよキール」
「わかってるけど、やっぱ美味しいもの食べたいじゃん?」
今日も空振りに終わりそうな気配に不貞腐れているキール。
斯く言う僕も、ここ数日生気を吸えておらず空腹気味だ。
「上手く釣れるやり方あれば苦労しないのにね」
「夢の中に入っても、少年は興味ないですって追っ払われた俺って…」
「姿変えればいいのに」
「俺はこのスタンスを曲げたくないの!」
意地でも少年の姿を貫きたいのか、キールはふんふんと鼻息荒く暗がりの中を歩いていく。
先を行く彼の背中を眺めながら、それでもそうは言ってられない状況に陥った時キールはどうするのだろうと何となく考えていた。
「逆に聞くけどさ、アビリウスにはないわけ?そういうの?」
「んー、特に。食べれればいいかなって」
「え、まじ?」
「うん、空腹を満たせたらそれで問題ないよ」
「そんなのただ生きてるだけじゃん」
そう言い放ったキールに、それの何が悪いのか僕にはよくわからず返答できなかった。
「少年だと思って余裕ぶってるお姉さんを虐めた時の顔、それを見ながら食べる…はあ、最高」
「…」
悦に入っているのか、僕の方を振り向く事なくキールは次なる食事を求めて消えていった。
残された僕は、一人その場に座り込んで真っ暗な空を仰いだ。
「同じ味にしか感じないけどなあ…」
体に取り入れている物は同じはずなのに、こうも違う物なのだろうか。
考えたところで答えが出るわけもなく、夜が明ける前に誰か一人でも捕まえようとぼんやり考えていた。
「…お腹空いた」
「お兄さんお腹空いてるの??」
「?!!」
突如として降り掛かる声に驚いて、そちらを見れば若い女の子と目があった。
夜目がきくのか、視線は合っている。
「こんな暗いところにいてもお腹は膨れないよ」
「えっ、」
「ほら、行こう?」
僕の返事なんて聞かずに強引に腕を引っ張られ、言われるがまま立ち上がると女の子はどんどん歩いて行く。
その先は明るい光で満ちていて、少し目が眩んだが陽の光ではない為、徐々に視界が晴れていく。
「ここ、入ろ?」
「…ここは」
「美味しいご飯が食べれるところ!」
そう言って女の子は僕の腕を掴んだまま、店の中に足を進めた。
そういうお腹が空いたんじゃないんだけど、何て言うわけにもいかず適当に切り上げようと一旦は着いていく。
「おっちゃん!生二つ!!」
「あいよ…ってみっちゃん!!お前に酒は出せねえよ!」
「あははっ、ごめんー」
顔馴染みなのか、軽快な会話を繰り広げている彼らを黙って見ているとおっちゃんと呼ばれた男性に訝しげな顔で声をかけられる。
「お前…みっちゃんの彼氏?」
「いいえ」
「あ?」
「あ!!今ね、そこの路地裏にいたから連れてきた」
みっちゃん、そう呼ばれる僕をここに連れてきた女の子は屈託のない笑顔をこちらに向ける。
「お腹空いたっていってたから!」
「猫じゃないんだから…」
男性の呆れ返った表情に僕ですらそう思う。見ず知らずの、ましてやあんな暗がりにいた男を連れてくるなど普通はしないだろう。
「まあまあ、ここは私が奢るからさ」
「あの…」
「あ!自己紹介がまだだったね!私美月!お兄さんは?」
「…アビリウス」
「あびりうすさん?海外の人?」
「…まあ、そんなとこ」
切り上げるどころか、あれよあれよと自己紹介まで済ませて気付けば向かい合ってご飯を食べていた。
「アビーさんは、」
「アビーさん?」
「アビリウスさんだからアビーさん!ダメだった?」
「…いや、そう呼ばれたのは初めてだから」
気さくに話しかけてくる美月さんはとても美味しそうにご飯を食べている。
それにつられてか、僕も人が食べるものを食べてみたいと思っていた。
人が食べているところは見た事があるが、僕自身が食べた事はなく、箸の使い方もままならない。
「あ、お箸難しいよね、ちょっと待ってて」
「?」
何を思ったのか僕の拙い動きを見て、彼女は立ち上がると先ほど話した男性に何か言っている。
会話の内容はわからないが、男性は何かを取り出して美月さんに渡していた。
「はい、これ!」
「これは、」
「フォーク!これなら少しは食べやすくなるかなって」
ぶすっと刺しちゃっていいよ!そう言って渡されたフォークを言われた通り目の前の食べ物に突き刺した。
「わあ、豪快だ」
「…そう?」
「ほら、食べて!おっちゃんのご飯美味しいから!!」
そう促され、フォークに突き刺さったものをゆっくりと口に運ぶ。
「……」
「どう?美味しいでしょ?」
「…うん、美味しいよ」
「よかった!!私ここのご飯食べる為にバイト頑張ってるんだ!!」
口に入れて、咀嚼したが何も味がしなかった。
飲み込んでみたが、やはり空腹が満たされる事もなくそれに関してはそんな物だろうと何も感じなかった。
ただ笑っている彼女をみて、正直に言わなくてよかったと思う自分がいた。
「んー、美味しかったね!」
「そうだね」
「じゃ!私はこれで!ちゃんと、ご飯食べるんだよー?」
ご飯を食べ終え店を出ると、美月さんはこれからバイトがあるからとあっさりと別れた。
何故僕に声をかけてきたのか分からず疑問に思っていたが、日を追うごとにそれも忘れていた。
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