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17.想い sideキール
しおりを挟むお姉さん…イオリさんを無理やり家から追い出して、俺は一人溜息をついた。
「…これでよかったわけ?」
誰もいない壁に向かって話しかけると、そこからぬるりと姿を現すアビリウス。
その顔はげっそりとしていた。
「ひっどい顔」
「……ごめん」
「何に対しての謝罪?」
「…ごめん」
「…はぁ」
その場に座り込み膝を抱え込むアビリウスに、表情こそ分からないが声色の沈み具合に再び溜息が出る。
「イオリさんならわかってくれると思うよ」
「……」
「罪が消えるわけじゃないけど、十分苦しんだでしょ」
「…また…取り返しのつかないことをするんじゃないかって思うと…怖いんだ」
声が震えて、あの時の事をまだ乗り越えられてないんだなと、俺は久々にあった友人に近付くとそっとその肩に手を乗せる。
「…」
「追放された時…そのまま死ねばよかったんだ…」
「!!」
それは聞きたくない言葉だった。
「…キールが僕を殺さないように皆を説得してくれたのは知ってる…でも、僕は君の言った通り許されない事をしたんだ…死んで当然なんだよ」
「…」
「僕の目は授けられた祝福なんかじゃない…人を殺す呪いだ」
昔も今もアビリウスの抱える問題は、本人にしかわからないもので、俺が理解できない以上何のアドバイスもしてやれない、それが歯痒くて仕方がなかった。
「俺さ、お前が危険を犯して会いにきてくれたの嬉しかったよ」
「……」
「それに憎まれ役を頼まれたとはいえ、頼ってくれたのも嬉しかったし…」
だから今の俺が思う気持ちをぶつけてアビリウスの気持ちがほんの少しでも晴れればいいと思った。
「…生きててくれてよかった」
「……キール」
「うおっ!?」
ようやく頭を上げたかと思えば、目からボロボロと涙が溢れているアビリウスに思わず声が出てしまった。
「おま、泣くなよー」
「…だって…」
「……お前があの人を殺したくて殺したんじゃないっていうのは俺が一番知ってるよ」
それがどんな理由であろうと殺してしまった事に変わりはないが、同じ状況になった時おそらく俺も同じ事をするだろう。
「あの人は幸せな夢の中で逝ったんだ」
「…」
「どんなにそれを言ってもお前の追放が避けられなかったのは悔しかったけど」
「…ありがとう」
次会える保証などどこにもない。もう会えないと思っていたアビリウスに素直に気持ちを吐露する。
それが伝わったのか、アビリウスの顔はどことなく翳りがなくなったように見える。
「キールと久々に話せてよかった」
「俺も。二度と会えないと思ってたから」
「…せっかく助けてくれたのに死にたいとか軽々しく言ってごめん」
「…ん、まあ…でも今は違うんでしょ?」
「…うん、」
きっと追放された後アビリウスの気持ちを変える何かがあって、それは恐らくイオリさんが関係しているのだろう。
「んで、イオリさんはどーすんの?」
あまりここに長居して、他のやつらにアビリウスがいることを勘付かれたくはないが、本題である彼女のことは聞いておかねば。
「言うとおりにお前から離れるように仕向けたけど、成功した感じしないんだよね」
「…僕から会うつもりはもうないよ」
言葉とは裏腹に、眉を下げ無理やり笑おうとしているその顔はとても苦しそうでいたたまれない。
「これ以上傷付けてしまう前に離れないと、僕は僕自身を殺したくなる」
覚悟の上での発言なのはわかるが、どうにも焦ったくつい言ってしまった。
「…じゃあ、俺が貰ってもいい?」
「それはだめ」
「何で?…結構美味しかったからまた食べたいんだけど…感度も良さそうだったし」
間髪入れずに否定してきたアビリウスに思わずムッとなって言い返した。
イオリさんを威嚇するためとはいえ、少ししか吸えなかったのが勿体無いと思うほど美味しかったのは事実。
それにいじめ甲斐がありそうで、正直手放すのは惜しい存在だ。
「…もう会わないんでしょ?だったらいいじゃん」
「あくまで僕からは、ね!!!イオリちゃんからは会いに来るかも知れないじゃん!!?」
「は??」
「そういうわけだから、キールは近づかないでね!!」
そう言って逃げるように去っていったアビリウスの後ろ姿を見ながら俺は何度目かの溜息をつく。
「世話のかかるやつ……今のお前なら大丈夫だよ」
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