【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

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12.口実作り

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「……あれ?」

 お風呂から上がり、恐る恐る部屋に戻るとアビリウスさんがどこにもいない。
 毛玉にでもなって隠れているのかと部屋中を探したけど彼の姿はどこにも無かった。

「…帰っちゃったんだ」

 アビリウスさんの動揺は明らかだった。それが意図することが何かはわからなかったが、彼にとってあまりよくない事を言った事は間違いないのだろう。

「はぁ…」

 頭の中はアビリウスさんの事でいっぱいだった。
 快楽に身を委ねている時の自分のだらしなさも一緒に思い出して顔が熱くなるが、最後に見せたあの表情がチラつき胸が苦しくなる。

(見られたくなかったのかなあ…)

 それでも脳裏にはあの綺麗に光る青い瞳が何度も甦る。

(…あの時何も言わなかったら…続けてたのかな…)

 あの青い瞳に見つめられながら、そのまま体を重ねていたら、そんな想像をしてしまっている自分が堪らなくいやらしいと感じた。
 しかし同時にそれを望んでいる自分がいることも事実だった。

(生気吸われたからだ…!!そうだ!!絶対それが原因だ!!!気怠さもあるし…!!…寝よう)

 無理やり理由をつけて、雑念を振り払うようにベッドに寝転がったが、つい先程までここで快楽に身を委ねていた事が頭から離れない。

(思い出すな私…!!…でもこうなったのってアビリウスさんのせいじゃない?)

 いっそ最後までしてくれていたら、こんな思いはしなくて済んだのでは?と逆恨みに近い考えまで生まれる始末。

(そもそもキスだっていきなりだったし……でも…)

「気持ちよかっ…」

 思わず口に出している自分がいて、誰かに見られているわけでもないのに一人慌てた。

(……。明日会いに行こう)

 会いにいくのはあくまで勝手に帰ったことを怒るため。決して最後までしなかったことを咎めるためじゃない、と自分に言い聞かせる。

(瞳のことは…触れない方がいいよね)

 いざ会いに行くとなれば、必ずそこの話題になってしまいそうなので、どうにかそうならないよう言葉選びを気をつけようと、いろいろ考えているうちに気付けば私は眠りについていた。


**


 

「…んっ」

 窓から差し込む光を感じて目を覚ました。時計を見ると朝の8時だった。

「…?!やっばっ!!!!」

 慌てて起き上がり最速で家を出て、学校へ向かう道をひたすら走る。

「最悪すぎる!!!……近道、使うか」

 一瞬躊躇したが、遅刻して怒られるよりはマシだと、あの路地裏に足を進める。
 やはりこの時間でも仄暗く、早く抜けてしまおうと自然と急足になる。

「……」

 あの夜訪れた時にはあったアビリウスさんがいた場所には何もなく、少し残念に思っている自分がいた。

(…また夜に行けばいいんだし…今はそれより遅刻する!!?!!?)

 その時だった。ほんの僅か足を止めたその瞬間、何かにぐいっと体が引っ張られる感覚に襲われる。

「なっ?!」
「いい匂いだね!お姉さん!!」
「はっ???」

 見知らぬ声が聞こえたと思えば、いつの間にか私は意識を失っていた。


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