【完結】劣情を抱く夢魔

11.キスに溺れる※

　ベッドに押し倒され、視界がアビリウスさんでいっぱいになる。

「んっ…」

　軽いリップ音がして、キスをされたんだとわかると恥ずかしくて目を瞑った。
　
「…ほら、口…あけて」 
「いっゃ…、んぁっ！？」

　唇が離れたかと思えば、そう言われ否定しようとして自ら口を開いたことに気付くのは事が始まってからだった。

「んっ？！」
「…ん」
「まっ、っ…んっ…ふぁっ…」
　
　ぐちゅりと口内を犯すアビリウスさんの熱い舌が私の舌を絡めとる。
　ぴちゃぴちゃと水音が鼓膜を刺激し、その音はいやでも情事を彷彿させる。

「んぅっ、はっ…」
「……んっ」

　耳からのダイレクトに伝わる音に耐えきれず、目を開けば、視界いっぱいにアビリウスさんが映る。
　その表情はとても気持ち良さそうで、私とのキスでそんな顔をさせてるのかと思うと何だか悪い気はしなかった。
　気付けば抵抗する事をやめて、ただアビリウスさんとのキスに夢中になっていた。

「っ、……イオリちゃん、顔トロトロだ」
「んぇっ、」
「本番はこれからなのに、今からこれじゃあ意識持つかな…」

　本番…？アビリウスさんの言葉に疑問に思ったが、その意味は直ぐに分かることになる。

「…んっ？！！」
「直接吸ったんだ…昨日とは比にならない快楽がやってくるよ」

　ドクンっと心臓の鼓動が聞こえてしまうじゃないかと思うほど高鳴っていくのがわかる。
　
「あっ、まっ、…んぁ？？！！」
「大丈夫だよ、ただそれに身を委ねて…」

　両手で頬を掴まれ、再びキスをされる。先程までの深いものではなく、そっと唇が触れるだけのキス。
　それなのに、まるでそれ以上の事をしているような快楽が体を突き抜けた気がした。

「あっ、ん！！？ま、って…私のから、だ…っん…へ、んぅ？！？」
「変じゃないよ」
「まっ、さわっ…んぁ…らなっ…？！」

　アビリウスさんの手が、腰に回りぐっと引き寄せられると、首元に顔を埋めべろりと舐められた。
　それと同時にびりびりと体中が気持ちよさに震える。

「おっ、と…刺激が強すぎたかな…？」
「んんっ、…アビ、リウスさん…、わた、し…」
「ん？」

　ずくりと下腹部が疼いて膝を寄せているのがわかったのか彼は何とも意地の悪い笑みを浮かべている。

「どうしたの、イオリちゃん？」
「わ、かってる…っくせに…！！」

　一度果てたにも関わらず私の体はさらなる快楽を欲しているのか、どくどくと脈打っている。

「うっ、ん…」
「…辛そうだね」
「だ、れのせいで…！！」

　至近距離で余裕の表情を浮かべてこちらを見ているアビリウスさんは私の反応を見て楽しんでいる様子。

「僕のせいだね」
「……んっ、」

　正直に言うのは恥ずかしくて、でも言わないとこのままの気がして。
　それが今の私にはとても耐えきれなくて、彼の首に手を回して自分からキスをした。
　
「！！」
「んっ、……ん！？っふぁっ、ぁっ！？」

　目を見開いて驚いた様子だったけど、それも一瞬で。直ぐに片手で頭を掴まれるとさらに深いキスへと変わる。
　
「っぷはっ…」
「……そんな可愛いおねだりされちゃったら仕方ないなあ」

　唇の端から垂れたどちらのかわからない唾液を舌舐めずりして、こちらを見るアビリウスさんの瞳は青く光っていた。

「光ってる…き、れい…」
「…っ？！」

　思わず口に出すと直ぐにその光は消え、ひどく狼狽えた様子で私を見下ろすアビリウスさんがいた。
　その瞳は青ではなく黒に戻っていたが、それでも視線が交わることはなかった。

「……？アビリウスさん？」
「…あっ、…ごめん」

　どこか様子のおかしいアビリウスさんに私も自然と冷静になって、自分のした行為に頭が真っ白になる。

「わ、私！お風呂入ってくる！！！」
「…あ、」

　彼の手が緩んだ隙にベッドから抜け出し返事も聞かず慌ててお風呂場に逃げ込んだ。

　落ち着いて上がってきた時には、アビリウスさんはいなくなっていた。