【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

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9.本性を現す

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 約束の夜がやってきた。
 アビリウスさんは人の姿になり、私のベッドの上で胡座をかいて何故か得意げな表情でこちらを見ている。
 そして私はこれまた何故か床で正座している。

「んー、やっぱりこの姿はいいね」
「それはいいから、説明して」
「夜はこれからだよ、焦らずにいこ」

 生き生きとしている姿に短くため息を付き、私は彼に催促をする。

「で?答えてくれるの?」
「もちろん、そうだね…まずは僕の正体からいこうか」

 そう言って立ち上がると、アビリウスさんは小さく何かを呟いた。
 次の瞬間、彼の背中からは大きな黒い翼とお尻からは尻尾、そして額から角が生えてきた。

「僕は夢魔。悪魔だよ」
「……」
「ふふん、驚いて声も出ない?」
「…いや…人じゃないとは思ってたけど…」

 悪魔と来るとは思わなかったな…。毛玉になってる時点で妖怪の類かと思っていたけど悪魔とは。

「この世に存在するんだね」
「結構身近にいるよ、いろいろ。ただイオリちゃん達人間の前に普通は姿を見せないだけ」
「ふーん」
「あれ、思ったよりすんなり受け入れてくれてる?」

 思っていた反応ではなかったのか、きょとんとこちらを見てくるアビリウスさん。

「まあ…現に目の前にいるわけだし…それに、」

 一呼吸。
 私はこれを聞くために、もう一度アビリウスさんに会いに行った。

「昔私のあげたアイスを食べたのって、アビリウスさん?」

 夏の日の思い出。
 あの時はあんな生き物が存在すると言っても誰も信じてくれないだろうと思って誰にも話せなかった。

「どうして、そう思ったの?」
「…毛玉の姿を前にも見た事があるから」
「なるほどねえ」

 肯定も否定もなく、ただふーんとこちらを見据えるアビリウスさん。

「え、違うの…?」
「…」

 あの時にあった毛玉を彼だと思っていたから少し警戒を解いていた部分もある。
 弱っていたからかもしれないけど、あの日私は何もされていないはず…。
 少し撫でた時も何もされずに触らせてくれた。
 
「…」

 沈黙を貫くアビリウスさんに不穏な空気が漂う。
 味方だと言ってくれたけど、所詮悪魔ということなの?
 油断させて頂こうという算段なのだろうか?

「…そ、んな…」

 顔から血の気が引く。
 考えてみれば、アイスをあげた人はアビリウスさんではなく別の悪魔だったのかもしれない。
 勝手に勘違いした私に話を合わせていただけなのかも…。

「さ、いあく…」
「…ふう」

 ゆっくりと立ち上がり、こちらを見下すアビリウスさんの表情は暗く、私の頭の中は恐怖と後悔でいっぱいだった。
 彼の手が伸びてきて、反射的に目を瞑った。
 襲ってくる痛みに怯えて何もできずに堪えることしか出来なかった。
 だが、暫く経っても痛みはこなかった。

「あ、れ」
「今日は散々いじめられたからね!仕返しだよー」

 やわやわと頭を撫でられ、朗らかに笑うアビリウスさん。

「……、」
「ははっ、僕の演技どうだった?なかなかのものだったでしょ!」

 先程までの暗い表情を微塵も感じさせない明るさでこちらに笑いかける彼に、私は涙が出た。

「ぅえ?!!ちょ、イオリちゃん!?!」
「…っぐ…」
「あー、ごめん、怖かったね、ちょっとやりすぎたかな」

 ボロボロと涙が止まらない私にさすがに焦ったのかアビリウスさんは私を優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる。

「うっさいばか、加減…っ、考え…ろっ…」
「ごめんね」

 泣きながらアビリウスさんの胸をドンドン叩く。

「うぅぅ…ばか…ばかぁ…あほぅ…」
「あーーー、可愛いからやめて…」
「はっ、ぁ…??ばっ、か…っじゃない…の、」
「うっ」

 人が泣いていると言うのに天を仰いでる悪魔に強めの頭突きを喰らわせる。
 小さく呻いてはいたが、痛みはさほど感じないのかへらへらとした表情を崩す事はできなかった。

「予想以上に…泣いてる姿が…」
「……」

 無言で睨みつければさすがに黙った。

「…けっきょ、く…どうなの…」
「僕だよ」

 頭を撫でてくれていた手がするりと頬を撫で、親指で涙を拭ってくれるアビリウスさん。

「僕はあの時の恩を返したくてずっと探していたんだ」
「……じゃあ、やっぱり」
「うん、あの時はアイスをくれてありがとう。僕の命の恩人さん」

 うっとりとした表情で微笑むアビリウスさんに嫌でも顔が熱くなる。

(やっと見つけたんだ、手放すつもりはないからね)
 
 必死に赤くなった顔を隠す私を見て、彼がそんなことを考えているなんて知る由もなかった。
 

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