【完結】劣情を抱く夢魔

朔灯まい

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4.怪し気な占い師

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「…………」

 私は夜道を一人歩いていた。
 普段この時間に出歩くことがない私にとって人通りの少ない夜の道は恐怖でしかなかった。
 それでも行くのは真実が心配だからだ。

(西田さん達も心配だけど…夜ってこんなに不気味だっけ)

 街灯はあるが、歩いているのが私だけというのが大変いただけない。恐怖を助長してる。

(早くつかないかなあ…)

 携帯の画面に目を遣ると時刻は21時30分。今の所条件は全て満たしている。

(あとは辿り着くだけ…!!)

 足早になりつつ、噂の路地裏に到着した。
 自分の少し荒い呼吸音だけが響く静寂の中、真っ暗な空間にぼぉっと小さな光が見えた。

「あ、れは…」

 導かれるように光についていけば、何もないはずの路地裏に小さなテントのようなものが張ってあった。
 恐怖で身が竦んだが恐る恐るそこをくぐる。

「……ようこそ」
「…っ」

 少しの沈黙の後、私に話しかけてきたのは、顔を仮面で隠した如何にも怪しい人物。
 簡易的なテーブルの上には水晶玉が置かれており、噂の占い師で間違いなさそう。

「…ほら、座りなよ」
「…」
「そう警戒しないで、悲しいじゃないか」

 警戒しない方がどうかと思いますがね、と口には出してないが態度には出ていたみたい。

「この面を外せば少しはマシかな…」

 クスクスと笑いながら、ゆっくりとした動作で仮面を外していく。

「……」
「どう?マシになったかな?」

 端正な顔立ち。不覚にもどきりとしてしまうほど見惚れる笑みを浮かべてこちらに微笑んできた。

「…何か目的があってここに来たんじゃないの?話してくれないとわからないよ?」
「…電話、してきたでしょ」
「……ああ、あれ君だったんだ」

 仮面を付けていた時はくぐもっていて気付かなかったけど、この声は間違いない。
 真実の携帯から電話を掛けてきた人物だ。

「真実に何をしたの…」
「……眠ってもらってるだけだよ」
「…は?」
「約束の時間じゃなかったからね」

 占い師の発言に私の悪い予想が当たったんだと頭を抱えた。
 
(どこか抜けてると思ってはいたけど、まさか…本当に時間を間違えているとは…。というか、眠ってもらってるってどういうことなの?)

「眠ってるって…どういうこと?」
「そのままの意味。明日にでも目を覚ますよ」
「い、みわかんないん…だけど」
「ああ…えっと、…!そう、占い師の力!」

 嘘だ、嘘が下手すぎる。

「本当に目を覚ますの…」
「目を覚ますよ、嘘はつかない」

 たった今嘘をついていましたよね?と口から出そうになるのを無理やり飲み込んで、一旦はそれを信じることにした。

「…わかった、でももし目を覚まさなかったら…」
「安心していいよ」

 にこりと人の良さそうな笑みを浮かべているが、私の中で彼が不審者だということに未だ変わりはない。

「ほら、せっかくきたんだから占ってあげるよ。座って」
「…」 

 目の前に置いてある椅子に座るよう催促され、渋々腰を下ろした。
 本来ならここで帰るべき何だろうけど、こんな機会もないしと思ったのがよくなかった。

「何か悩みとかある?」
「…内容はなんでもいいの?」
「いいよ、言ってみて」

 優しく促されて、その場の空気にでも当てられたのか私は誰にも話していなかった事を話した。
 その場限りの相手だからこそ言えたってこともあるだろうけど。

「昔会った人で…忘れられない人がいて…その人にもう一度会うことって出来ますか、ね?」

 何だか恥ずかしくなり、最後はもごもごとしてしまったけれど、ちゃんと聞き取ってくれたのか真剣な表情で水晶玉を見ていた。

「……詳しく教えてもらってもいいかな?」
「小さかったからよく覚えてないんだけど、夏だったのは覚えてる」
「夏、ね」
「アイス食べながら家に帰ってて、そしたら道端で倒れてる人がいたの」

 朧げな、でも鮮烈な思い出。

「暑さで倒れてるって思って、アイスをあげたんだけど…や、やっぱ無し!!!!」 
「……」

 私は説明をしながら一つ大きな嘘をついていた。
 しかし嘘をつきながらそれを上手く話すこともできなかったので話を無理やり切り上げて椅子から立ち上がる。

「か、帰る!」
「ちょっと待って」
「!?」

 直ぐにでも去ろうとする私の手首を彼が掴んできた。
 距離が少し縮まって、彼からふんわりと甘い香りがしてどきりとした。

「な、名前…教えて」
「…へ?」
「聞いてなかったから」

 爽やかに笑って聞いてきているけど、手首を離すつもりはないらしい。

「……伊織」
「イオリちゃん…」

 てっきり襲われると思って焦った私が馬鹿みたいだ。いや、この状況だしそう考えるのはおかしくない。
 不服だが名前を伝えると、何を満足したのかすんなりと離してくれた。

「またおいで」
「真実が目を覚まさなかったらね、その時は警察と一緒だけど」

 精一杯の虚勢を張って、その場を立ち去った。
 振り返りもせず、怖くて仕方なかった行きとは違う足早さで家に帰る。

「何あの顔…!!」

 蕩けそうな顔でこちらを見て、手を振る姿を思い出し顔が熱くなる。

「…確かにイケメンだったなあ……ん??!」

 無意識に口から出た発言に自分で驚きながら、奇妙な時間だったから何かに当てられたんだと言い聞かせた。
 


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