上 下
5 / 6
1章・第1部:悪役令嬢は過去に戻る

(5)悪役令嬢はなぜか生きている

しおりを挟む
「お嬢様~、朝ですよ~!!」


 懐かしい声が聞こえてきて、目を開ければ視界の中には見慣れた私の部屋の天井が見えた。
 __と同時に視界が一気に眩しくなる。


「…………え、ま?」


 窓の前に立って、カーテンを一気に開けた人物は私のよく知る人物。
 そして、理不尽に奪われてしまった人。
 __私のメイドのエマだった。
 何故か少し若く見えるけれど、呆然としている私に笑いかける彼女の笑顔は全く変わっていなかった。


「はい、エマですよ。おはようございます、リーシャお嬢様」


 あの男に監禁されるまでは、ずっと見ていたあの優しげな笑顔を浮かべた彼女が目の前にいた。

 いったい、どうして?
 アルバート殿下は、彼女のことを始末したと言っていた。
 あの殿下が、嘘を言うはずがない。
 何しろ、有言実行が服を着て歩いているような人物だから。
 だというのに、記憶よりも若い彼女が今ここにいる。


「え、あ、なんであなたがここに」
「?お嬢様、どうかしましたか?」
「…………え?」


 目を見開いたまま固まった私に心配する表情で近づいてくる彼女を無視して、私はなんとなくベッド横に置いてあるドレッサーの鏡の方を向いた。
 その鏡の中に写っていたのは、幼い私だった。
 外見は、5・6歳ぐらいだ。


「…………わ、たし?」
「リサ、おはよう!!」
「アルベルト坊ちゃま、レディの部屋に許可なく入るのはいけませんよ」
「…………にい、さま?」
「?どうしたんだ、リサ?顔、真っ青だぞ?」


 固まっている私の部屋に入ってきたのは、死んだはずのアルベルト兄様だった。
 そんな彼も私の記憶で見る大人で紳士的な彼ではなく、まだまだやんちゃだった幼い頃の兄だった。

 いったい、どうなっているのだろうか?
 私はヒロインに殺されたと思ったのに、なぜ死んだはずの彼らがここにいるのだろうか?
 死んでいなかった?
 いや、確かに私はあの日あの部屋の中で両親と兄の死を確認したはず。
 あのひんやりとした、温かさを失った両親たちの遺体を今でも鮮明に思い出せる。
 だというのに、今目の前には幼いけれど兄とエマが立っている。

 そう考えこんでいれば、真剣な表情を浮かべたエマが私のいるベッドの横に座り込んで私の顔を覗き込んできた。


「お嬢様、どこか違和感を感じるところはございますか?」
「…………ちょっと、夢見が悪くて気分が悪いの」
「え!?」
「旦那様と奥様に伝えてきますので、お嬢様はこのままベッドで休んでいてください!!」


 私の言葉に、兄様が驚いた表情を浮かべて、エマが慌てて部屋から出て行った。

 二人には悪いけど、二人がいたら今の状況について考えることもできない。

 そう思いながら、心配した表情で私の方を見ながら近づいてきた兄様の方を見る。


「リサ、大丈夫か?」
「…………大丈夫だよ、兄様。ちょっと休みたいから、一人にしてもらっていい?」
「…………うん。酷くなったら、言うんだぞ?」
「うん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

処理中です...