上 下
14 / 22
第三章「レン姫様の場合」

第三章「レン姫様の場合」第一話。男の娘インフルエンサー「レン姫様」はマネージャーからの突然の行動に困惑する…。

しおりを挟む
第三章「レン姫様の場合」


11月上旬--日本列島が秋から冬へと移行を始める季節。
冷たい風が街行く人々に肌寒さを感じさせる中、新大久保駅近くの公園に丈の短いミニスカートを纏った女子がいた。
彼女は手鏡を凝視し、傍らでは男性が動画撮影の準備をしている。


「このリップ、ちょっと派手すぎたかな?…ねえ、聞いてる?」
「うーん、そうだな…特に問題ない。いつも通りのレン姫様!かわちい!」
「はぁ?今日はいつもとは違うメイクなんだけど」
「あれ…、遠目だと全く違いが分からない…」


手鏡でしきりに自身の顔をチェックする女子。
…否、彼はれっきとした〝男子〟であり、SNS上では「レン姫様ひめさま」として知られる有名インフルエンサーである。


「モブ男はさぁ、もっとメイクの違いについて勉強して」
「すまん。ところで、撮影の準備は終わったよ」
「テキトーな返事して…まあいいや。じゃあ移動しよ!荷物持って!」


そう言うと、レン姫様はそそくさと公園から移動を始めた。
モブ男はカメラ片手に、彼の荷物も背負って後を追いかける。
休日とあって繁華街は人で賑わっていた。そんな中、レン姫様とモブ男はポップな外装の店舗の前で立ち止まる。


「おはレン!今日もあざと可愛いレン姫様です♡今回はここ、新大久保に来ちゃいました!」


レン姫様は動画開始の挨拶を軽やかに済ませ、モブ男はそれに合わせてカメラをスムーズにセットした。


「このワッフル店は今年の夏に開店したばっかりなんだけど、見て…この行列!えぐい込み具合!やば!早く並ばないと!」
「あっ!レン姫様じゃん!握手してください!」
「おっと…早速バレちゃいました♡握手いいよー!」


レン姫様はファン対応も抜かりなく、手を振りながら店内を案内した。
その流麗な仕事ぶりは手練れのインフルエンサーそのものだ。


「ワッフル買えました!この量と見た目!SNS映えもばっちり!それじゃあ頂きます!……ちょっとモブ男」


レン姫様はワッフルを頬張る直前、モブ男に話しかけた。


「どうしたの?」
「私のメイクは崩れてない?光量は足りてる?」
「どうだろう…大丈夫だよ。たぶん」


曖昧な返事をしたモブ男にレン姫様は訝しい目つきをする。


「モブ男、撮影にもっと集中して!世界一かわいい男の娘を撮影しているという自覚を持って!」
「ご、ごめん」
「じゃあ、何種類か異なる角度から撮影してって。そうすれば編集する時に色々応用が利くから」

レン姫様は手鏡を取り出し、自身のメイクをチェックしながら、モブ男に指示を出した。



*



「ふぅ~、今日は滑舌も良くトークできたし、まあまあな出来かな」
「つ、疲れた…」


新大久保での撮影を終えたレン姫様とモブ男は、電車に乗り、数駅先にある芸能事務所へと帰路についた。


「あのワッフル、さすがにデカすぎ…太っちゃう」
「でも、全部食べたね。偉い!かわちい!」
「…だって、食べてるシーンが多いと動画の視聴維持率が高くなるんだもん」
「なるほど…さすがレン。SNS戦略も抜かりない!かわちい!」


レン姫様は徹頭徹尾、動画のクオリティを追求していた。
彼は、DK2こうにと若年ながらも、SNS総フォロワー数は100万人を超える、今最も注目されているインフルエンサーなのである。


「ちょっとSNSのコメント返ししよっと。…うーん」
「どうしたの?何かアンチコメントでもあった?」


レン姫様はソファーから立ち上がり、スマホを手に取って、SNSの通知欄をチェックした。
すると、彼女の表情が次第に神妙なものへと変わっていった。


「〝恋愛対象は男性ですか?〟、〝イケメン法の適用対象者ですよね?〟、〝彼氏はいるんですか?〟…こういうコメント多すぎ…」
「あぁ…今年度に入ってから、そういう質問が絶えないね」


レン姫様のSNSには、毎日のようにイケメン法に関連したコメントが寄せられていた。
レン姫様は、戸籍上は男性である。しかし、彼は男性にも女性にも見える中性的な容姿の持ち主であり、ファッション次第で『男の娘』としても魅せることができる。
そのため、イケメン法の適用対象者なのである。


「こういう質問があるのは仕方ないんだけど…イケメン法の内容見れば分かるじゃん。私は女子とは恋愛出来ないって」
「だから自ずと…恋愛対象は男性である、と…」


レン姫様は、少し呆れたように笑った。


「まあコメント来るだけありがたいんだけどね」
「そうだね。…でも、俺からも聞いていい?レンは男性は恋愛対象なの?」
「はっ!?なに急に…」


モブ男は真面目な表情で質問を投げた。レン姫様はうろたえ、顔を赤らめてしまう。


「俺だって気になるよ。レンのマネージャーとして、そういうのも知っておいた方がいいのかなって」
「…モブ男はどうなの?彼女いないんでしょ?あんた顔は普通だけど背は高いんだし…この時代ならモテるでしょ」


レン姫様は話題をそらすように、モブ男の質問に質問で返した。
すると、モブ男はゆっくりとレン姫様に近づいていった。


「そうだな、俺は…」
「モブ男?どうしたの?」

「レン…!」
「ちょ…えっ…んむっ♡♡」


モブ男は、突如としてレン姫様を強く抱き寄せた。そして、その唇にキスをした。レン姫様は目を見開き、呆然と立ち尽くす。


「レン…」
「…えっ……はっ…?…ちょ待って…♡んんっ♡♡」


モブ男は、硬直しているレン姫様に再びキスを試みた。
今度は、唇だけでなく、舌を絡めようとする。


「待った…!な、なにしてんの…♡マネージャーのあんたがこんなこと…♡」
「ダメだった?」
「何その意外そうな反応!ダメでしょ!マネージャーが所属タレントに手を出すなんて!」


キョトンとするモブ男に対し、レン姫様は冷静なツッコミ入れた。


「確かに良くないことだと思う。でも、今の会話や雰囲気的に…これが正解かなって…」


モブ男は、レン姫様を見つめながら話を続ける。


「正直に言うと…レン姫様に近づきたいから、この事務所のマネージャーに転職しました!!」


【♡続く♡】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

処理中です...