上 下
48 / 52
学園編

48

しおりを挟む
僕は水の槍ハイドロランスで、的確に炎の槍フレイムランスを無力化させる。

正直なところ、こんな打ち合いをしていては僕に勝ち目は無い。
魔法で戦っていれば僕の魔力が尽きてしまう。

「えっ!キルシュ様の魔法、全部当たった?...すごい。噂以上かも。」

レニーの誰に向けるでも無い独り言が聞こえてしまい、僕は気を引き締める。レニーの言っている噂とは、僕の先祖のことであり、現当主の兄上のことだろう。

兄上は僕とは比べ物にならないくらいお強い。

しかし僕もエトワーテルだ。代々築き上げた評判を落とさないために、僕はコレに勝たなくてはならない。

得体の知れない何かがまたも炎の槍フレイムランスを作り出す。
魔力の量で勝っているならば、それが模範解答だと思う。

なので僕は炎の槍フレイムランスを無視して近づいた。

身体強化を施したその移動はまさに一瞬。
ソレは反応することも出来ず、胴体に大きな切れ込みを入れられる。

人間なら死ぬだろうが、魔物ならば回復するだろう。

切った感触は魔物と似ているが、知らないもの。
これが肉体の感触なのかもしれない。

人を切ったのは初めてだ。
僕はソレが人間だと確信しているのに、思わず魔物であってくれと願ってしまう。

「あああああっ!ころす、のか?俺を?殺されるのか?アイツに!」

ドクドクと流れる血。
炎の槍フレイムランスがボロボロと形が崩れ、小さくなっていく。

遂に僕は人を切ってしまったのだな。
今更剣を握る手に力が入る。仕方がなかったとはいえ、先程の感触を思い出してしまう。

「アハ、アハハ!まだだ。まだまだまだまだ!コんなもンじゃねえぞ!」

しかしソレが言ったように、ソレが倒れる様子は無い。

それどころか力を増している気がする。

ドンッ!

ソレの体から熱風が吹き、僕は防御しながら距離を取らされる。レニーもちゃんと防御魔法を発動させていた。

黒いモヤがより鮮明に人型になり、角を作り、翼を作る。
傷も回復している。

「あっ、あれ!」

レニーも気付いたのだろう。
その顔が僕に魔法を撃ち、今は謹慎しているはずの生徒にそっくりなことに。

しかしその瞳の色は赤。魔物だ。

納得できない。先程までは人間だったはず。

人が魔物になる、そんなの聞いたことない。

先程より高温で洗練された炎の槍フレイムランスが数百本現れた。

しかしそれを見てしまえば、信じるほかなかった。

少しでも威力を落とさなければ。

僕は無我夢中で走り出す。剣が炎の槍フレイムランスの光をキラリと反射させる。

魔物ならばここで殺さなくてはならない、だから仕方ない。仕方なかったんだ。

魔物の首が落ちる。

黒い霧を纏っていたことから、吸血鬼のように殺すことが出来なかったら、と思っていたが杞憂だった。

「はっ?」

呆けた声を出す魔物。

魔物の身体はコントロールを失い倒れたが、落ちた頭は動くようで意識もあるようだ。
炎の槍フレイムランスも、降り注ぐものもあれば、空中分解をするものもあるといったところまで弱体化でき、普通の生徒でも防ぐことができた。

「俺を、切ったのか?キルシュ エトワーテル!」

はっきりと僕の名前を叫ぶ魔物。やはり僕が狙いだったのだな。

いや、この魔物が誰だったのか考えれば当たり前なのかもしれない。
しかしそれは僕が目を背けたい、彼が人間だったという事実を受け入れることと同じだ。

「人殺しのバケモノめ!やっぱ気に入らない貴族は始末するんだなあ!?」

頭だけだと言うのに、腹から声を出したように叫ぶ。

彼はまだ自分のことを人間だと思っているようだ。
事実では無い誹謗中傷を言われ、少し手に残る感触が消えた。

「弟が人殺しだと知れば辺境伯はどう思うだろうな!いや、お前の兄は父っ...!?」

回復する様子もなく頭だけで騒ぎ続ける。

それを聞きながら『僕が切ったのはこんなやつなのだから、必要以上に気に負う必要は無い』という思いを強めていたのだが、突如出現した氷の槍アイスランスが魔物の口を塞ぎ、口内から後頭部を貫通した。

そのコントロールは魔物になった後の彼と互角。生成速度は彼以上だ。


こちらを注視しているのはレニーだけ。
しかも手を振り落ろした体制だ。

レニーの成績は至って普通のはずだ。

騒いでいた魔物が死んだことによって静寂が訪れる。

「少し怒っちゃった。」

レニーのそのいつも通りの言葉が、その場に響いた。



「惜し~!後でちゃんと解剖しなきゃ。」

壊れかけの寮の屋根の上。
さらさらと美しい桃色の髪が夜風で舞う。それは魔物になった彼に、魔物になるきっかけとなった薬を渡した子どもだ。

「でもやっぱり血の花園カオス・プラネットが鍵なのは間違いないね。自分で血の花園カオス・プラネットを作れればもっと実験できるのに~!!」

血の花園カオス・プラネット。それは吸血鬼が育てた植物のことで、魔物を強くする効果がある。
赤と緑のふたつの薬はどちらも血の花園カオス・プラネットから作られたものだった。

子どもが口を膨らます様子はとても可愛らしく、今しがた倒された魔物を作り出した張本人だとは誰も思わないだろう。

「早くみんなどっか行かないかなぁ。あの死体回収してさっさと逃げないとっ!」

「誰から逃げるんだ?」

「っ!うぎゃっ!」

声を聞いた瞬間逃げようとした子供の襟を掴んだのは、アーノルド エトワーテル辺境伯、その人だった。

観念した子どもは無抵抗に持ち上げられる。
そしてアーノルドの方を向き、目を合わせた。

「耳がお早いですね、お兄様。」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

処理中です...