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学園編
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僕は水の槍で、的確に炎の槍を無力化させる。
正直なところ、こんな打ち合いをしていては僕に勝ち目は無い。
魔法で戦っていれば僕の魔力が尽きてしまう。
「えっ!キルシュ様の魔法、全部当たった?...すごい。噂以上かも。」
レニーの誰に向けるでも無い独り言が聞こえてしまい、僕は気を引き締める。レニーの言っている噂とは、僕の先祖のことであり、現当主の兄上のことだろう。
兄上は僕とは比べ物にならないくらいお強い。
しかし僕もエトワーテルだ。代々築き上げた評判を落とさないために、僕はコレに勝たなくてはならない。
得体の知れない何かがまたも炎の槍を作り出す。
魔力の量で勝っているならば、それが模範解答だと思う。
なので僕は炎の槍を無視して近づいた。
身体強化を施したその移動はまさに一瞬。
ソレは反応することも出来ず、胴体に大きな切れ込みを入れられる。
人間なら死ぬだろうが、魔物ならば回復するだろう。
切った感触は魔物と似ているが、知らないもの。
これが肉体の感触なのかもしれない。
人を切ったのは初めてだ。
僕はソレが人間だと確信しているのに、思わず魔物であってくれと願ってしまう。
「あああああっ!ころす、のか?俺を?殺されるのか?アイツに!」
ドクドクと流れる血。
炎の槍がボロボロと形が崩れ、小さくなっていく。
遂に僕は人を切ってしまったのだな。
今更剣を握る手に力が入る。仕方がなかったとはいえ、先程の感触を思い出してしまう。
「アハ、アハハ!まだだ。まだまだまだまだ!コんなもンじゃねえぞ!」
しかしソレが言ったように、ソレが倒れる様子は無い。
それどころか力を増している気がする。
ドンッ!
ソレの体から熱風が吹き、僕は防御しながら距離を取らされる。レニーもちゃんと防御魔法を発動させていた。
黒いモヤがより鮮明に人型になり、角を作り、翼を作る。
傷も回復している。
「あっ、あれ!」
レニーも気付いたのだろう。
その顔が僕に魔法を撃ち、今は謹慎しているはずの生徒にそっくりなことに。
しかしその瞳の色は赤。魔物だ。
納得できない。先程までは人間だったはず。
人が魔物になる、そんなの聞いたことない。
先程より高温で洗練された炎の槍が数百本現れた。
しかしそれを見てしまえば、信じるほかなかった。
少しでも威力を落とさなければ。
僕は無我夢中で走り出す。剣が炎の槍の光をキラリと反射させる。
魔物ならばここで殺さなくてはならない、だから仕方ない。仕方なかったんだ。
魔物の首が落ちる。
黒い霧を纏っていたことから、吸血鬼のように殺すことが出来なかったら、と思っていたが杞憂だった。
「はっ?」
呆けた声を出す魔物。
魔物の身体はコントロールを失い倒れたが、落ちた頭は動くようで意識もあるようだ。
炎の槍も、降り注ぐものもあれば、空中分解をするものもあるといったところまで弱体化でき、普通の生徒でも防ぐことができた。
「俺を、切ったのか?キルシュ エトワーテル!」
はっきりと僕の名前を叫ぶ魔物。やはり僕が狙いだったのだな。
いや、この魔物が誰だったのか考えれば当たり前なのかもしれない。
しかしそれは僕が目を背けたい、彼が人間だったという事実を受け入れることと同じだ。
「人殺しのバケモノめ!やっぱ気に入らない貴族は始末するんだなあ!?」
頭だけだと言うのに、腹から声を出したように叫ぶ。
彼はまだ自分のことを人間だと思っているようだ。
事実では無い誹謗中傷を言われ、少し手に残る感触が消えた。
「弟が人殺しだと知れば辺境伯はどう思うだろうな!いや、お前の兄は父っ...!?」
回復する様子もなく頭だけで騒ぎ続ける。
それを聞きながら『僕が切ったのはこんなやつなのだから、必要以上に気に負う必要は無い』という思いを強めていたのだが、突如出現した氷の槍が魔物の口を塞ぎ、口内から後頭部を貫通した。
そのコントロールは魔物になった後の彼と互角。生成速度は彼以上だ。
こちらを注視しているのはレニーだけ。
しかも手を振り落ろした体制だ。
レニーの成績は至って普通のはずだ。
騒いでいた魔物が死んだことによって静寂が訪れる。
「少し怒っちゃった。」
レニーのそのいつも通りの言葉が、その場に響いた。
「惜し~!後でちゃんと解剖しなきゃ。」
壊れかけの寮の屋根の上。
さらさらと美しい桃色の髪が夜風で舞う。それは魔物になった彼に、魔物になるきっかけとなった薬を渡した子どもだ。
「でもやっぱり血の花園が鍵なのは間違いないね。自分で血の花園を作れればもっと実験できるのに~!!」
血の花園。それは吸血鬼が育てた植物のことで、魔物を強くする効果がある。
赤と緑のふたつの薬はどちらも血の花園から作られたものだった。
子どもが口を膨らます様子はとても可愛らしく、今しがた倒された魔物を作り出した張本人だとは誰も思わないだろう。
「早くみんなどっか行かないかなぁ。あの死体回収してさっさと逃げないとっ!」
「誰から逃げるんだ?」
「っ!うぎゃっ!」
声を聞いた瞬間逃げようとした子供の襟を掴んだのは、アーノルド エトワーテル辺境伯、その人だった。
観念した子どもは無抵抗に持ち上げられる。
そしてアーノルドの方を向き、目を合わせた。
「耳がお早いですね、お兄様。」
正直なところ、こんな打ち合いをしていては僕に勝ち目は無い。
魔法で戦っていれば僕の魔力が尽きてしまう。
「えっ!キルシュ様の魔法、全部当たった?...すごい。噂以上かも。」
レニーの誰に向けるでも無い独り言が聞こえてしまい、僕は気を引き締める。レニーの言っている噂とは、僕の先祖のことであり、現当主の兄上のことだろう。
兄上は僕とは比べ物にならないくらいお強い。
しかし僕もエトワーテルだ。代々築き上げた評判を落とさないために、僕はコレに勝たなくてはならない。
得体の知れない何かがまたも炎の槍を作り出す。
魔力の量で勝っているならば、それが模範解答だと思う。
なので僕は炎の槍を無視して近づいた。
身体強化を施したその移動はまさに一瞬。
ソレは反応することも出来ず、胴体に大きな切れ込みを入れられる。
人間なら死ぬだろうが、魔物ならば回復するだろう。
切った感触は魔物と似ているが、知らないもの。
これが肉体の感触なのかもしれない。
人を切ったのは初めてだ。
僕はソレが人間だと確信しているのに、思わず魔物であってくれと願ってしまう。
「あああああっ!ころす、のか?俺を?殺されるのか?アイツに!」
ドクドクと流れる血。
炎の槍がボロボロと形が崩れ、小さくなっていく。
遂に僕は人を切ってしまったのだな。
今更剣を握る手に力が入る。仕方がなかったとはいえ、先程の感触を思い出してしまう。
「アハ、アハハ!まだだ。まだまだまだまだ!コんなもンじゃねえぞ!」
しかしソレが言ったように、ソレが倒れる様子は無い。
それどころか力を増している気がする。
ドンッ!
ソレの体から熱風が吹き、僕は防御しながら距離を取らされる。レニーもちゃんと防御魔法を発動させていた。
黒いモヤがより鮮明に人型になり、角を作り、翼を作る。
傷も回復している。
「あっ、あれ!」
レニーも気付いたのだろう。
その顔が僕に魔法を撃ち、今は謹慎しているはずの生徒にそっくりなことに。
しかしその瞳の色は赤。魔物だ。
納得できない。先程までは人間だったはず。
人が魔物になる、そんなの聞いたことない。
先程より高温で洗練された炎の槍が数百本現れた。
しかしそれを見てしまえば、信じるほかなかった。
少しでも威力を落とさなければ。
僕は無我夢中で走り出す。剣が炎の槍の光をキラリと反射させる。
魔物ならばここで殺さなくてはならない、だから仕方ない。仕方なかったんだ。
魔物の首が落ちる。
黒い霧を纏っていたことから、吸血鬼のように殺すことが出来なかったら、と思っていたが杞憂だった。
「はっ?」
呆けた声を出す魔物。
魔物の身体はコントロールを失い倒れたが、落ちた頭は動くようで意識もあるようだ。
炎の槍も、降り注ぐものもあれば、空中分解をするものもあるといったところまで弱体化でき、普通の生徒でも防ぐことができた。
「俺を、切ったのか?キルシュ エトワーテル!」
はっきりと僕の名前を叫ぶ魔物。やはり僕が狙いだったのだな。
いや、この魔物が誰だったのか考えれば当たり前なのかもしれない。
しかしそれは僕が目を背けたい、彼が人間だったという事実を受け入れることと同じだ。
「人殺しのバケモノめ!やっぱ気に入らない貴族は始末するんだなあ!?」
頭だけだと言うのに、腹から声を出したように叫ぶ。
彼はまだ自分のことを人間だと思っているようだ。
事実では無い誹謗中傷を言われ、少し手に残る感触が消えた。
「弟が人殺しだと知れば辺境伯はどう思うだろうな!いや、お前の兄は父っ...!?」
回復する様子もなく頭だけで騒ぎ続ける。
それを聞きながら『僕が切ったのはこんなやつなのだから、必要以上に気に負う必要は無い』という思いを強めていたのだが、突如出現した氷の槍が魔物の口を塞ぎ、口内から後頭部を貫通した。
そのコントロールは魔物になった後の彼と互角。生成速度は彼以上だ。
こちらを注視しているのはレニーだけ。
しかも手を振り落ろした体制だ。
レニーの成績は至って普通のはずだ。
騒いでいた魔物が死んだことによって静寂が訪れる。
「少し怒っちゃった。」
レニーのそのいつも通りの言葉が、その場に響いた。
「惜し~!後でちゃんと解剖しなきゃ。」
壊れかけの寮の屋根の上。
さらさらと美しい桃色の髪が夜風で舞う。それは魔物になった彼に、魔物になるきっかけとなった薬を渡した子どもだ。
「でもやっぱり血の花園が鍵なのは間違いないね。自分で血の花園を作れればもっと実験できるのに~!!」
血の花園。それは吸血鬼が育てた植物のことで、魔物を強くする効果がある。
赤と緑のふたつの薬はどちらも血の花園から作られたものだった。
子どもが口を膨らます様子はとても可愛らしく、今しがた倒された魔物を作り出した張本人だとは誰も思わないだろう。
「早くみんなどっか行かないかなぁ。あの死体回収してさっさと逃げないとっ!」
「誰から逃げるんだ?」
「っ!うぎゃっ!」
声を聞いた瞬間逃げようとした子供の襟を掴んだのは、アーノルド エトワーテル辺境伯、その人だった。
観念した子どもは無抵抗に持ち上げられる。
そしてアーノルドの方を向き、目を合わせた。
「耳がお早いですね、お兄様。」
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