無表情辺境伯は弟に恋してる

愛太郎

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学園編

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「レニー、こっち見て。」

「え!?そんなこと言われたら一生振り向けないよ!」

言い方を間違えた。
キルシュは一瞬でそう悟り、次からは違う言葉をかけようと反省する。

放課後、演習場へ行ったら兄上がプレゼントをくださった。
正直驚きと喜びで心臓がうるさかった。
その様子を見た兄上が、今度はちゃんとしたものを買ってくるから、と何故か眉を下げていた。

まあ確かに謎のプレゼントではあった。
綺麗で精巧な造りだったため、ファッションアイテムとして社交界にもつけていけそうではあったが、ファッションアイテムとして着けている人は見たことがない。

流行を作れということだろうか?

兄上の思惑は気になるところだが、僕はそのプレゼントを気に入ってしまった。
兄上がくださったというだけで僕の宝物になったのに、華奢だが細かな彫刻が施されたフレームも、肌触りのいい金のチェーンも、とても僕好みだ。

寮の部屋で、僕はレニーにそのプレゼントされた眼鏡を見せびらかす。

「どう?」

「ああああ似合い過ぎです。目に毒です。太陽は直接見たら失明するんですよ!?」

「僕はよく月に例えられるから新鮮だな。」

「月も間近で見たら失明するの!」

「そうなのか。知らなかった。」

そんな訳無い。月は恒星こうせいでは無いのだから。

「それにしてもキルシュ様に似合うなんてすごい眼鏡だね。先生にもらったの?」

「僕は眼鏡が綺麗すぎて浮いてしまっていると思ったのだけど...。レニーの言う通り兄上がくださったんだ。この眼鏡ケース見て。」

僕はケースをパカッと開き、メガネ拭きの右下を見せる。そこにはとある商会のマークが入っていた。

「うわっ、出た。お貴族様御用達っ!上を見ればキリがない、その名もダリア商会!先生やっぱりお金持ってたんだ!お金持ちだ!!」

「お金の話は品が無いけど...流石に僕もこれの価値は気になる。」

「それ置物とかじゃないの?美術品じゃない?」

「それが僕にピッタリなんだ。不思議だよね。」

「オーダーメイドッ!!!」

レニーも同じように思ったのなら、やはりこれはオーダーメイドで作られたのだろう。

オーダーメイドもピンキリだけど、これは...気が引けます、兄上。でもすごく素敵です、ありがとうございます。

「大事に閉まっておこう。」

「そうだね、落としちゃったりしたらって考えると怖いもん。...先生、これでタガが外れて無ければいいけど。」

眼鏡が傷つかないようケースに入れ、蓋に手を置く。


ドンッ!


そして眼鏡ケースを閉めると同時に、地面が揺れた。

いや、建物が揺れている?

「え!?地震!?」

布団を被ろうと、ベッドに走るレニー。
しかし、その床は脆く崩れ去る。

「えっ!?落ちる!?浮いてー!!浮く!浮く!浮く!魔法!魔法!魔法!!やった!浮いた!!」

喜ぶレニーに迫り来る、崩れた天井。

同じく浮遊魔法で浮いた僕は、レニーの手を引いて窓だった隙間から脱出した。

「キルシュ様!?ありがとう!」

「どういたしまして。」

僕とレニーは崩れる建物に潰されないよう、少し離れた場所に降り立つ。

どうやら崩れたのは僕たちの部屋周辺だけのようだ。
もう崩壊も止まり、生徒が落ち着いて避難しているのが窓から見える。

そう周りを観察していると、崩れ落ちた部分で何かが動いたような気がした。

「今なにか動かなかった!?下敷きになった人かも。僕、助けに行ってくる!」

「レニー!」

走り出そうとするレニーを手首を掴んで止める。

「えっ、キルシュ様?」

僕は地面に落ちていた剣を拾う。そして剣先をソレに向ける。

瓦礫を軽々と吹き飛ばし、人型の魔物が出てくる。

身体が黒い霧で出来ており、大きな角とコウモリのような片翼は濃度が薄いのか透けている。
恐らく魔物だろうが、瞳の色は霧で確認できない。

「えっ!?あんな魔物、見たことも聞いたこともないよ!?キルシュ様知ってる?もしかして新種?」

キルシュ様。

その言葉に反応して、黒い霧がぶわっと大きくなった気がした。

「キル、シュ、さま。キル、ま。アハ、アハアハ。ころ、す。おれ、が、こっころ、ころ、す。」

「喋っ、てる!?」

「人語を解するか。」

次の瞬間、魔物は消え、僕は剣を振るった。

ボトッ。

僕の剣はとてつもない速さでこちらへ向かってきた魔物を捉え、その腕を切り落とす。

どうやら内側には肉体があるらしい。
つまりこの魔物は倒すことが出来る。

コレの魔力量は僕と比べてとても多いが、魔物としては普通だ。
そして対峙したときに分かった。こいつは魔力を使いこなせていない。

これなら僕でも勝てる。

「え、え?なんで?キルシュ、様。あれ...。」

今までキョロキョロしながらも、ちゃんと状況を把握していそうだったレニーの動揺する声。
僕はレニーの視線の先を確認する。

そこには腕を掴み、出血を抑えようとするヤツがいた。

そう、腕の切り口からはドクドクと血が流れていた。

僕は思わず剣を見る。もちろん血がついている。

魔物の定義は、血液の代わりに魔力が流れていること。

じゃあ血を流しているこいつは?

「いだ、い。いだいいだいいだいいだい!ころす!ゴロスころす殺す殺す!!」

ソレが炎の槍フレイムランスを作り出す。
その数は数十、いや数百あるだろうか。

太陽が沈み星がきらめいていた夜空が、炎で埋め尽くされていく。その光景に、僕は思考を中断させる。

例えコイツが人間だとしても、これは許される行為では無い。
なら僕は先程までと変わらず、戦うだけだ。

「レニー、下がっていて。」

レニーがこくりと頷く。
僕はレニーが後ろに下がったことを確認して、ソレに剣を向けた。
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