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学園編
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やあ!僕はレニー ウレニ!
「会長!あれは女性の挨拶ですわ。」
今はキルシュ様ファンクラブのメンバー、レイナ様に詰められてるんだ...。
ファンクラブ内で役職があるのは僕と副会長くらいだけど、レイナ様は伯爵令嬢だからまあまあ発言力を持っているんだよね。
伯爵令嬢に詰められる両親に見限られた僕。
泣いてもいいんじゃないかな!?
僕の向かいに座ったレイナ様が体を前に出して、ソファーがギシリと軋む。
「いくら子爵家の子息と言えど、舞踏会には招かれたことくらいあるでしょう?ありませんの?」
「違うんです。あのときは混乱していて...!っていうか子爵家ってレイナさんが思っているよりすごいから!まあまあ呼ばれるから!」
いやまさか僕も僕が見よう見まねでレイナ様の真似をしてたとは思わなかった。
だってしょうがないじゃん!
エトワーテル辺境伯様に見とれてたら、何故かレイナ様が前に出てくるんだがら!
レイナ様は、『まあ?そうですの?』なんて言って飄々としている。
「レイナ様こそ客人、しかも辺境伯にエスコートさせるってどういうことなんですか!?」
「だってしてくださるってあちらが仰ったんだもの。」
「教室にあんな綺麗なエスコートで入ってくる人見たことないですから!」
僕は言い合いに夢中になって、紅茶を用意してくれた人に手を挙げてお礼を言ってしまった。
完全にやらかしちゃった。だって使用人なんてここにいないんだからね!
僕は挙げた手を下ろすことも忘れて、首をエトワーテル辺境伯様の方へ動かした。ちょっと不自然な感じにはなっちゃったけど。
僕とレイナ様が向かい合って座ってしまったせいで、エトワーテル辺境伯様に椅子を用意させてしまったみたい。
まるで議長であるかのような席に座って、紅茶を嗜んでいる。
そう、きっと僕たちにも入れてくれたであろう紅茶を。
辺境伯って侯爵と同じくらいの階級らしいよ。
その中でもエトワーテル辺境伯って言ったら悪名高き大貴族。
僕の人生、終わったかも~???
「あら、美味しいわ。」
その一方でレイナ様は紅茶の感想を述べる。
レイナ様って本当にすごい人なのかも。
面食らっている場合じゃなかった。僕もお礼言わなきゃ。
「あっ、ありがとうございます?で良いのかな。良いわけないよね。良いわけないよ!」
いいわけないよ!でもお礼は言わなきゃいけないし、どうするのが正解だったのかな!
言ってるうちにまた混乱してきちゃった。
一旦落ち着こう。あっ紅茶おいしい。
そういえば、そもそもなんでエトワーテル辺境伯は僕に会いたいんだろう?僕っていうより会いたいのはキルシュ様ファンクラブの会長だけど。
普通に考えてなにか看過できないことがあったんだろうなあ。
あれ?そもそもこのファンクラブ自体が看過できない可能性大ありじゃない?だってキルシュ様に作らないでって言われた気がしなくも...無いし?
教室内に静寂が訪れる。
エトワーテル辺境伯様が、それを待っていたように話し出した。
「突然の訪問に対応してくれて感謝する。私はアーノルド エトワーテルだ。
今日はキルシュのファンクラブへ入会したくて伺った。」
紅茶を置いたエトワーテル辺境伯にこっちを見られて、僕も慌てて紅茶を置き、背筋を伸ばす。
すごい威厳だなあ。
実父を殺したというのも納得出来る。
あっ、このことは秘密だよ?キルシュ様も知らなそうだから。
キルシュ様に言っていないってことは、僕は彼の弱みを握っていると思っていたんだけど、この状況じゃむしろ実績な気がする。
お前のことはいつでも殺せるんだぞ、的な...。考えたくないよ~!!
でも今までの行動からはそんな感じしなかったし、なんならちょっとお茶目な気がする。
キルシュ様だって慕っているって言ってたし、きっと大丈夫!だと思わなきゃ涙が出てきちゃうね!!
「僕はレニー ウレニです。キルシュ様にはいつもお世話になっております。えっと、入会希望、ですか?文句を言いに来たんじゃ?」
キルシュ様にファンクラブがあることバレたのかな~って思ってたんだけど、違ったみたい?
僕の発言を聞いてエトワーテル辺境伯はレイナを見る。
「私はただ貴方が会長に用があるようだとしか言っておりませんわ。」
ツンッと自分に責任は無いことを主張するレイナ様。
レイナ様ってもしかして僕の想像以上に大物?なんで普段と変わらないの?
しかもエトワーテル辺境伯様も、それをなんとも思っていないみたいで、レイナ様に何も言うことなくこちらを向いた。
もしかしておおらかな人なのかな?
「私はただキルシュのファンクラブがあるなら入らなくてはならないと思い来ただけだ。」
なんという親近感。
それが当然という考え方は同志に通づるものがある。
しかしやはり言っておかねばならない。
「このファンクラブ、キルシュ様に内緒で運営してるのですが...。」
その言葉にエトワーテル辺境伯は一瞬考えたが、次の瞬間には雰囲気が和らいだ。
「キルシュは自分のファンクラブなど認めないだろうからな。そういうところも含めて好きだ。」
ん?この人キルシュ様のこと、もうそれはすごく好きじゃない???
それを聞いたレイナ様も話し始める。
「バレてもキルシュ様はきっと許してくださいますわ。」
レイナ様、優しい方が好きっていつも言っているからなあ。
「優しく穏やかな子だからな。」
エトワーテル辺境伯様食い気味に話し始めちゃったな。
「ええ!そして聡明ですわ。キルシュ様の不利益とならないならばきっと。」
「照れる可能性もあるだろう。」
「まあっ!?それは...想像付きませんわ。」
「私の方が心を開かれているようだな。」
「私は別に仲良くなるつもりはありませんから!でも兄弟は狡いと思いますわ!」
僕は完全に理解した。
エトワーテル辺境伯様とレイナ様の言い合いを見て、なんとなく2人の関係性がわかった気がする。
というか僕もエトワーテル辺境伯様に同じテンションで話しかけそうになっちゃう。だってもう同志にしか見えないんだもん!!
でもさ、ほら。彼は辺境伯にもう就いちゃってるし?一応聞いておこうと思うんだ。
「御二人は以前から仲が良かったのですか?」
「そんなわけないでしょう!?」
ちょっとした確認だったのにすごい否定された。
レイナ様、本気でエトワーテル辺境伯様を嫌っているのかなってちょっと思っちゃったけど、逆に言えば好き嫌いを考えられるような仲なんだなって思った。
僕はまだちょっと怖いよ!小心者だからね!
「昨日たまたま知り合っただけだ。」
エトワーテル辺境伯様のその言葉で現実に戻ってくる。
「なんですの?まだ引きづるおつもり?」
「なんのことだか。」
2人の様子から全くの偶然で出会ったというわけでもなさそうだなって思ったけど、初めて会ったのは昨日ということに間違いはなさそう。
「会員同士仲良くなるのが早いのはいいことだよね。」
「は...?」
僕の言葉にレイナ様が固まった。
「キルシュ様に対する愛さえあれば誰でも会員になれるんだから、そもそもこんなに色々なことを聞くのは変でした。ごめんなさい。
改めまして、私たち探偵同好会もとい、キルシュ様ファンクラブは貴方を歓迎します。エトワーテル先生。」
僕がそう宣言すれば、エトワーテル辺境伯様は傲岸不遜な態度のまま、しかし真っすぐと僕を見つめて来た。
「ああ、顧問としてこの同好会に、いや、探偵部に貢献しよう。」
なんだろう。金色に輝く月に吸い込まれるようなこの感覚。キルシュ様と同じ瞳なのに、その中にある深い闇に魅入られるような。
「~~~!!私の憩いの場が~!」
レイナ様のその声に僕は笑った。
「会長!あれは女性の挨拶ですわ。」
今はキルシュ様ファンクラブのメンバー、レイナ様に詰められてるんだ...。
ファンクラブ内で役職があるのは僕と副会長くらいだけど、レイナ様は伯爵令嬢だからまあまあ発言力を持っているんだよね。
伯爵令嬢に詰められる両親に見限られた僕。
泣いてもいいんじゃないかな!?
僕の向かいに座ったレイナ様が体を前に出して、ソファーがギシリと軋む。
「いくら子爵家の子息と言えど、舞踏会には招かれたことくらいあるでしょう?ありませんの?」
「違うんです。あのときは混乱していて...!っていうか子爵家ってレイナさんが思っているよりすごいから!まあまあ呼ばれるから!」
いやまさか僕も僕が見よう見まねでレイナ様の真似をしてたとは思わなかった。
だってしょうがないじゃん!
エトワーテル辺境伯様に見とれてたら、何故かレイナ様が前に出てくるんだがら!
レイナ様は、『まあ?そうですの?』なんて言って飄々としている。
「レイナ様こそ客人、しかも辺境伯にエスコートさせるってどういうことなんですか!?」
「だってしてくださるってあちらが仰ったんだもの。」
「教室にあんな綺麗なエスコートで入ってくる人見たことないですから!」
僕は言い合いに夢中になって、紅茶を用意してくれた人に手を挙げてお礼を言ってしまった。
完全にやらかしちゃった。だって使用人なんてここにいないんだからね!
僕は挙げた手を下ろすことも忘れて、首をエトワーテル辺境伯様の方へ動かした。ちょっと不自然な感じにはなっちゃったけど。
僕とレイナ様が向かい合って座ってしまったせいで、エトワーテル辺境伯様に椅子を用意させてしまったみたい。
まるで議長であるかのような席に座って、紅茶を嗜んでいる。
そう、きっと僕たちにも入れてくれたであろう紅茶を。
辺境伯って侯爵と同じくらいの階級らしいよ。
その中でもエトワーテル辺境伯って言ったら悪名高き大貴族。
僕の人生、終わったかも~???
「あら、美味しいわ。」
その一方でレイナ様は紅茶の感想を述べる。
レイナ様って本当にすごい人なのかも。
面食らっている場合じゃなかった。僕もお礼言わなきゃ。
「あっ、ありがとうございます?で良いのかな。良いわけないよね。良いわけないよ!」
いいわけないよ!でもお礼は言わなきゃいけないし、どうするのが正解だったのかな!
言ってるうちにまた混乱してきちゃった。
一旦落ち着こう。あっ紅茶おいしい。
そういえば、そもそもなんでエトワーテル辺境伯は僕に会いたいんだろう?僕っていうより会いたいのはキルシュ様ファンクラブの会長だけど。
普通に考えてなにか看過できないことがあったんだろうなあ。
あれ?そもそもこのファンクラブ自体が看過できない可能性大ありじゃない?だってキルシュ様に作らないでって言われた気がしなくも...無いし?
教室内に静寂が訪れる。
エトワーテル辺境伯様が、それを待っていたように話し出した。
「突然の訪問に対応してくれて感謝する。私はアーノルド エトワーテルだ。
今日はキルシュのファンクラブへ入会したくて伺った。」
紅茶を置いたエトワーテル辺境伯にこっちを見られて、僕も慌てて紅茶を置き、背筋を伸ばす。
すごい威厳だなあ。
実父を殺したというのも納得出来る。
あっ、このことは秘密だよ?キルシュ様も知らなそうだから。
キルシュ様に言っていないってことは、僕は彼の弱みを握っていると思っていたんだけど、この状況じゃむしろ実績な気がする。
お前のことはいつでも殺せるんだぞ、的な...。考えたくないよ~!!
でも今までの行動からはそんな感じしなかったし、なんならちょっとお茶目な気がする。
キルシュ様だって慕っているって言ってたし、きっと大丈夫!だと思わなきゃ涙が出てきちゃうね!!
「僕はレニー ウレニです。キルシュ様にはいつもお世話になっております。えっと、入会希望、ですか?文句を言いに来たんじゃ?」
キルシュ様にファンクラブがあることバレたのかな~って思ってたんだけど、違ったみたい?
僕の発言を聞いてエトワーテル辺境伯はレイナを見る。
「私はただ貴方が会長に用があるようだとしか言っておりませんわ。」
ツンッと自分に責任は無いことを主張するレイナ様。
レイナ様ってもしかして僕の想像以上に大物?なんで普段と変わらないの?
しかもエトワーテル辺境伯様も、それをなんとも思っていないみたいで、レイナ様に何も言うことなくこちらを向いた。
もしかしておおらかな人なのかな?
「私はただキルシュのファンクラブがあるなら入らなくてはならないと思い来ただけだ。」
なんという親近感。
それが当然という考え方は同志に通づるものがある。
しかしやはり言っておかねばならない。
「このファンクラブ、キルシュ様に内緒で運営してるのですが...。」
その言葉にエトワーテル辺境伯は一瞬考えたが、次の瞬間には雰囲気が和らいだ。
「キルシュは自分のファンクラブなど認めないだろうからな。そういうところも含めて好きだ。」
ん?この人キルシュ様のこと、もうそれはすごく好きじゃない???
それを聞いたレイナ様も話し始める。
「バレてもキルシュ様はきっと許してくださいますわ。」
レイナ様、優しい方が好きっていつも言っているからなあ。
「優しく穏やかな子だからな。」
エトワーテル辺境伯様食い気味に話し始めちゃったな。
「ええ!そして聡明ですわ。キルシュ様の不利益とならないならばきっと。」
「照れる可能性もあるだろう。」
「まあっ!?それは...想像付きませんわ。」
「私の方が心を開かれているようだな。」
「私は別に仲良くなるつもりはありませんから!でも兄弟は狡いと思いますわ!」
僕は完全に理解した。
エトワーテル辺境伯様とレイナ様の言い合いを見て、なんとなく2人の関係性がわかった気がする。
というか僕もエトワーテル辺境伯様に同じテンションで話しかけそうになっちゃう。だってもう同志にしか見えないんだもん!!
でもさ、ほら。彼は辺境伯にもう就いちゃってるし?一応聞いておこうと思うんだ。
「御二人は以前から仲が良かったのですか?」
「そんなわけないでしょう!?」
ちょっとした確認だったのにすごい否定された。
レイナ様、本気でエトワーテル辺境伯様を嫌っているのかなってちょっと思っちゃったけど、逆に言えば好き嫌いを考えられるような仲なんだなって思った。
僕はまだちょっと怖いよ!小心者だからね!
「昨日たまたま知り合っただけだ。」
エトワーテル辺境伯様のその言葉で現実に戻ってくる。
「なんですの?まだ引きづるおつもり?」
「なんのことだか。」
2人の様子から全くの偶然で出会ったというわけでもなさそうだなって思ったけど、初めて会ったのは昨日ということに間違いはなさそう。
「会員同士仲良くなるのが早いのはいいことだよね。」
「は...?」
僕の言葉にレイナ様が固まった。
「キルシュ様に対する愛さえあれば誰でも会員になれるんだから、そもそもこんなに色々なことを聞くのは変でした。ごめんなさい。
改めまして、私たち探偵同好会もとい、キルシュ様ファンクラブは貴方を歓迎します。エトワーテル先生。」
僕がそう宣言すれば、エトワーテル辺境伯様は傲岸不遜な態度のまま、しかし真っすぐと僕を見つめて来た。
「ああ、顧問としてこの同好会に、いや、探偵部に貢献しよう。」
なんだろう。金色に輝く月に吸い込まれるようなこの感覚。キルシュ様と同じ瞳なのに、その中にある深い闇に魅入られるような。
「~~~!!私の憩いの場が~!」
レイナ様のその声に僕は笑った。
応援ありがとうございます!
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