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学園編

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「気になりますか?と言っても話せることは少ないですが。」

ブランさんが懐かしむようにそう言ったことで俺には聞く以外の選択肢が無くなった。

「是非、お願いします。」

ブランさんの昔話!子供の時に話とか聞けるんだろうか。

「では少し長くなりますが。私は今は家から勘当されている身なのですが、私の」

「えっ?」

「?」

「あっいえ...。」

いや、え?ブランさん勘当されてるの?
なんでだ?

俺は混乱しながらもとりあえず話を聞くことにする。

「そうですか?実家は実力主義でして、小さな頃から様々な武器を教えられました。

その練習としてこのような遠征には小さい頃から何回か参加したことがあります。
実家はエトワーテル辺境では無いので、先程のあれが何なのか、どういうことなのか、知っているつもりです。」

俺は思わず息を飲んだ。
女性のいない戦場に少年が行けばどうなるのか分からないはずがない。

「あれは私が18のとき。仕事、まあ遠征のようなものから帰って来ると父親に呼ばれました。そこでまた仕事を任されました。自信を失うことになる仕事です。」



父親から任された仕事はエトワーテル辺境伯を殺すことだった。

ブランの実家は伝統ある貴族で、任されている役割は影から国を支えること。
言葉を選ばずに言えば殺し屋だった。

当時16歳のアーノルド エトワーテルはファシアス学園に通うため王都にいた。

父親によればそれは好機だったらしい。

俺はアーノルド エトワーテルが寮に泊まる日を狙っていたのだが、一向に泊まる気配がないため、エトワーテル辺境伯の屋敷に潜り込んだ。

いつも通り誰にもバレることなく、標的の寝室まで来た。

あとは殺すだけ。

俺は枕元に立ち、ナイフを振り下ろした。
しかし俺のナイフは剣によって防がれた。

ベッドの傍に剣が置いてあることは確認していたが、いつ手に取ったと言うのだろう。

『どうやって入り込んだ。』

16歳のまだ背も伸び切っていない少年にそう問われる。

その問いに俺が返すわけなかった。
殺せないなら逃げるのみ。

アーノルド エトワーテルはこちらを殺す意思は無さそうだった。

俺は背後の窓から逃げる。
アーノルド エトワーテルはこちらの一挙手一投足をしっかりと見ていたが、予想通り俺を追ってくることはなかった。

翌日、彼は前日にあんなことがあったのにぐっすり眠っているように見えた。
そう、寝てたはずなのだ。呼吸はゆっくりと一定間隔にしているし、まぶたも一切動かず、起きた気配はなかった。

なのにその日も俺のナイフは剣で防がれた。

それが何日か続いたとき、父親から実家に呼ばれた。

「ターゲットに何回も接触し、失敗を続けているな。」

そんな言葉から入ったそれは、家からの勘当宣告だった。

毒殺で失敗したならまだしも、俺はアーノルド エトワーテルに顔を見られている。
もちろん隠せる部分は隠しているが。

まあそうで無くともあの家は実力主義を謳っている以上、失敗した俺はいらないのだろう。

俺は反論することもなく、家から追い出された。
しかし俺は勘当されたあともアーノルド エトワーテルを殺しにいった。

もはや意地だった。

細心の注意を払い、気配を隠すことに集中する。
彼の状態もまつ毛1本に至るまで観察した。

なのに彼の首は未だ繋がったままだ。

『貴様、もう帰る家も依頼も無いだろう。』

いつも通り俺のナイフを剣で防いだアーノルドはそう言った。
意地になっていたし、守るものも無い俺は言葉を吐き捨てた。

『ああ、お前のおかげでな。』

『私に雇われないか。』

嫌味を言ったあとにそう言われて、怪訝に思わずにはいられなかった。

『貴様はここを守っている誰よりも強い。』

それは俺がアーノルドに出会う前に思っていたことだった。

俺は騎士団長の不意だって突ける。
何回か見つかって追いかけられているが、それはあいつが標的ではなく騎士だからだ。

俺に殺せないやつはいない。
そう思っていたんだ。

だからこそムカついた。

『お前がそれを言うのかよ。』

俺はナイフを終い、窓際に逃げる。

『俺がお前を殺せたら雇われてやるよ。』

イラついた感情をそのまま吐き出す。そして俺は今日も逃げたのだ。



「その仕事中にマイロードに負け続けましてね。負けたせいで家には勘当され、何故か元凶マイロードが拾われたわけです。」

話せないことがあることはわかっていたが、随分と端折られた気がする。

でも予想通り、俺にとっての騎士団長は、ブランさんにとってのエトワーテル辺境伯らしい。

しかしブランさんはエトワーテル辺境伯にどんな気持ちで仕えているんだろう。

騎士団長に負けて実家に勘当されたら怒りは実家に向く気がする。
しかしぽっと出の騎士に負けたと考えると、不甲斐ない気持ちになるだろう。

今の僕と同じように。
いや、俺は騎士団長と自分を比べて凹んでるんだった。あれ、俺が落ち込んでるの図々しい?

そんなことを考えていると誰かがこちらに歩いてくる音がする。

俺は音の方を確認する。

「エトワーテル辺境伯、お疲れ様です!」

俺は反射的に立ち上がって敬礼をする。
噂をすれば、と言うやつだろうか。

辺境伯は夜だと言うのに正装で、一切の隙がない。
威圧感も昼のままだ。

整った顔立ちはいつも通り無表情で、その視線はブランさんに向けられている。

「もうすぐ調査班が帰ってくる。出発準備をしておけ。」

こんな夜に?

俺は驚くが、討伐が終わった今相手は貴族だ。勝手に口を開くことは許されない。

「何かあったと?」

ブランさんのその言葉に辺境伯が俺をちらりと見た。
しかしどうでもいいと思われたようだ。

すぐにブランさんに向き直り、口を開く。

「吸血鬼だ。」
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