無表情辺境伯は弟に恋してる

愛太郎

文字の大きさ
上 下
17 / 52
学園編

17

しおりを挟む
いよいよファシアス学園の入学式。

緑を基調とデザインの制服で、成績優秀者には学園から黒いマントが支給される。

もちろん僕はマントを羽織って登校だ。



エトワーテルの者として当然の結果ーーー



キルシュは口をキュッと閉じる。

『家のことなど気にせず楽しんでおいで。』

とても優しい声だった。思い出すだけで恥ずかしくなるような。

だから王都までの馬車の中でその意味を一生懸命考えたのだ。

兄上は実は引きこもっていることによってエトワーテルの評判を下げていることに罪悪感を感じていた?

いや、兄上はいつも堂々としているし、引きこもっているのも理由があるのだと思う。

では、僕がエトワーテルの評判を気にし過ぎないようにというアドバイスだろうか。

僕は考える。考えていたい。考えなければいけないのだ。


だってそうしなきゃ、兄上に破滅願望があるみたいじゃないか。



僕は兄上の腕の中で、思ったことはそれだった。

貴族が家のことを気にせず楽しんでいいときとはいつだろうか。

破滅願望まで行かなくても、兄上は家の事などどうでもいいと思っているのでは無いだろうか。

そんな考えばかり思い浮かんでは消える。

「初めまして、エトワーテルくん。」

いつの間にか隣に座っていた黄緑の髪色をカールさせている男の子に話しかけられる。

キルシュは考えごとをしながらも廊下に張り出された案内を見てクラスの場所を確認し、後ろの方の席に着いていた。

「初めまして、クリスティ様。」

ヒュー  クリスティ。侯爵家の長男で、この学年で1番爵位が高い方だ。

辺境伯は侯爵と同じくらいの爵位だが、相手を立てておく。
余計ないざこざは避けたい。

「やめてやめて!ヒューって呼んでよ。今日からクラスメイトなんだから。」

「ではヒューと。僕のこともキルシュと呼んでください。」

それを聞くととヒューは口に手を当てて微笑む。

「ふふ、わかった。敬語も無しで行こ?」

「いえ、それは癖なので。」

別に癖って訳でもないけど、彼をよく知らないのに仲がいいと思われるのもあまり良くない。

「えぇ~、気軽に話せるのキルシュだけなのに。君だってそうじゃないの?」

ヒューは不満そうに肘を付き、ピンク色の目でこちらを見てくる。

自分に価値があることをわかっているその仕草がある人と重なって少し...苦手だ。

「そういう人は作るものだと思っていますので。」

「はっ反論しずらい...。」

その後少しの静寂が訪れ、気づく。

すごく視線を感じる。

まるで獲物を狩るような視線や、こちらを見て頬を染める女子の視線、話しかけるときを伺っている視線。

この学年で侯爵嫡子なのはヒュー1人。そこに辺境伯の兄を持つ僕がいるとなると...なるほど、こうなるのか。

繋がりが欲しいのか、玉の輿を狙っているのか。

エトワーテルの学園にいるときはどう接しようかという視線が最初の数日飛んできただけだったが、これはいつまで続くのだろう。

ヒューの言った気軽に話せる人が僕だけという意味が少しわかってチラリとそちらを見ると、目が合った。

「ね?」

やっぱり苦手。



その後は入学式をやって学校は終わった。
新入生の挨拶はヒューがやったため、僕は座っていただけだ。

今日はそれより大切なことがある。それは寮の部屋だ。

同室の人は同学年の同性だと決まっているが、それ以外は完全なランダム。

僕は学校とはまた違った木のドアの前で深呼吸をする。

ある程度防音機能がついているのか、まだ同室の人は来ていないのか、中から音は聞こえない。

貴族が集まる寮だ。セキュリティはしっかりしていて、鍵もついている。

ヒューみたいな人だったら毎日外泊届を出そう。そして王都にある屋敷で過ごそう。

兄上みたいな人だったら嬉しいな。いや、兄上のような人がこの世に2人もいるわけないじゃないか。

というか兄上みたいな人だったら毎日屋敷に帰って仕事をしているはずだ。だって兄上がそうだったから!

流石です、兄上!

「あっ、あの...僕の部屋に何か用?」

後ろを振り向くと茶色いもさっとした髪に分厚い眼鏡をかけた男の子が立っていた。

僕の部屋、ということはこの人がこれから一緒に過ごしていく人...。

「えーっと、そんなに見られると恥ずかしい、かも?」

彼は今買ってきたであろう何冊もの教科書を重そうに持っているため、首だけ動かして視線を外す。

よかった、仲良くなれそうだ。

「よろしくお願いします。」

「えっ、え?よっよろしく?」

僕は学生証をドアノブにかざし、鍵を開け、中に入った。

彼はそれを見て驚いていたが、僕がドアを押さえて置くとそそくさと中に入ってきた。

中は狭く、真ん中に2つの勉強机、両端にベッドが置いてあった。

入って右が僕のエリアのようで、メイドが用意したであろう本棚に教科書と自主的に持ってきた参考書、本が何冊か入っている。

「全部用意されているなんて...やっぱり上級貴族な、んですか?」

彼は教科書を勉強机の上に積み上げそう尋ねてくる。

それにしても変だ。

「僕を知らないのですか?いえ、責めてるわけではなく。」

「えっと、はい。いえっ、すみませんっ。どこかでお会いしましたか!?」

そう言われてキルシュは気づく。

確かに会ってもいない人を知っているわけないのだ。兄上が行かないパーティに僕が参加するわけもなく、僕のことを知っている人間はいても、顔を知る人は現時点で誰一人いないと言っていい。

ヒューめ、教室の視線はヒューのせいじゃないか。何が『ね?』だ。

「いえ、これが初対面です。すみません、変なこと聞きました。僕はキルシュ  エトワーテルです。」

「エトワぁ!?」

彼は自分の声に驚き、手で口を塞いだ。そしてキョロキョロと辺りを見回し始め、僕を見る。

「え、あ、えっ、ぁ、たっタメ口で話してごめんなさいぃ!家だけはどうか!」

手と足が震えている彼の様子でエトワーテルがどう思われているかわかる。

確かにタメ口で話した相手が辺境伯の弟だったなんて可哀想な話だが、エトワーテルを名乗るだけでこんなに萎縮されるなんて、頑張った兄上が可哀想じゃないか。

そうだ、少し意地悪をしちゃおう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...