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第10話 不在の土地神、神使達は踊る
しおりを挟む『死……ね』
捕縛したクロへ髑髏はポツリと言い、勢いよく蔓を振るう。
それは放たれた矢のように彼へ迫る。
「このッ……死ぬわけにはッ! 」
諦めずにもがき続けるが、刃はクロに突き刺さった。
「――――グアアアゥゥゥッ!? 」
必死の抵抗のおかげなのか急所は避ける事が出来たようだ。
刃は左肩へ深々と刺さっていた。
『死ンでナイ、何故? なぜ死ナナイッ、何故、なぜナンだ? 何故……何故……何故……』
「ッッッ! ガアアアアアアアアアッ! 」
畑怨霊は傷口をえぐるようにグリグリと刃を動かし始めた。
血が飛び散り、肉の千切れる不快な音が周囲に広がる。
クロの叫び声が響こうが関係無い。問い続け、刃を動かす。
蔓は滴るクロの血を吸い、身体を再生し始めた。
次第に怨珠は蔓の中に埋もれ、右腕以外は元に戻る。
地面を転がっていた髑髏も定位置に置かれ、飛び散った血で部分的に赤く染まっていた。
『血ィ……美味イ、な。 もっと……モット吸ワ、せろっ! 』
刺した刃を動かしながら強く締め上げる。
溢れる血は次々と吸われてゆく。
「グっ、ガァ……アアァ……」
紅く染まりつつある畑怨霊の身体は一回り大きく成長。
頭部の髑髏も形が変わり、すでに人の物とは別の形に変わっていた。
『マダ、だ……コノま、ま吸い尽クス……』
さらに締め付けは強くなる。
蔓はクロの頭まで巻き付き、彼の姿は見えなくなった。
(マコト様……すみません、お会いする前に僕は……)
もがくのを諦め、意識を手放そうとした時結界が割れる。同時にクロを捕縛していた腕は謎の波動に切り裂かれ、地面に落ちた。
薄れゆく意識の中、クロは少女を見かけた気がした。その少女の正体は彼と共に降り立った神使、名を―――
※※※
少し時間は戻り、場所は結界の外。何もない畑を白柴が見つめていた。
何を見てる、アチキは見世物ではないぞ。
アチキの名はシロというが……ん? 出番とな?
……おっと、これは失敬。まさかかめらが回っておったとは気が付かなかった。
どうした作者殿? 他の皆(みな)も何を慌てふためいて―――
~映像(?)に乱れが発生しました、少々お待ちください……~
アチキは結界の前にいる。
降りたときは頭に血が上っていたが、少し寝たら冷静になれた。
腹こそ減ったがクロを一人で行かせたのが心配になり、追ってきたのだ。
『むぅ……すでに結界が張られてしまったか』
外から見るとそこはただの畑にしか見えないが、しかしそれは違う。
いや今はアチキも同じなのだが……それと別に壁が視えるのだ。
ほら、結界に触れるとその部分はボンヤリと光るだろう?透明な壁が囲っておるのだよ。
……どれここら辺をこうやってクルッと
シロは肉球で小円を描くと、結界の一部分がポロリと落ち中の様子が見える。
同時に、悲痛な叫び声が伝わってきた。
『なっ!?』
そこからは動きを封じられ、傷を抉られるクロの姿が見えた。
おいおいおいクロよ、いったい何をしておるのだ……?
ちち、血が勢いよく出ておるではないか。
『血……――な、もっ―――』
あの物の怪、今【血】と言ったか?
身体は植物のようだが赤く染まって、蔓でクロの頭まで包み込n―――
……まさかっ!?
シロはその場で宙返りを行う、着地した時にはその姿を変えていた。
白銀色の長い髪を紐でポニーテールに結った少女がその場に立つ。
クロとは対になる白を基調としたダンダラ模様の羽織、その下には赤い着物と黒の袴。羽織はたすき掛けをし動きやすくしていた。動きの邪魔にならない程度の防具を装備しており、右手には薙刀が握られている。
「よし、これなら……今行くぞ、クロっ!」
これから結界を割る。そのためにはチョイと技を使う必要があってな。
……何? 普通に解除すればよいのではとな?
アチキはそのような事が苦手でな、細かいのはクロに任せてるのだよ。
悪いがあまり時間が無い、残りの質問は後にしてもらおうか。
「スゥ……ハァ~……」
上段に構え、意識を集中させる。
刃には光が集まり、徐々に輝きが増してゆく。
どうだ、美しいだろう? これが我々の使う力、【霊力】の輝き。
前に信仰心等が力の源云々と言ってたらしいが、まぁ説明は省略。
ただ……自然から吸収できるものより、人から得られるモノの方が質は良い事は確かだ。
さぁ準備はできた、結界を破るぞ。
「真神流薙刀術 壱ノ段……【繊月】!! 」
薙刀は綺麗な弧を描くように振り落とされ、刃から細い三日月の様な波動が放たれる。
青白く輝く刃は結界を割り、地面を裂きながらクロを捕縛する蔓へと向かう。
『オオオォォォゥゥゥ……』
「クロっ!! 」
植物でも痛いという感覚はあるようだな、切り口から緑色の液体が噴出しておる。
悶えているうちにクロを安全な場所へ運んでしまおう、……あの廃墟でいいか
「おいっ、しっかりするのだ! 」
「…………っ……ぅぅ」
肩の出血が酷いな、このままでは……待てよ?
確かこのあたりにあの札が……
クロの袖や懐を探ってみると【癒】と書かれた札を見つけた。
アチキは持ってないぞ? 持っていても火薬玉に投刃、それらに合わせるて使う各種毒……まぁとりあえず、
「コイツを使えば治療できるはずっ」
スパーンッ!
「―――ィイッッッッ?!?!! 」
勢いよく張り付けたら、中々良い音がなったな。
……ん? なにやら顔が青白くなっておるが、大丈夫だろう。
今はゆっくり休むが良い。
「さてと、あとは奴を」
『何処ダ、もっと、血を……吸ワせろォォォっ! 』
む、いかんな。奴をあの畑から出すわけにいかない。
この距離ならあの技か。
「真神流薙刀術 参ノ段【弓張月】、セイヤァァァァァァッ!! 」
廃墟の陰から飛び出したシロは怨霊に向けて武器を投げる。
薙刀は腹部の強靭な蔓だけでなく黒い殻を貫き、怨珠へと到達。
畑怨霊も急所への一撃に怯んでしまう、もちろん彼女はその隙を見逃さない。
瞬時に接近し薙刀の柄を持つと、そのまま力を込め、無理やり切り上げる。
薙刀は怨珠から抜けてしまうが、畑怨霊も上空で無防備の状態になった。
『グオオオォォォッ?! 』
「このまま仕留めるっ!! 」
アチキはそのまま振りぬいた反動を利用し、相手に向かって飛び上がる。
「真神流薙刀術 奥義、七ノ段……【仲秋名月】!! 」
この技は使いたくなかった。
その、なんだ、確かに強力なんだが……とてつもなく回るのだ。目がな。
シロは敵に到達する前に薙刀を振るい、コマのように回り始める。
次第に回転は速くなり、刃に宿る霊力は増幅してゆく。
青白い輝きは色を変え、黄金色となる。
師匠の様にできればこんな真似をしなくても済むのだが、仕方あるまい。
アチキもまだまだ修行不足なのだよ。
さぁ、奴にとどめを刺してやろう。
「ハアアアァァァッ!! 」
『や、ヤメロォォォォォォぉぉぉぉぉぉッ!? 』
そして奴と交差した。怨珠ごと切り裂き、地を滑りながら着地する。
一方上空では、畑怨霊がこの世のものとは思えない叫び声を上げていた。
切り口からは光が溢れる、どうやら霊力が身体を焼いているようだ。
「ど、どうだっ、これがまかm……おおぅ」
さすがに立ってられん、回りすぎた……。だがこの断末魔、奴を仕留められたようだな。
皆に聴かせられないのが残念で仕方がない。
その後畑怨霊は塵となって消えた、周囲からは瘴気も消滅。
目を回していたアチキも回復し、クロに肩を貸して村へと戻っていった。
物の怪を討伐した事を聞いた村人たちは……聞かなくてもわかるだろう?
喜んでいたよ、もう一つの脅威が潜んでいることも知らずにな。
どうやらもうひと踏ん張りする必要があるようだ。
まぁ明日にはクロも回復するだろうし、何とかなるさ。
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