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あの日に帰りたい 1 side:王妃 ユーファーミア
しおりを挟む愛しい娘の行方が、確認できたのがつい数日前。
信頼出来る者…王宮騎士団の団長を務めるハルト・ユーカスに、異世界へ渡る方法の究明と同時に行方知れずとなった王女の捜索方法を検討させた。
現治世に反抗意識を持つ者はそれに難色を示していたが…私は諦められなかった。
愛しい我が子が、目の前で掻き消えるようにいなくなった瞬間。5年経った今でも脳裏から消えない。
欲しくて欲しくて、ようやく手にした小さな命は、失われはしなくとも、自分の手の届かない場所に行ってしまい、数年は失意のどん底にいた。
臣下の…王女を追って異世界へと旅立ったマリアの夫ハルトの言葉や、陛下が支えてくれなければ、今の自分はない。
いなくなってしまった我が子を想い、嘆き悲しむも、周囲は停滞を許してくれず…虚しい気持ちを持て余していた時に、また命を授かった。
嬉しかった…可愛いあの子にすまないという気持ちを持ちつつも、自分の中に宿った小さな命が愛おしかった。
大事に大事に育み…産まれてからも同じ過ちを犯さないよう、周囲になんと言われようと自分で育て教育した。
周囲を信じていないわけではない。
怖かったのだ。
自分の目の届かない場所で、我が子に何かがあるのが。
そんな…ある種追い詰められらたような日々を送っていた時…見つかったと報告があった。
まずは異世界へ渡るすべを…
そして…目の前で掻き消えたあの子の消えた先が……。
どんな手を使ってもあの子に会いたかった。
どんな手段を使っても。
だから…人でなしと言われても、王弟親子から魔力を吸い上げる許可を出した。
安定した治世…私利私欲の為、王位簒奪を目論み、私の…あの子の人生を狂わせたあの親子をどうしても許せなかった。
たとえ、尊敬する陛下の弟だとしても。
私は清廉潔白でもなければ、優しいわけでもない。
公爵家に産まれ、右も左もまだ判断がつかないような幼い頃に陛下と婚約。
私が陛下と…王家と婚約できたのは、ひとえに血筋故の事。
長命の種族の祖母の血を色濃く継いでいる故だった。
この国の婚姻では、長命の種族である事もだいぶ有利に働く。
婚姻を結べば、共に生きられるよう寿命が伸びる。
もちろん、長命が必ずしも幸せとは限らない。
けれどこの国の直系の王族はまるで義務のように長命な種族を求める。
私も例に漏れず…であろう。
そう思いつつ、婚約者としての日々を送る。
幼少の頃から、礼儀作法を始めた座学ももちろん頑張った。
3割の興味・知識欲、6割の貴族としての義務感、残りは諦めだった。
それでも、自分で言うのもなんだが、貴族の令嬢としてはだいぶまともだったと自負している。
夜会・茶会等必要以外でのドレスの新調は好きでは無かった。必要を感じなかった…というのが大部分だけれど、自分達の暮らしは領地の税で成り立っているというのは、だいぶ小さい時に学んだ。
実際領地にも行き、領民の暮らしぶりや仕事を見た。
みんなを幸せにするなどとおこがましい事は、口が滑っても言えないが、他の令嬢のように、好きなだけドレスを買うなんて出来ない。
そう頑なに思っていた頃、アドバイスをくれたのが、当時の王妃様(今の王太后様)の側近だった、マリアの母だ。
「ドレスやアクセサリーは貴族女性の戦闘服でございます。知識や作法は武器でございます。遠慮なく…とは言えませんが、領民を守るという自負を持ち戦うには、ある程度の装備は必要になりますよ」
国を…領地を守るのは男性じゃないのか…?
素直に思った事をぶつけてみた。
「社交は華やかに見えますが、戦場と変わりございませんよ?肉体の損傷こそありませんが、人によっては心を折られ、領地から出て来なくなった者もおります。魑魅魍魎が渦巻く…という点では社交という名の戦です」
目からウロコだった。
ダンスの講師や家庭教師には教えてもらえなかった事だった。
公爵家で社交の采配を振るうお母様に、聞いてみたら、寂しそうな顔をしていた。
「もう少し夢を見ていても良かったでしょうに…」と……。
事実を知り、いざアンテナを外に向けると、お母様の評判はすぐに入ってきた。
もちろん、万人に好かれる人はいないから、悪口と言われるものも聞こえて来たが、概ね良いお話だった。
公爵を支える立派な夫人だと。
凄いと思った…こんな形で役に立てるのだと、もしかしたら自分もそんな風に生きていけるかもしれない…そう思った瞬間だった。
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