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98、光と闇

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「精霊殿っ!」


黒い霧に纏わりつかれるソラに向かってロイスが叫ぶ。
魔物との戦闘時はいつも余裕そうな顔を見せる魔狼が苦戦している。
以前は毎日のようにジュリがブラッシングしていた白い毛並みが、あちこち赤く染まり始めていた。


『来たね。勇者……』


息を荒くした魔狼が一瞬笑ったように見えた。


「言われた通りジュリはマリーを付けて城へ……で……どうすればいい」


黒い霧のようなものは恐らく……いや絶対に闇の精霊の関係するであることは分かっているが、ソラがここまで苦戦するのだから、闇雲に戦ったところで消耗戦になることは目に見えている。


『簡単に言えば、祝福された剣で核となるモノを砕いてしまえばいい。もうは戻せない。女神の祝福が届かなくなってしまった……』








●〇●〇●




…-闇の精霊ー…



昔……いや今も……闇の精霊はこの世に普通に存在する。ただ、光の精霊と同じく数が少ないだけ。世のバランス故か、少ないけれど光の精霊と同等程度は存在していた。ただその性質故か、精霊の中でも孤立し……人間やその他の生き物にも忌み嫌われた。


『ワタシはナニもワルいコトはシテイナイ』


が……精霊自身もそう思ってはいても他の生き物は違う。


闇という言葉やイメージから嫌われることも多い。そしてそれは、闇の精霊の巫女となってしまった者にも多大な影響を及ぼした。


「こんな子私達の子供ではないわ」

「闇の精霊に選ばれたからといってなぜ捨てられるの?」

「何も悪いことはしていないのになぜこんな思いを……」

「お前が生まれたせいで一族が没落した」


数え挙げればキリがない。
ある者は黒目・黒髪で生まれてしまった為に親に捨てられ、ある者は巫女に選ばれたが為、婚約破棄の憂き目に遭い、ある者は道を歩いただけで石をぶつけられ、凶運の全ての責をなすりつけられる。


故に闇の精霊に関わる者は自然と短命な者が多くなる。


『寂しい……』


闇の精霊が巫女に選んだ者は、短命ゆえ同じ時を過ごせる期間が短い。


『どうしてヒカリだけが……』


光の精霊と巫女に恨みはない。
恨む理由はない。けれど……。


『ズルイ……なぜ……なぜ?どうして我々だけが?』

『闇と光は均衡を保たネバ……』

『なら…… ヒカリのにも同じ思いヲ』

『巫女ニモ同じ思いヲ』


全ては精霊以外の者から……
理不尽を嘆く精霊から……
永い生ゆえの寂寥感からきた思いだった。






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