私も異世界に転生してみたい ～令嬢やめて冒険者になります～

６６、魔術師の男

「王城内でしかチャンスがないというのにどういうこと？」


すっぽりとフードを目深に被り、華やかなドレスに身を包む令嬢に相対する男。
彼は王宮の専属の魔術師であり、王太子の学友で……今現在も王太子の側近として仕えている。


「そうは言っても……城内での魔術の使用はかなり消耗する上に難しいのですよ。まして、ロイス公爵が城につめるようになり、警備も厳重となって来ました。私の部下にも限度と言うものがあるのですよ」


イライラする令嬢が発する言葉を、のらりくらりと躱す男。


(この男も攻略対象なのよね……)


令嬢がそう思うも、ニヤけた顔が生理的に受け付けず、接触もこうして最小限にしている。けれど…………。


「ここしばらくの魔術使用についての報酬は勿論頂けるのですよね？まぁ、後日まとめてでもよろしいのですが…………」


全身を舐め回すような視線にゾッとするも、これは当初の契約の代償として約束したもの。既に何度か関係は結んでいるし、こう見えて男達は中々のテクニシャンだった。


「防音と結界はよろしく頼むわ……」


そう言いながら寝室に向かう。
この世界にも貞操観念というものはあるけれど、前世の記憶を持つ自分にとっては、化石化した考えにしか思えなかった。


(こんなに気持ちいいのに、なぜ我慢しなければいけないの？まして、前世とは違って魔術で避妊もできるのに……)


すでに寝室では香が炊かれており、これから繰り広げられる淫らな行為の準備が男の部下によってされていた。


「さあお嬢様……私達に身を預けて…………」


男の部下の手によってベッドに引きずり込まれた令嬢が短く声をあげる……。


(ふふっ……やっぱりここは私がヒロインの世界なのよ……ロイス様と婚姻できれば……と思っていたけど、この男も………………)












⚫〇⚫〇⚫




ドリスデン伯爵家より転移で城へ戻ると、そこにはすでにロイスが待っていた。


「お待たせした。ロイス殿」


礼儀があってないような二人でも一応は……である。


「で…………どうなんだ？」


帰ってきたばかりだと言うのにせっかちだなぁと思いつつも、早々に殿下にも報告書を上げなければいけない事を思うと、いいタイミングだったのかもしれない。


「例のお嬢様の件は順調だよ。ただなぁ、幻惑の魔術は暗示にかけ易くする為に、香も炊くだろ？あれ吸っちまうと結構キツくてな……」


ダルさを抜く為の薬草茶をのみ、ロイスの前に座り、改めて話をする。


「アレはクロだ。俺が潜ってからは被害は出ていないと思うが、あのご令嬢をこのまま放置するのは危険とみた。ロイス殿だけじゃなく、今後は俺や殿下まで手を広げるようだぜ？あの幻惑の魔術が効いている時は、心の中で考えてる事もペラペラ喋ってくれるしなぁ～」


『そうか……』と言ったまま考え込んだロイスを余所に魔術師の男は、書き上げた報告書を、手紙専用の転移陣に乗せ殿下へ送る。


「それよりさぁ、その侍従ちゃんに俺のことも紹介して欲しいなぁ～。なんか不思議な魔術使うんだろ？」


好奇心が顔を出してしまい、思わずニヤニヤしてしまったら、即却下された。
過保護かってーの。