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52、身だしなみは大事ですよ

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公爵邸で仕事を始めひと月。
ホントに侍従のようなことをするのかと思っていたのだけど、ロイさんは冒険者だけあって、身の回りのことはほとんど自分でできる。なので私の仕事は、もっぱら執務の補助と、適当に纏められ放置された……きちんと手入れすればとてもキレイな髪のお手入れ&日々の身だしなみ担当だ。


「ロイス様。ここに座ってじっとしていて下さいね」


使用人が当主を"ロイさん"なんて呼ぶことは出来ないので、他の人と同じようにロイス様と呼ぶのだけど、毎朝こうして鏡越しに顔を見る度に頬を赤らめられると、どうしたらいいのかと考える。


ここに来て仕事初めの日、支給された侍従のお仕着せを着て言われた通り、執務室に行ったのだけど……ロイさんに一言……


「いけない世界の扉を開いてしまいそうだ…」


などと言われ、今と同じく顔を赤らめられた記憶がある…………いけない世界の扉ってどれだよと聞いてみたい。


ちなみにその後、他の使用人にも同じような反応をされたのだけど、ボードウィルさん曰く……


『美少年……というか美青年という感じでしょうか。こんなことをご令嬢に言うのもいかがなものかと思いますが貴族にはも多くおられます。私共はジュリ様が女性だと分かっておりますが……ジュリ様の身の危険にも繋がります。安易に笑顔を振り撒かれるのはくれぐれもお控え下さい』


との事だった。けど、前世の私のように……今世のご令嬢方のように、日々美容を心掛けているのならばまだしも、今は何もしていないのだ。自分的にはかなり、自分の扱いは雑だと思うのだけど、これ以上どうしたらいいのか……。


「はぁ……私もロイス様みたいに髭でもあればいいんですかね……」


鏡越しに見える、顔半分が髭に埋もれたロイス様と目が合う。ロイスさんも髭を剃るか整えるかすれば、かなりの美形のはず……なのに、あまりモテててないように見えるのはきっと、この髭のせいだと思う。なら……と思っての発言だったのだけど、この発言はかなりドン引きされたようだ。


「ジュリが髭?急にどうしたのだ?」


ついつい話の流れで、今までのことを話す。
執事のボードウィルには登城する時は警戒するように言われていたけれど、どんな対策をとったらいいのか分からず、気が付けば侍従になって初の登城が明日へと迫っている。


「髭があれば…………あっ、いっそハゲてしまえばいいのか?」


ジュリの呟きに、ロイスが青くなっているのにも気が付かず、カツラでも被ればいけるか?などと呑気に考えている。


「いや……ジュリ、止めような?ジュリはそのままでいいと思うぞ。むやみに俺の癒しを奪ってくれるな……」


ロイスが何かブツブツ言っているけれど、いつものことだと流し、今日もいつものようにロイスの髪を整える。


(あぁ……なんだか色々面倒くさい……やっぱり髭かな?)


ロイスの呟きは、今日もジュリに届くことはなかったらしい…………。
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