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23、初めて尽くし

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トーマスさんの紹介で比較的リーズナブルな宿に泊まれることになった。一応、トーマスさんのお店の住居部分(一応客間)に泊まっても良いと言われたけれど、貴族&令嬢である事がバレていることもあり、宿屋に泊まることにした。


「初!宿屋宿泊!」


一人の部屋というのがなんだか居心地が悪くて変なこと言ってみたけど、令嬢として生まれてからは野営も宿屋に泊まることも……何もかもが初めて尽くしだった。
ここに来るまで色々な意味でドキドキもしたし、ワクワクもした……けど……。


「はぁ…………私、これからどうなっちゃうんだろ……」


前世の記憶を思い出したと言っても、小説や文献に残っているような凄い記憶でもないし、今世で役に立つような仕事をしていた訳でもない。大事なことなので、以前にも言ったことをもう一度……。


『自分は前世も今世もモブ。モブof theモブ』


今世、生まれこそは侯爵家という他人よりは恵まれた環境生まれ幸せだったのだろうと思う。けど……ふと考えることがある。


『前世を思い出さなければ、もしかしたらそれはそれなりに幸せに暮らせていたかもしれない』


きっと、貴族間の政略結婚や第二王子との婚約も幸せと思えたのではないか……と。


(なんの為に……っていうかなんで思い出したんだろう)


ポツンと灯されたランタンの灯りを見て呟く。思い出してしまったことをなかったことには出来ないし、今更母が待つ屋敷に帰るつもりはない。あの屋敷を出る時、ドレスと一緒にお嬢様であることも捨ててきた。
それを後悔はしていない。
今の自分では、あそこにいても幸せにはなれない。断言出来る。


(だって今はジュリエッタであってジュリエッタじゃないから)


粗末なベッドと小さなテーブルのみのがらんとした室内を見回し、またため息を一つつく。


せめて"相棒"と呼べる味方がいれば違うかもしれない。冒険譚ではよくある設定だ……けど。今の自分がどれだけの強さなのかも分からない内に無茶は禁物だ。私にとってゲームや小説の世界ではなく現実の世界だから、死んでも生き返らない。


「とりあえずは明日、冒険者ギルドに行こう。話はそれからね」


そう独りごち、部屋の四隅に結界石を起き寝支度に入った。本当はお風呂に入りたいけれど、この世界にはお風呂という概念がない。
なので、いずれは作りたい。別に面倒なことはないと思う。私は魔法が使えるし。

けれど、それは定住先が決まったらだ。そう……やっぱり


(もう……なんだか面倒くさいや……今日はこのまま寝ちゃおう……)


立ち上がるのも億劫になってしまい、そのままブーツとマントを脱いでベッドに入ってしまう。


(とりあえず、目標はマイホームかなぁ。持ち歩きできるマイホームなら世界を見て歩けるかなぁ……)


そんなことを思いながら、疲れていたのか珍しく夢もみず深い眠りに入った。
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