23 / 109
23、初めて尽くし
しおりを挟むトーマスさんの紹介で比較的リーズナブルな宿に泊まれることになった。一応、トーマスさんのお店の住居部分(一応客間)に泊まっても良いと言われたけれど、元貴族&令嬢である事がバレていることもあり、宿屋に泊まることにした。
「初!宿屋宿泊!」
一人の部屋というのがなんだか居心地が悪くて変なこと言ってみたけど、令嬢として生まれてからは野営も宿屋に泊まることも……何もかもが初めて尽くしだった。
ここに来るまで色々な意味でドキドキもしたし、ワクワクもした……けど……。
「はぁ…………私、これからどうなっちゃうんだろ……」
前世の記憶を思い出したと言っても、小説や文献に残っているような凄い記憶でもないし、今世で役に立つような仕事をしていた訳でもない。大事なことなので、以前にも言ったことをもう一度……。
『自分は前世も今世もモブ。モブof theモブ』
今世、生まれこそは侯爵家という他人よりは恵まれた環境生まれ幸せだったのだろうと思う。けど……ふと考えることがある。
『前世を思い出さなければ、もしかしたらそれはそれなりに幸せに暮らせていたかもしれない』
きっと、貴族間の政略結婚や第二王子との婚約もそれなりに幸せと思えたのではないか……と。
(なんの為に……っていうかなんで思い出したんだろう)
ポツンと灯されたランタンの灯りを見て呟く。思い出してしまったことをなかったことには出来ないし、今更母が待つ屋敷に帰るつもりはない。あの屋敷を出る時、ドレスと一緒にお嬢様であることも捨ててきた。
それを後悔はしていない。
今の自分では、あそこにいても幸せにはなれない。断言出来る。
(だって今はジュリエッタであってジュリエッタじゃないから)
粗末なベッドと小さなテーブルのみのがらんとした室内を見回し、またため息を一つつく。
せめて"相棒"と呼べる味方がいれば違うかもしれない。冒険譚ではよくある設定だ……けど。今の自分がどれだけの強さなのかも分からない内に無茶は禁物だ。私にとってここはゲームや小説の世界ではなく現実の世界だから、死んでも生き返らない。
「とりあえずは明日、冒険者ギルドに行こう。話はそれからね」
そう独りごち、部屋の四隅に結界石を起き寝支度に入った。本当はお風呂に入りたいけれど、この世界にはお風呂という概念がない。
なので、いずれは作りたい。別に面倒なことはないと思う。私は魔法が使えるし。
けれど、それはいずれ定住先が決まったらだ。そう……やっぱりいずれ。
(もう……なんだか面倒くさいや……今日はこのまま寝ちゃおう……)
立ち上がるのも億劫になってしまい、そのままブーツとマントを脱いでベッドに入ってしまう。
(とりあえず、目標はマイホームかなぁ。持ち歩きできるマイホームなら世界を見て歩けるかなぁ……)
そんなことを思いながら、疲れていたのか珍しく夢もみず深い眠りに入った。
0
お気に入りに追加
263
あなたにおすすめの小説
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど
七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。
あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。
そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど?
毎回視点が変わります。
一話の長さもそれぞれです。
なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。
最終話以外は全く同じ話です。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる