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73 少しずつ少しずつ
しおりを挟むお屋敷で眠る私の身体から完全に繭が無くなり、一見すると普通に眠っているように見えるけれども、丸一年経った今でも髪の長さも変わらず…お医者様によると筋力の低下もほぼない状態。
恐らくだけど、体重もおまけに身長も変わっていないのではないだろうか…と思う。
ちなみに……元の体重は乙女の秘め事なので内緒だ。
「宮田君、ご足労掛けたね」
今日は、宮田君が初めて崇ちゃんと美里ちゃんが住んでいるお屋敷に来た。
もちろん怜くんも来ているのだけれど、今日は宮田君がメインだ。
「つい最近まで陽香は繭に入っていてね…ようやく今の状態になったんだけど、誰も触れないんだ」
誰も触れない?
そうなの?????
不思議に思って話を聞いていると、繭が囲っていた距離ぐらいに近づくと直接触る事が出来ないらしい。
物体は通すらしく、今のところ食事も水分摂取も必要のない私の身体は、"お世話する"ことも無いので特に問題はないらしい。それにしても…不思議。ご飯も何もいらないんだぁ~なんて呑気に思っていたら、崇ちゃんが私を見てニッコリ笑った。
「まだ、ぼんからはそこまで聞いていないのか?陽香は恐らく俺と近い種族だ。入院中ハチミツを好んで食べていたろ?今はほら……花からエネルギーをもらっているようなんだよ」
崇ちゃんに言われて周りをみると、鉢植えの花に花瓶に生けられた花が数か所飾られていた。
私を肩に乗せている宮田君もきょろきょろと室内を見回している。
「陽香も、この屋敷の家妖精を知っているだろ?彼女がね、いつも君のお世話をせっせとしてくれているんだよ」
へぇ~なんて呑気に頷く私とは違い、きっと初めて見るファンタジーな世界に驚いている宮田君が、ボソッとスッゲェーと呟いている。ワクワクしている宮田君の横顔を見ながら、眠る私の周りでフワフワしている光に、お礼を言いに行ったら、恥ずかしそうに崇ちゃんの後ろに隠れちゃった。
色々…まだ実感もなくいるけれど、これが私のこれから生活する世界なんだなぁ…としみじみ思いつつ、宮田君のところに戻ると、そっと手を出されたので、大人しく手のひらの上に座った。
気分は親指姫だ。親指より大きいけど。
「今日、宮田君を呼んだのはね…陽香と縁を結んだ宮田君だったら、陽香の身体の周りにある見えない囲いを外せるんじゃないかと思ってね。我々も未経験な事ばかりで手探り状態なんだ。やってみてくれないか?」
繭の囲いが無くなり、数日は良かったのだけれど最近は花の萎れ方が通常の速さになって来たらしい。
ちなみに…繭が無くなった頃は切り花を飾っても一時間も持たなかったらしい。
怖いよ…私の身体……。
「きっと、そろそろ通常の栄養摂取に戻ると予想しているんだ」
そうか…どうやら普通に戻るらしい。
ちょっと安心した。
「身体が通常に戻るならば、介助が出来ないのは難点どころの話しじゃなくなるからね」
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