上 下
37 / 70

37、モテないわけじゃないよ

しおりを挟む

朝は通常通りに起きて活動する。
ミレーユは昼餐後に登城するらしく、その後の色々を考えると今日会うことは難しいかと思い、本当にいつも通り……窓の外やドアにちらちらと視線がいってしまうのはしょうがないと割り切ってもらい、普段通りに執務をこなした。


「疲れた……」


思いがけず計算が全然違っている書類を見つけてしまい、徹底的に間違い直しをしていたら、気が付いたらだいぶ遅い時間になっていた。この書類を作った奴は俺を試してるんじゃないかと思うほどあちらこちら間違っていた。トマスに指示して部署異動を命じなければ…なんて思いつつそろそろ夕食の時間かと思い机の上を整理していると、ドアをノックする音が聞こえた。


いつも通り、ドアの前には警備がいるので、不審人物ではないだろうと、入室の許可を出したのだけれど一向に入ってくる気配がない。不審に思い、ゆっくりこちらから開けたら、真っ赤な顔をしたミレーユが立っていた。


「えっ…はっ?え…あの、とりあえずどうぞ」


思わずどもってしまったけれど、ドアを少し開けたままミレーユを部屋に招き入れソファに座る事を勧め、控えている者に飲み物を頼む。マナーとしてこれは間違っていないはず…多分。


「ミレーユ嬢……婚約破棄から始まって今回の登城のこと…色々と申し訳ない」


謝らなければいけないことが多すぎて、何をどう詫びたらいいのか分からない。
とりあえず謝ってしまったが、彼女は気を悪くしたんじゃなかろうか?
いきなりの訪問で緊張しつつ考える。


しばらく無言の時間が流れた時、またノックの音が聞こえる。給仕の者だろうと思って許可を出すと、カートを押しながら入ってきたのはトマスと侍女が一人。


「殿下、お仕事お疲れ様でございます。先ほど給仕の者がおりましたので途中から変わりました。毒味は済んでおります」


そう言って、俺に座るように促しミレーユにもお茶を勧める。


ちなみに…安易にそこら辺の者にお茶を頼むなと、こってり怒られた。
ミレーユの前で言わないだけ、一応俺のプライドは考えてくれていたようだ。



●〇●〇



「殿下…ミレーユ様とお話は出来ましたか?」


分かっているだろうに聞いてくるトマスに思わず舌打ちをしてしまった。


「はぁ…わかってるだろ。あんな感じで話しなぞできなかったよ。兄上の婚約破棄からの始まって、今回の登城の要請を謝ったくらいで終わった。それもいきなりの事だったから、すまなかったとしか言えなかった」


ため息をつきながら話しをする。
執務で疲れて、緊張して疲れる。


「何だかな…女性とまともに話す機会も今まで無かったからかだいぶ緊張した」


モテないわけじゃない……こう見えてみイケメンらしいし王子だし。
けど、今の今まで女性を避けに避けて来たのが裏目に出てしまったらしい……思わず苦笑いしてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき
恋愛
騎士のロバートに一目惚れをしたオリビアは、積極的なアプローチを繰り返して恋人の座を勝ち取ることに成功した。しかし、彼はいつもオリビアよりも幼馴染を優先し、二人きりのデートもままならない。そんなある日、彼からの提案でオリビアの誕生日にデートをすることになり、心を浮き立たせるが……。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...