夢見るネコの私とあなた

３８

「サクラは……？」



目覚めてから数日。
しばらく昏睡状態だったこともあり、検査で異常がなくても念の為……と言って、すぐには退院とはいかず……今日は朝食の後にもう一度検査があり、午後からはリハビリ。今日の検査でなのも無ければ、明日退院の運びとなった。


昏睡状態から目覚めて以降、先輩からサクラの話題が出ない事に気付き、リハビリ時間前に見舞いに来てくれた先輩に、思い切って聞いてみたのだけど、思いがけずだんまりされてしまった。


サクラは…もしかしたら、私のせいで死んでしまったのだろうか？
目覚める前に、夢のような世界から私を…この現実世界に引き戻してくれたサクラ。
もしかしたら……


「いやいやいや、及川さん？サクラ死んでないよ？大丈夫！」


私の沈んだ表情をみて悟った先輩が否定する。


「いやね…及川さんが目覚める前、サクラもこの病室にいたんだよ。けど、いたはずのサクラはあの後いなくなっていてね…。俺も及川さんと…多分同じ想像をしながら家に帰ったんだけどさ……玄関開けたらさ…いたんだよ…サクラが。いやさ…、ここしばらく色々な不思議に遭遇してたけどさ、連れてきたはずのサクラが自宅にいたのはかなりの想定外だったよ」


以前の『サクラ』はすっごい頭のいい猫だったけれど、今のサクラは…まぁ…感情豊かな普通の猫になったらしい。
普通にエサのおねだりをして、あちこちで爪を研ぎ…中々に壮絶な部屋になったらしい。
ここ数日は慣れてきたのか、そういったことも段々減ってはきたらしいけれど。


「以前の『サクラ』は、及川さんだったんだなぁ…なんて実感したよ。今のサクラは普通の猫だけど」


しみじみと話す先輩。
多分…『ネコの私』との短い生活を、先輩は楽しんでくれていたのだと思う。
もう戻れない…というか、戻りたくはないけれど…それはそれで嬉しかった。


「帰ったら、サクラにお礼言わなきゃ……」