14 / 39
14
しおりを挟むサクラがいなくなって一週間。
時間があれば、公園や裏路地、サクラを拾った病院付近も捜したけれど猫一匹見つからない。
って…サクラも猫なんだけど。
富川製作所を辞め及川さんの件で色々動いた後、以前友人と立ち上げて社外取締役として籍を置いていた会社に、社長取締役として就任することになった。
まぁ、社長といっても社員が10人もいない小さなIT開発系の会社だ。
父親には、富川製作所を辞めたことを結構ネチネチ言われたが、沙耶香の件が週刊誌に出た途端口をつぐんだ。極秘に調査会社を使って個人的にも色々調べたようで、その後はほんとに何も言わなくなった。
及川さんのことは、入院先に勤務している健吾叔父に聞きにきたらしい。
叔父さんから「恋人らしいぞって言っておいたからな」となんだか含みのあることを言われたけれど、今の俺からは何も言えることはなかった。
入院中の及川さんは意識が戻る気配はない。ないけど……時々涙を流しているらしい。
何故かはわからないけれど、多分おそらく生理的なものだろうということだった。
先生の話では、完全な植物状態ではないから、目覚める確率はかなり高いということで、ちょっとホッとしている。
⚫〇⚫〇
先輩の部屋から飛び出してどれぐらい経ったんだろう。
夜は近くの公園の茂みの中とか、どっかのお宅の軒下とかで寒さをしのぎ、昼はなるべく他の猫がいない路地を選び、情けないけど…ネコだからしょうがないと自分に言い聞かせ、飲食店で出す生ごみを漁る。
これからきっとネコとして生きていくのなら、こういうのも普通にやらなければ生きていけないのだろうと思う。けれど……どうしても元の人間としての常識と価値観が邪魔をして躊躇してしまう。
そんなことを何日も繰り返していたら、気が付けば水だけを舐めて過ごす日ばかりを送っていた。そんな日を何日も過ごせば当たり前に体力も底をつく。
――はぁ……もう限界かも…でも、自分で選んだことだから。人間でもネコでもやっぱり一人だったな……――
かすむ意識の中、短いのか長いのか判断の付かない今までの人生を思う。
走馬灯ってホントに見られるんだぁ…なんて思うも、その走馬灯の中の自分は、よく見ればばいつも一人だった。
きっと、前世でなんか悪いことしたんだろうな……。
もしそうなら、前世の自分を呪ってやりたい。私はただ普通の幸せが欲しかっただけなのだ。
特別じゃない……朝起きたらおはようと言える家族がいて、ごく普通の会社で仕事をして、家に帰ると一緒に夕ご飯を食べる相手がいて、おやすみと言って暖かいベッドに入る。
この日本に住んでいれば、自分が想う幸せは、そう苦労せずとも手に入りそうなのに。
とうとう私には手に入らなかったな……。
青い空を見上げ、そう思いながら目を閉じた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説





私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる