11 / 39
11
しおりを挟む「おまえさぁ……」
仙川と会社近くのコーヒーチェーン店で待ち合わせて、昨日のあれからの事を聞く。
昨日、息つく暇もないほどの速さで退社した俺だけど、あれで正解だったのだと仙川からの話で理解した。
及川さんの件に関しては、あの場にいなかった役職者には文書が回ったらしい…けど、内容は事実とは異なり……及川さんが沙也加に詰め寄り勝手に転落と捻じ曲げられていたらしい。偶然、文書を受け取ったのがあの沙也加に詰め寄っていた子らしく、予想通り激怒したらしい。
富川親子の予想通り過ぎる行動に、笑う気力さえない俺は仙川に、今後の事をおおまかに話した。及川さんの治療の事も含めて……。
「さっき弁護士とも話したんだけど、この件に関しては民事・刑事どちらも対応できるように準備していた方がいいって……」
どこに誰の目があるか分からないし、仙川をどこまで信じていいのかも、今の自分では判断できず、重要な話は避けて説明した。
起訴前に内容が漏れたり、先手を取られると及川さんや俺に不利になるかもしれないから、極力誰にも話さないように念を押されてきたからだ。
「まぁ…さ、俺が何言ってもしょうがないのは分かるんだけどさ、あんまり突っ走んなよ。あの親子には、富川さんと付き合っているって言ったんだろ?けど、それだって、結局は他人だろ?」
俺のことを考えて言ってくれているのは分かるけど、あんまりな良いようにカチンときた。
確かに他人だ……他人だけれど、心配しちゃ悪いのか。家族がいない及川さんに…昏睡状態で何もできない及川さんに何ができるって言うんだ。
グルグルグルグル…頭の中を回る言葉に疲れてしまい、仙川とはそこで別れた。
その後は、予定通り及川さんが入院している病院に行き、受付にはあとから弁護士が手続きに来る旨を伝え集中治療室に向かう。
治療室に向かうにつれ、病院の雰囲気がなんだかおかしい事に気が付き耳を澄ますと、聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。
「あなた、いつまで寝たふりしてんのよ!この泥棒ネコ!あんたがいなければ絶対私と結婚していたのに!こんなんなるんだったらもっともっといじめてやればよかったわ!あんたなんか死んじゃえばよかったのよっ!」
聞き捨てならないセリフを聞いて、止めに行こうと足を踏み出した途端、後ろから肩を掴まれた。
「今は出ない方が良いんじゃないか?」
そう言って、健吾叔父が行ってくれた。
結局このあと沙也加は警察に連れて行かれたのだが、この時の防犯カメラの映像・会社の防犯カメラの映像と、証拠品としてあげられ、裁判にまでならずこの件は沙也加側の負けとなった。けれど……。
あれから一ヶ月、いまだ及川さんの目が覚める予兆はなかった。
身体に異常は見つからず、自発呼吸もできているというのに……。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説





私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる