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しおりを挟むK大病院に着き、受付で及川さんの病室を聞く。まだ集中治療室から出られないらしく、家族しか中に入れないと言う。
でも、彼女は一人だ。
養護施設出身という事はそういうことだろうと思い、ここに来るまで考えていた事を実行する。
「彼女、養護施設出身で家族がいないんです。で…俺、今彼女と付き合ってて……」
嘘も方弁だ。
及川さんが目を覚ましたら謝ればいい。
それを聞いても渋る受付に痺れを切らし、最後の手段を使おうかと思っていた時、後ろから声を掛けられた。
「よう、恭介。今日はどうした。風邪か?」
この病院に勤務する叔父の健吾だった。
「先生、いいところに!昨日搬送されて来た患者さんなんですが、施設出身の方らしくご家族がいないらしいんですが……」
顔を見たい、付き添っていたいと言ったら、健吾叔父は渋々了承してくれた。
ただ、あとで話があるから帰る前に連絡寄越せと言って、病棟に戻って行ったらしいんです。
⚫〇⚫〇
心電図を付け、腕には点滴いくつか繋がっている。奇跡的に大きな外傷は無く、腕を手摺かどこかに打ち付けた時に骨折したであろう腕が、痛々しく腫れ上がっていた。
名残り惜しいけれど面会時間も終わりだということで、叔父に連絡をする。
色々聞かれるであろうことは予想しているけれど、どうしたものか。
考えている内に、救急入口の椅子に座る俺の横に叔父が座る。
「お前に彼女がいるって聞いたのは初めてだな。俺の知らんとこでしっかりやることやってんだな」
と、伺うように俺を見る。
お見通しってとこなんだろうけど、ここは言い切らないとな。
「誰にも言ってない。周りが煩いから。特に沙也加がな……。まぁ…今回はその沙也加がやったらしいけど」
それを聞いた叔父が、どういう事だと聞いてくる。
今回の…この事件以前の事をざっと話す。
この件だけはまだ何も確認していないので、言及は避けさせてもらったが……。
「はぁぁぁ…またあの子か。毎度毎度、お前も大変だなぁ」
そうボヤく叔父は、また今度詳しくな…と言い置いて、今日は引いてくれた。
今の俺では誤魔化しきれないので、正直助かった。
そのあと、受付により緊急連絡先に俺の番号を書き入れ、入院の手続き等々は会社と話し合い、後日正式に記入する旨を伝えて、仮の書類に保証人欄に自分の名前を書く。
「はぁ……どれ、一度会社に戻って色々詳しく聞くか」
そう独りごち、病院前の横断歩道を渡ろうとした時、植え込みの所に所在なげに座り、俺に話し掛けるように、にゃあにゃあと鳴く小さな三毛猫がいた。
野良かと思い、構わず歩いていると微妙な感覚でついてくるネコ。
ここままでは会社についてきてしまいそうなので、シッシと追い払うも、労力の無駄だったらしい。
「なんだお前、飼い主はどうした」
なんて話し掛けても応えるわけもなく…と思っていたら、にゃあにゃあと必死で鳴く姿に、張り詰めていた気持ちが、少し緩んだ。
「ごめんな。これから会社なんだけど、お前、待っていられるか?」
意思疎通できそうな気がしたので、言ってみたら、元気よく鳴いたので、会社の守衛室に一時預け、営業フロアに戻る。
「おぉ、戻ったか」
戻った途端、仙川に声を掛けられ伝言を受け取る。
『戻り次第社長室へ』
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