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しおりを挟む仙川と話した翌日から急に北海道へ出張になり、今日久々に営業部へ顔を出す。
及川さんのほんわり笑顔が見たいと思っていたあの時の『明日』は来ない事を、今朝の騒ぎで知った。
「私もう我慢できません!」
営業部のフロアで対峙する女性二人。
一人は…及川さんと同期の子と…………。
確認してため息をつきたくなった。
また沙也加か……。
また……そうまたなのだ。
あの我儘お嬢様は、自分が一番じゃないと気が済まないくせに、仕事が出来ない。
そのくせプライドだけは高く、努力を嫌う典型的なお嬢様だ。
「世間を学べ」と社長である父親に、この富川製作所の営業部へ放り込まれたらしいが、未だ効果なし…というか、人材的には損をしているんじゃないかというくらい、周囲が疲弊している。
言わずもがな全ては、出来ないのに出来るふりをして、帳尻を合わせる為に周囲に押し付ける沙也加が悪い。
社長も社長で何を考えているのか……。
親バカの考える事はよく分からない。
「私見たんです。昨日、及川さんのこと階段で突き飛ばしたの富川さんですよね?しらばっくれてもダメなんですから!私以外にも富川さんの声と、及川さんが降ってきたのを見てるんですから!」
泣きながら叫ぶように話す内容に、唖然とする。え?今及川さんって?降ってきたってどういうこと?
話が見えず訳が分からないので、近くにいる子に声を掛ける。
「ごめん、ちょっといい?これってどういう事?」
「昨日もいつも通り富川さんが、及川さんのこと虐めててたみたいで…資料が入った箱を持たせて最上階まで行かせたみたいです。同期の子が、手伝おうと思ってそのあとを追いかけて行ったらしいんですけど、その時に…」
言い争いのような声が聞こえて、そのあと螺旋階段の隙間を縫うように及川さんが降ってきたらしい。
「で、及川さんは?」
肝心の及川さんのことが分からず、聞くと…
「昨日、病院に救急搬送されたらしいけど、そのあとは……」
病院に搬送された以降の事は聞いていないという彼女に礼を言って、人事部に向かおうとしたところで、仙川に声を掛けられる。
「おい、どこ行くんだ」
無視して進もうとする俺を押し留め、会議室に入る。
「人事部に行く気だったんだろ?」
俺の行動を読んだような事を言う。
「及川さん、K大病院に運ばれたらしいぞ。ちなみに…意識不明の重体だ」
身内でもないお前が行っても、面会出来ないぞという仙川の忠告も聞かず、足は病院に向く。
「わりっ、今日は有給出しといてくれ」
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