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「ここは……」


またあの場所に来てしまったのか。あの暗い一本道に。
思わずため息をつく。やらなくてはいけない事があるのに、今はなんだか…。


『もう一度この空間に来たら、また呼んで下さいね』…と言っていたあの三人を思い出すけれど、今は―…一人になりたい…かな…―


カール殿下が…真純君が結婚…か。
前世では辛うじてそのタイミングには出会っていなかった。
自分が死ぬ直前…社長には『プロポーズされるんじゃない?』みたいなこと言われた気もするけれど、今となってはそれも怪しいものだ。
考えてみれば、市川みのりとして生きていたあの頃、真純君に会ったりはしていたけど、デートらしきモノに誘われた記憶もない。


もしかして…あの頃ちょっと期待していた『両想いかもしれない』という期待は幻想だったのではないか?
今考えるとそのような気がしてきて、とても恥ずかしい。
あの頃の自分を殴ってやりたい気分になる。


『両想い』は勘違いだよ………って。


ここでうだうだ考えていてもしょうがないのは分かっているけど…まだ真純君の顔は見たくないかなぁ…未練たらしく泣いてしまいそうで怖い。
今まで、真純君の前では泣いたことなかったのに……。
まぁ…自分にできることはそれ位しかできなかったからしょうがなかったんだけど。


さすがに、まさきにいの葬儀では泣いたけど、それからは泣かないって決めていたからね。
ちょっとした願掛けだ。真純君が笑っていられるようにって……。
本人が聞いたらウザい願掛けなんて言われそうだったけどね。


どうしようもない思考のループの中、また泥沼のような気持ちの中に沈み込みそうになった時、ふと視線を感じて後ろを見る。
気のせい?
今日はまだこの空間に誰も呼んでいないはずだし…。


そう思うけれどやはり見られている気配は消えず……。
思い切って、視線を感じる方向に歩いて行ってみると、扉が一枚あった。
暗い空間にただ一枚だけ。


“入って……”


声のようなモノが聞こえたので、思い切って開けてみると…そこは執務室のような部屋で、窓際の机には少女が一人座っていた。


“こんにちわ”


声とはまた違う聞こえ方に違和感を感じながら、挨拶を返し自己紹介をする。



“もう疲れちゃった?”



何のことか分からず聞き返すと、疲れたからここに来たんじゃないか?と言われ、思わずその通りかも…と思った。



“歪みはまだ消えないの。でも、あなたはその歪みを正したくはないのでしょ?”



言っていることの主語がないせいか、意味がイマイチ判らない。
この子がいう歪みとは誰の歪みなのか?安易に返事をすると大事になりそうで、迂闊に話せない。
こういう時、まさきにいがいてくれると助かる…なんていつも甘えっぱなしな自分に気が付く。
こんなだから本命と思ってもらえないんだろうな。


落ち込みながらも少女をみると…


“あなたにを少し貸してあげる。あなたの世界には適材適所って言葉があるのでしょ?だから…少しだけ交代。この本には、あなたができること・やりたいことだけが書かれているの。少しだけ貸してあげるね?”


そういうと、さっき私が入って来た扉から出て行ってしまった。


あの子は誰?
あの少女が一緒にいる時には持たなかった疑問がムクムクと出てくる。
そもそも、この空間は何?


疑問しか出てこない脳内を落ち着けようと、先ほど少女に手渡された本をぱらっと捲る。
いったい何が書いてあるんだろう?

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